第131話 融合召喚
次の日。
闇の城のミーティングルームに向かうと、意外な人物が出迎えてくれた。
「えっと……」
「クリスターです。久しぶりですね」
猫耳に青い軍服を装備した黒い髪の少女、クリスターだった。足と腕を組んで、どこか偉そうに腰掛けている。
敵意むき出しの目でヨハンを睨んでいるものの、その表情はどこか疲れ気味だ。
ギルティアから聞いた話によると、最果ての剣の新しいギルドマスターになったらしいので、それで疲れているのだろうとヨハンは考えた。
「いらっしゃい。それで……」
何故彼女がここに? と、クリスターの向かいに座るコンに目で尋ねる。
「ああ、実はピラミッド見つけたのウチやのうてな、この子なんよ」
「ふっ」
どうだ! とばかりに胸を張るクリスター。
アマテラスシティの南西、ムゲン砂漠を越えた先にそびえる、ピラミッド。
そこでは超高難易度クエスト【巨大合成墓地ピラミッド】を、レベル50以上の召喚師が受注できるらしい。
「東のサイバー江戸城には弓使い専用のクエスト【超未来江戸城】。北西のバベルタワーには槍使い専用のクエスト【究極螺旋突破バベル】。後はこの前魔王はんが見つけた剣士専用のクエスト【剣聖召喚領域アステカ】。おそらくやけど、他の職業にもそれぞれ専用の超高難易度があるはず」
「実は最果ての剣に超近未来江戸城をクリアした人が居るのですが。なんと弓使い専用の【EXスキル】をゲットしたらしいんです」
「EXスキル!?」
エクストラスキル。それはスキルを超えたスキル。各職業の新たな必殺となるべきスキルということらしい。
「その名も【破魔矢招来】。強力なダメージを与えることができる矢を生み出せるスキルらしいです」
「それで、召喚師のEXスキルはどんなものなの?」
ヨハンの質問に「あくまで予想だけど」と付け加えて、クリスターは話す。
「【融合召喚】ですね。決められた同じ級のモンスター二体を合体させて、一つ上の級の召喚獣を呼び出す」
「融合!? それは確定なの?」
ヨハンは目を輝かせてクリスターに尋ねる。
「だからおそらくって言ったでしょう」
「まぁ、根拠はあるんよ。なんでもな、超未来江戸城のボス【百代目将軍・徳川メカ康】も【破魔矢召喚】を持ってはって話。なぁ?」
「メカ康!?」
徳川メカ康について詳しい情報が欲しいヨハンだったが、話は流れるように先へと進んでいく。
「ええそうです。実は単独でピラミッドに挑んだんですが、中ボスの【神官】が使ってきたんです。【融合召喚】を」
「元最強ギルドのギルドマスターが情けないわぁ……おめおめと負けて戻ってくるなんてなぁ」
コンの煽りにこめかみをひくひくさせながら、クリスターは応える。
「超高難易度はその名のおとり、今までのクエストとはレベルが違うんですよ! 貴方たちだってソロで行けば同じ目に遭いますよ!」
「あの、情報を伝えてくれたのは嬉しいんだけど……なんで私たちに?」
ヨハンをしても【融合召喚】というスキルはかなり強力に思える。もしクリスターがこの情報を掴んだなら、自分たちに教えるのは妙だと思ったのだ。
ヨハンのクリスターへの印象として、身内だけで情報を隠して、他の召喚師より優位に立ちたがるはずとヨハンは考えた。
だが。
「プププ。あんまり天然で煽ったらあきまへんよ、魔王はん」
「え、べ、別に私、煽ってなんていないわよ!?」
「その気はなくても煽りに聞こえるわな? なんせ【最果ての剣】の召喚師はあんただけやし?」
「ええ、そうだったの!?」
「そうですよ悪いですか!」
クリスターは顔を赤くして叫ぶ。今のGOOではこれまでの因縁を知らない新規の召喚師が増えて来ているものの、その殆どがまだ第一層、二層付近を楽しんでいる最中だ。
「私だって勧誘はしてるんですけどね。でも何故か『【最果ての剣】は召喚師を敵視しているから入っても冷遇される』って、下層で噂がされてるんですよ」
召喚師であるクリスターが新しい最果ての剣のギルドマスターになったのも、そういった以前のしがらみを消し去りたいという皆の思いが強かったからだ。
一方で、ヨハンという最強の敵打倒のため、召喚師を身近に置いて情報を得たいという思惑もあるにはあるのだが。
「そもそも、ギルマスが召喚師なんだから、少し考えればそんな噂ガセだってわかるでしょうに……うぅ、一体誰があんな悪評をばらまいているんだか」
「さぁて、誰なんやろうねぇ? 不思議やなぁ」
(絶対コイツだ……)
ニヤニヤと愉快そうに笑うコンを見て、何かを確信するヨハン。
だが、ヨハンは世の中には思っても言わない方がいいこともある……ということを知っていたので黙っていた。
「というわけで、ここはあなた方に協力を申し出たく、ここまで来たんです。何せ、ここにいる三人がそのままGOOサモナーのTOP3ですからね」
「あらまぁ確かに。で、ナンバー1は誰なん?」
「フッ。それは言うまでもないでしょう?」
「まぁ、そうやねぇ……おほほほほ」
「ふふふふふふふ」
(この空間怖いわ……)
互いに自分が最強だと思っている二人の間に見えない火花が散っているようだった。
「後はここには居ませんが、メイちゃんも入れて、4人で攻略をしませんか?」
クリスターの提案は魅力的だった。融合召喚自体はヨハンもやってみたいと思えたからだ。様々な組み合わせを試したい。
しかし。
「問題があるわ。私とメイちゃんはまだレベル50を超えていないということね」
「あ……」
ヨハンの言葉でようやくそのことに気づいたのか、クリスターが項垂れた。彼女も早くクリアして、融合召喚を試したいのだろう。
「なら、クリスターはん。二週間後にまた来てや。ウチが責任を持って、二人のレベルを上げておくわ」
「二週間ですか……」
「初心者召喚師を待つより現実的やと思うけど」
「それは確かに……いいでしょう」
納得したのか、クリスターは立ち上がる。
「私はそれまでに、四層で追加されたスキルや召喚獣を捜しておきましょう。ではこれで」
「ほなな~。情報ありがとうな~」
コンは立ち去るクリスターの背に柔らかい笑顔を向けながら手を振った。そして、彼女が城から出た瞬間、邪悪な笑みを浮かべた。
「一週間や」
「え?」
「魔王はんとメイちゃん。一週間でレベル50まで上げようやない?」
「で、でもクリスターちゃんには二週間て」
「あれな、嘘や」
「……」
(悪魔ってこういう風に笑うのかしら……)
コンは楽しそうに続けた。
「一週間でレベル50。そしたら3人だけでピラミッド攻略しようやない? 上手くいけば召喚師のEXスキルはウチらだけで独占できる……ふふふふふふ」
「コンちゃんがそれでいいと思うなら、私もそう思うわ……」
次回、レベル上げ編! 目指せ融合召喚!
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