第128話 ヒナドラ死す!? 脅威の沼地フィールド
次の土曜日。
おおよその予定を午前中の間に消化したヨハンは、昼食の後にGOOにログインした。
コンやドナルドたちの話を聞いてみても、やはり今のところ、アマテラスシティを探索するメリットは薄いように思えた。
「結局あの電話ボックスについては、よくわからなかったのよね」
後でコンに電話ボックスでの出来事について話したところ「それ隠しクエストや!」と怒られた。その後急いでみんなであの電話ボックスに向かったのだが、いくら受話器を耳に当てても、お金を入れても、あの不気味な声が響いてくることはなかった。「一応、内緒にしといた方がええな」ということで、この件は竜の雛のみの秘密となった。
「私としては、完全に忘却したいのだけれど」
この世のものとは思えない声を思い出すだけで、今でもぞっとする。ドナルドとの交流によって、元々高かったホラー耐性が極限まで鍛え上げられていたヨハンでさえ、一瞬固まるほど恐ろしい声だった。
というわけで、街のことは置いておいて、今日はフィールドの探索である。アマテラスシティの南側。
不気味な木々と沼が一面に広がる沼地エリアにやってきた。所々に休憩場と言いたげな丸い岩場があるものの、その殆どは茶緑色に濁った水に覆われたエリアだった。
「もっもっ」
その時だった。頭上のヒナドラが地面に飛び降りると、沼の方まで跳ねていき、水面をのぞき込んだ。
「入りたいの? 駄目よ汚いから」
「もっ~」
「あっ」
ヨハンの忠告も聞かず、沼に飛び込むヒナドラ。
「もきゅ~」
気持ちよさそうな顔で尾をバタバタさせているが、それが推進力になっていないのか、はたまた仕様か。少しも水上を進むことなく、ヒナドラはだんだんと沈んでいく。
「もっ!?」ブクブク
『ヒナドラが消滅しました』
「ヒナドラーっ!?」
どうやら沼の底に体が沈んだらしく、ヒナドラのHPは0となって消滅してしまった。
「全く無茶して……こうなったら今日は――召喚獣召喚【イヌコロ】!」
幾何学的な魔法陣から、白いフェンリルの幼体(子犬)が姿を現した。
「わふっ」
「うふふ、イヌコロ。今日は貴方と冒険しましょうか」
「わふっ!」
ヨハンの言葉に頷いたイヌコロ。だが、何かに気が付いたように沼の淵まで駆け寄ると、底のほうを見ている。
「スキル【もの拾い】が発動したのね。その下に何かあるの……ってああああ!?」
「わふっ」
イヌコロは近寄るヨハンを待つことなく沼にダイブし、底にあるアイテムを目指す。そして。
「わふっ!?」ブクブク
『イヌコロは消滅しました』
「イヌコロ-っ!?」
短い間に、儚い命が二つ散った。
「……。……。……。自分でやるか」
そう呟くと、ヨハンは自ら沼地に入り込む。【もの拾い】によって隠されたアイテムが見つかると、その場所は光るのだが沼地の底から光は届かない。
適当に歩き回っていると、足が光に触れたのだろう。手元に宝箱が現れる。
「へぇ、【金の頁】か。見たことないから新素材ね。煙条Pへのお土産にしましょう」
基本的にバチモン以外にそれほど興味を示さない習性を持つヨハン。探索やレベル上げでフィールドに出た際に【もの拾い】×10で入手した大量の素材は全て煙条Pに丸投げされる。
煙条Pへと手渡された素材は彼の判断により様々なアイテムに生まれ変わったり、必要としているメンバーへと振り分けられるのだ。
竜の雛はそうやって回っている。
「……あれ、随分早いねお姉ちゃん。もしかしてボク、時間間違えてた?」
「あら、こんにちわレンマちゃん。いいえ、時間通りよ」
「……ふぅ、それは良かったよ」
それから30分。
ヨハンが金の頁収集に飽きてきた頃、レンマが現れた。今日は一緒に沼地を探索する約束をしていたのだ。
「……沼地フィールド攻略の特訓?」
「まぁ素材集めと合わせてね。でも、これはちょっと剣士は戦えないわ。底の土がドロドロで、バランスがとれないもの」
元陸上部、そして現在でも週一回のジムと風呂上がりのストレッチを欠かさないヨハンをしても、この場所でまともに歩くのはかなり厳しかった。
とにかく足場が悪く、場所によって深さや土の柔らかさも違うのだ。さらに、立ち止まっていると、どんどん体が沈んでいく。
下半身が沈むとまともに身動きができなくなり、全身が水の中に沈み酸素ゲージがなくなると即死。かなり理不尽である。レンマも沼地フィールドを試したことがあるのか、同意するように頷いた。
「……こんな場所を自分で作り出せるんだから、魔法使いの新スキルはかなり当たりだよね」
「でも、強いスキルを作ってはい終わり……ってわけでもないはずよ。カウンターになる対策スキルも、必ずあると思うの。私たちは、今日それを捜しましょう」
「……うん。ゼッカに教えてあげたら、喜ぶね」
という訳で、二人の今日の目的は、ランキング上位を目指すゼッカのため、沼地フィールドに対抗できるようなスキルを発見することなのだ。
「……けど、ゼッカが居ないのは寂しいね。また、学校の友達と遊んでるんでしょ?」
沼地を見つめながら、レンマが呟く。その口調はどこか拗ねているようだった。
「ええ。親友三人で集まるのは久々だから、きっと楽しいんでしょうね」
先日、ゼッカはミュウという、かつて共にギルド【最果ての剣】を立ち上げた友人と再会し、仲直りすることができた。
今は離れていた時間を取り戻すように、ギルティアを入れて三人で、毎日遊んでいる。
「ねぇ。ゼッカ、竜の雛を辞めたりしないよね? 竜の雛を抜けて、あの三人で新しいギルドを作るなんて、言わないよね?」
「それは……」
寂しそうなレンマに、ヨハンは「ありえない」とは言えなかった。実際、その可能性はゼロではないのだから。だから、ヨハンにできるのは、その時が来てもいいように、レンマを諭すことだけだった。
「もしそうなったとしても。それを悲しんじゃいけないわ、レンマちゃん」
「でも……」
「もしあの子たちが新しいギルドを作るために竜の雛を去るなら、それは別れではなく、旅立ちなんだから。応援してあげなくちゃいけないわ」
「……うぅ」
「わからない?」
「わかるよ……うん。そうだね。ちょっと、寂しいけど」
「良い子ねレンマちゃん。とっても良い子……あら?」
その時だった。メッセージを受信したヨハンはメニューを開く。そして、その内容を確認すると、鎧の奥でそっと微笑んだ。
「ほら、見てみてレンマちゃん」
そして、受信されたメッセージをレンマにも見せる。
「……ゼッカから? フフ。楽しそう」
レンマはそのメッセージを見て、思わず笑ってしまう。
それは、ゼッカからの、写真付きのメッセージ。写真では召喚石を手に入れて満面の笑みのゼッカと、その後ろにうんざりしたような表情のギルティアとミュウが映っていた。
『ヨハンさん!
先ほど新フィールドで新しい召喚石を発見しました!!
ので!
竜の雛の召喚師の分! 30個!!!
今から全力で集めます!!!!!!!!
後でお持ちしますので褒めてくださいね~。ヾ(。>v<。)ノ゛。
♡ゼッカより♡』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます