第125話 久々のボスモンスター
第四層まで行くには、まず第三層アスカシティに向かう必要がある。
アスカシティの中央広場に突如出現したゲートを潜ると、プレイヤーは【砂のダンジョン】へと飛ばされる。
そのダンジョンをいつものゴースト&シフトチェンジで突破すると、荘厳なボス部屋への入り口が現れる。
ここまで来る途中、コンからボスの内容を聞いていたヨハンは特に恐れることなく、一人でボス部屋へと侵入した。
中は赤い中華風の広い部屋。中央に、三体のモンスターが待ち構えていた。これまでのクワガイガー、クリスタルレオとは違い、三体とも小型のモンスターだ。
三体の真ん中を陣取るモンスターは【ゴクウ】。
白い体毛と金色のたてがみを持つ1.5メートルほどの大きさのサル型モンスター。西遊記の孫悟空を思わせる装飾品を身に纏い、その手には赤い如意棒が握られている。
その左右には【サゴー】と【チョー】というモンスター。こちらはゴクウとは異なり、それぞれ河童と豚のコスプレをした美女だった。
「かわいいわね」
ヨハンは真剣な顔で呟く。
「だからこそ残念だわ……」
先に単独で突破したコンは、以前の例と同じように、ボスモンスターの超級召喚石を手に入れた。そのコンによると、あくまでボスは【ゴクウ】一体のみの扱いらしい。手に入ったのは、ゴクウの召喚石だけだった。
サゴーとチョーはあくまでステージギミックの一部という扱いらしい。
そして、このモンスターたちの主な戦い方も、ヨハンは聞いていた。
このモンスターたちは、まるでプレイヤーのように完全な役割分担を持っている。
まずは攻撃役のゴクウ。
スキル【
スキル【
そして、ある一定の条件を満たすと(この条件は今のところ不明)スキル【超絶変化】が発動。全身の毛が赤金色に逆立ち、全てのステータスが上昇し手が付けられなくなるという、高火力アタッカーだ。
次に補助役のチョー。
戦闘が始まれば、延々とゴクウに対して補助スキルを使い、【速度上昇】や【無敵貫通】、【防御力貫通】に【HPドレイン】などを付与し、ゴクウをさらに強化する厄介なバファーである。
最後は回復役のサゴー。ゴクウ、チョーのダメージをすぐに回復。さらにチョーとサゴーに対する遠距離からの魔法攻撃を無効にするバリアを張る。倒されたゴクウとチョーを復活させるスキルも使うため、真っ先に倒したいモンスターである。
「さて……」
ヨハンを敵と認識した3体が戦闘態勢に入る。同時にヨハンも、頭上に乗ったヒナドラを呼び起こす。連れ歩き状態から、召喚状態に切り替える。
「もっ!!」
「やる気十分ねヒナドラ。それじゃ、続けて行くわよ――進化召喚!」
「もー!」
ヒナドラの体が光に包まれ、巨大な魔法陣が広がると、中から漆黒の鎧装を纏った竜クロノドラゴンが出現する。
「キシャァアアアアアア!」
ゴクウは雄叫びを上げ、如意棒を構えながらこちらに突進してくる。そんなゴクウにチョーが補助魔法を連続で掛けている。
何が仕掛けられたのかまでは、ヨハンにはわからなかった。念のために【不死蝶の舞】を自分にかけ【デコイ】を発動。ゴクウの攻撃を自分に集中させる。
「キシャアアア!!」
「ぐっ……重い」
如意棒による圧倒的な突き攻撃。それは【不死鳥の舞】による無敵を貫通し、ヨハンのHPを奪い去る。
「ガッツが発動した!? なんて威力……クロノドラゴン!」
おそらく防御力貫通も使われているだろうことを察したヨハンは背後に控えていたクロノドラゴンに指示を飛ばす。
「ぐるおおおん」
クロノドラゴンが【ジオサイドフォース】にてゴクウを狙うが、ゴクウはそれを回避。その隙にすかさず【時空転生】を使い、HPやMPを元に戻す。
「追撃するわよ……【バグ】……【放電】!!」
ヨハンの鎧の隙間から黒い虫がわさわさと這い出て、ゴクウを追尾。さらに広範囲に降り注ぐ電撃がヨハンの手から放たれる。
「キッ……キキ……ギィ」
対するゴクウはスキル【觔斗雲】を発動。小さな雲に乗って回避を試みるが、躱しきれず、雷撃の一部が命中する。
「スタンが来た! クロノドラゴン!」
「ぐるおおおんぐ」
動けなくなったゴクウに再びクロノドラゴンがジオサイドフォースを放つ。
「やった!」
「キィ!」
だが、やれてはいなかった。ゴクウのHPバーは1ポイント分残されていたのだ。おそらくはチョーによって、ガッツが付与されていたのだろう。さらに、すかさず入る回復エフェクト。
サゴーの回復魔法によって、ゴクウのHPは完全に回復した。
「むぅ……やっぱりあっちの方からなんとかしないといけないようね」
本来なら自分がゴクウを引き付け、その隙にクロノドラゴンにサポートの二体を攻撃させようと思っていたのだが、転がってきたチャンスについゴクウを狙ってしまったのだ。
それを反省し、再び基本を思い出す。
「スキル発動――【氷分身】!」
ヨハンはクリスタルレオのスキルを発動させる。すると、ヨハンの周囲に氷の柱が現れ、それが徐々にヨハンの形になっていく。柱は瞬く間に、ヨハンと同じステータスを持った3体の氷の人形となった。
「3体はサゴーとチョーを攻撃よ!」
ヨハンの指示を受け、3体の氷人形たちはダッシュで補助役の二体の元へと向かっていく。
自分の脳内で操作しなくてはならない【増殖】で生み出した分身体と違い、氷分身でできた氷人形はAIが自動で操作してくれる。
【増殖】が仕様変更されたのを受けて、ヨハンは今まで「スキルが使えないから」と使っていなかった【氷分身】を使おうと思ったのだ。
「キシャー!!」
ゴクウはサゴー&チョー目指して走る氷人形を攻撃しようとする。
「そうはさせないわよ――【デコイ】!」
デコイにより、ゴクウのターゲットを自身に集中させる。ゴクウはそれにイラついたかのように歯ぎしりすると、如意棒を構えてヨハンに襲い掛かる。
「もうまともに打ち合ったりしないわよ――【オールディメンジョン】【ジェノサイドウォーズ】!」
だがヨハンはゴクウを寄せ付けない。ミサイル弾幕とヒナビットからのオールレンジ攻撃を繰り出す。流石のゴクウも攻撃を中断しなければ、一瞬でやられてしまうと判断したのか。ヨハンの息切れを待って回避行動に切り替えるゴクウ。
だが、ヨハンの後ろに控えたクロノドラゴンは一定の間隔で【時空転生】を発動するので、攻撃スキルを使い切ってしまうといった事故は発生しない。
「そろそろいいかしら?」
ヨハンVSゴクウの戦いは膠着状態。後はヨハンと同じステータスを持つ氷人形がサゴーとチョーを倒してくれればと言ったところ。
「げ……何よあれ……」
氷人形たちの方を見たヨハンから思わずそんな声が漏れた。氷人形は二体のボスに対して、確かに優勢だったのだが……。
三体の氷人形の内一体は、チョーの首を両手で絞め上げている。
そして残る二体は、片方がサゴーを羽交い締めにし、もう片方がボディを殴りまくっていた。
「何あれリンチじゃない?」
なまじ耐久力が高いのだろう。サゴーがなかなか消滅しないため、長引いているようだ。
確かに効率のいい戦い方なのだろうが、サゴーとチョーの見た目が美少女ということもあって、なかなか酷い絵面になっている。
「うっ……」
そして、身動きできないサゴーと目が合う。決して喋ることはないが、その目は「お前の戦い方酷いな?」と恨みがましく語っていた。まさに目は口ほどに物を言う。
「ご、誤解だわ。これはAIの仕業なのよ……見ないで。そんな目で私を見ないで……これじゃ私たちが悪役みたいだわ」
相手が正統派西遊記チームということもあって、傍から見れば完全にヨハンたちが悪者である。だがそれは今に始まったことではない。
「く、クロノドラゴン。ひと思いに倒してあげて!」
「もぎゅ! ――ぎゅおおおおおお」
ヨハンの指示を受けて、クロノドラゴンが介錯のジオサイドフォースを放つ。その光の一撃はHPが残りわずかだったサゴーとチョーを撃破した。
「……!!」ワイワイ
「……!!」ワイワイ
「……!!」ワイワイ
そして、残った氷人形たちは勝利の舞いを踊り始める。まるでどこかの蛮族のようなその踊りに呆れたヨハンは、氷分身のスキルを解除。氷人形たちは溶けるように消滅した。
「氷分身強いんだけどな……ああなると、なんか使いづらいわね」
そこはかとなく残念な気持ちでいたとき。回避に専念していたゴクウが激高する。
「ぐあああああああ!!」
「あ、あれが噂の【超絶変化】ね……」
真っ白だったゴクウの体毛は赤金色に染まり、稲妻のようなオーラが体を包んでいる。さらにステータスが上がったのか、筋肉も膨れ上がっているようだ。
「あら格好良い。仲間が倒されることが発動条件だったのかしら?」
ヨハンは余裕な様子でつぶやくと、詰めの態勢に入るのだった。
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