第132話 システム
※作者から
この「システム」というお話はなろう掲載時に挿絵を前提として作られたお話です。
近況ノートの方に当時の挿絵を掲載しておきますので、興味のある方はどうぞ。
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数日後。
竜の雛のメンバー協力の元、ヨハンとメイのレベルを50まで引き上げる作戦が実行されようとしていた。
「じゃ、図を用いて説明するわね」
―図―
ミーティングルームにて、メイ相手に今日の作戦を説明するヨハン。
ホワイトボードにはアマテラスシティ南東の【退廃の草原】の簡単な地図が表示されていて、モンスターの分布エリアごとにA~Kのアルファベットが振られていた。
「まずコンちゃんとドナルドにはA地点のモンスターたちを一カ所に集めておいて貰うわ」
ヨハンとメイはクロノドラゴンに乗ってA地点に移動。
二人とパーティを組んで、ヨハンの火力で集めたモンスターを殲滅。
そしてパーティを解除。ヨハンとメイはクロノドラゴンと共に、今度はF地点へ移動。
コン、ドナルドはB地点に移動し、モンスターを誘導、集めておく。
F地点ではゼッカとレンマがモンスターを集めてあるので、再びパーティを組みヨハンが殲滅。パーティを解除し、ヨハン、メイはクロノドラゴンに乗って、コンとドナルドが待つB地点へ。
ゼッカ、レンマはG地点に移動し、モンスターを誘導、集める。また、もし先に別のプレイヤーがいた場合は、臨機応変に別の地点へ移動し、連絡をする。
「これを繰り返して効率良くモンスターを撃破していくわ」
「はわぁ……凄い。なんか軍隊みたいですね」
クロノドラゴンの機動力とヨハンの超火力、あとはメンバーの協力がなければ成り立たない作戦だが、これならば効率良く経験値を入手することができる。
「でも、ヨハンさんらしくないですね。いつもは効率良くプレイするの嫌がるのに」
「まぁ……会社でいつも言われるからね。効率とか生産性とか……」
だからゲームくらいはそういったことを考えずに、気ままにプレイしたいというのがヨハンの本音なのだが、今回ばかりは違った。
「でも【融合召喚】を早く使いたいのよね」
「わかります!」
「だから、一生懸命考えたの」
まだ手に入るEXスキルが【融合召喚】と決まった訳ではないのだが。
「なるほど。あーあ、こんなに凄い計画があるなら、やっぱりオウガも来て欲しかったなぁ」
今日のレベル上げ作戦に、オウガと煙条Pは不参加だ。
煙条Pに関しては奥さんと娘が風邪にかかってしまったため、仕方がないのだがオウガは違った。
メイの話によると、クロスやゾーマたちとプールに出かけているらしい。メイはもともとオウガたちとは違うグループに所属しているので、声がかかることがなかったのだ。
「ふぅん、それじゃあ……お楽しみは女子二人だけで独占といきましょうか!」
「よ、ヨハンさんそれは!」
ヨハンはニヤりと笑うとストレージからやたらとゴージャスな瓶を取り出す。
メイはそのアイテムを知っていたのか、驚きの声をあげた。
「か、課金アイテムの【ハイパーEXPポーション】じゃないですか! し、しかも二本も……ボーナスですか!? ボーナスが出たんですね!」
「落ち着いてメイちゃん。ちゃんとボーナスは出たけれど。これを買ったのは私ではないのよ」
ハイパーEXPポーション。一本4800円する究極のレベルアップ補助アイテムである。
GOOは基本料金、月980円で遊ぶことができる。だが、これとは別に、お金を払うことで購入することができるアイテムが複数存在する。
所謂【課金アイテム】と呼ばれるものだ。だが、課金アイテムとは言っても、それがなければ勝てないレベルの強さのものは存在しない。
一万円払って手に入る装備でも、生産で作れる最強クラスより、一歩劣るくらいの性能である。
GOOにおける課金アイテムの意義は、ゆっくり遊ぶ時間はないが、金銭に余裕のあるプレイヤーが時間に余裕のあるプレイヤーに追いつくための側面が強い。
そんな代物をなぜヨハンが持っているのかというと。
「友達に貰ったの」
「こ、こんな高級品をくれる友達……はわわ」
メイは渡されたハイパーEXPポーションを宝物でも扱うかのように受け取ると、慎重にストレージに収納する。
ハイパーEXPポーションの効果は使用から1時間の間、取得する経験値が20倍になるというもの。
4800円という高過ぎる代償を支払うだけあって、得られる効果も強大だ。ただ、デメリットというわけではないが、このポーションを使用できるのはレベル50まで。
つまり、竜の雛の中ではヨハン、メイ、オウガ、煙条Pとなる。
「さ、それじゃあ場所を移動しましょうか」
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「それじゃあヒナドラ、進化よ!」
「もきゅ!」
第4層へと移動したヨハンは、早速ヒナドラを呼び出すと【進化召喚】を発動した。
そして、クロノドラゴンに乗り込むと、コンとドナルドが待つAの地点へと飛んだ。
空中でメイと協力し、ヨハンに掛けられるだけのバフを掛ける。これで準備は完了といったところか。
「見えてきましたよ、ヨハンさん!」
「そうね、それじゃいきましょうか」
A地点の上空に到達すると、二人は【ハイパーEXPポーション】を飲み干した。ここから一時間、どれだけ多くの敵を倒せるかの勝負となる。
地上ではコンとドナルドが【アタックステゴ】という恐竜型のモンスター8体と戦闘をしていた。第4層のモンスターというだけあって、非常に強いモンスターなのだが、コンもドナルドも上手く立ち回り、倒さずに数をキープしている。
ヨハンはそんな二人に感謝しつつ、パーティ申請を送る。
申請はすぐ受理される。これで、これからヨハンが行う範囲攻撃の巻き添えにならずに済むのだ。
「クロノドラゴン、もう少し高度を下げて……いいわ」
クロノドラゴンが地上に近づくと、ヨハンはスキルを発動させる。
「行くわよ! メテオバード――【メテオレイン】」
ヨハンが叫ぶと、空から5つの火球がアタックステゴ目掛けて降り注ぐ。
強化されたヨハンのステータスから放たれる攻撃は、敵に大きなダメージを与える。
「どう?」
「駄目です。まだ一体も倒せてません」
「むっ……流石は第四層……雑魚モンスターもひと味違うわね」
今までの階層ならば瞬殺だっただろう攻撃では決定打にはならなかった。だが、全くダメージが通っていない訳ではない。
「このまま押し切るわよ――【メテオレイン】【メテオレイン】【メテオレイン】【メテオレイン】【メテオレイン】……」
ヨハンはここで、残り9回のメテオレインを一斉に発動させる。5×9。A地点には45個の火球が一斉に降り注ぐ。
その様子はまるで地球滅亡。空が炎の色、真っ赤に染まる。流石のアタックステゴも耐えきれる訳もなく、あっけなく全滅した。
「こんな景色、洋画で見たなぁ」
「ラグナロクかしら☆」
「ハルマゲドンかも……」
所謂【終末】のような光景を、地上のドナルドとコンの二人は遠い目で見つめていた。ダメージこそ受けないものの、その熱風は凄まじい。
「ありがとー!」
「次もよろしくお願いしまーす」
ヨハンはレベル43。メイはレベル44に上昇したのを確認すると、地上の二人にお礼を言って、A地点を後にする。
目指すはゼッカとレンマの居るF地点。
「頑張ってな~」
「それじゃ、ワタシたちも行きましょうか~☆」
「ヨハンさん、行けますよこのシステム」
「ええ、それじゃああと55分。頑張っていきましょう!」
そして、クロノドラゴンに乗った二人を見送ると、コンとドナルドはモンスターを集めるため、B地点に移動するのだった。
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