EP2 ミュウ
「何……あれ?」
七月初旬。
16歳の女子高生、
GOOサービス開始初期から、ゼッカとギルティアという二人の友人と共にギルドを作り、日々最強を目指していた。
だが強さを求める二人に技術、気持ちがついて行けなくなってしまい、ギルドを脱退。ゲームそのものも、引退することとなった。
ミュウは友人に言われるがまま、対人において優位に立ち回れる職業【剣士】を選択していたが、本当はモンスターをモフれる【召喚師】がやりたかったということもあり、モチベーションが始めから友人二人よりも低かったのだ。
ゼッカ・ギルティアとの冒険はミュウにとって大切な思い出の一つだ。
だが徐々にギルドの対抗戦にのめり込んでいった二人とミュウの間には、徐々に溝が出来ていった。
三人でいることが楽しいからゲームを始めたはずだったのに。
そして、引退から約4ヶ月。
風の噂でゼッカとギルティアが仲違いしたと聞いたミュウは、驚いた。そして、少しだけ嬉しくなったのだ。
「まったく二人とも。やっぱり私がいないとダメなんだから~」
元々、我が強い二人の仲裁役となることの多かったミュウは「私が二人を仲直りさせないと」と思い立ち、今日、再びログインをしたという訳である。
だが。
第一層、はじまりの街のカフェテラスで、それを見てしまった。
「ええと……何あれ?」
ミュウの友人二人は、テラスのテーブル席三つを占領した異様な集団に混じっていた。
黒い鎧を着た異様なオーラを持つ女性。
雪男? ゆるキャラの着ぐるみを纏ったプレイヤー。
趣味で子供を〇していそうなマッチョピエロ。
見てるだけで目が腐りそうな女装変態おじさん。
ライバルだったギルド、決闘宿のサブギルドマスターのお姉さん。
「アレは一体どういう集団なの!? ゼッカとギルティアは何故に楽しくお茶しているの!?」
さながらゲームの敵キャラオールスターといった面々と共に居る友人たちを心配しながら、ミュウは物陰に隠れる。
「おいおい……あれって【竜の雛】じゃねーか?」
「本当だ、何話してるんだろう?」
「一緒に居るのは最果てのギルティアか?」
「そういえばギルティア、最果ての剣を辞めたらしいぜ」
「え、じゃあ竜の雛に入るのか?」
「そうかも。竜の雛の【ゼッカ】と【ギルティア】ってリア友らしいし」
「マジかよ……竜の雛ますます手がつけられないじゃん」
同じように遠目から様子を窺う他のプレイヤーの言葉が、ミュウの耳に入ってくる。
(竜の雛……そっか。ゼッカもギルティアも……【最果ての剣】を捨てちゃったんだ……私たち三人のギルド……)
最初に抜けたのは自分だったはずなのに。それは確かにわかっているのだが、それでも、なぜか無性に寂しくなったミュウは後ずさる。
ここで声を掛ければ、あの二人は快く自分を迎えてくれるだろう。そういう優しい子たちだと、ミュウは知っている。けれど。
二人が作った新しい居場所に、今さら自分がのこのこと合流するのは、何か違う気がした。
(ああそうか。二人はもう……私が知ってる二人じゃない)
自分の知らない人たちと楽しそうに話す二人を見て、酷く胸が痛んだ。友人二人が自分を置いてどこか遠くへ行ってしまったような感覚に震えながら、ミュウはその場を後にする。
すぐログアウトしなかったのは、後ろ髪引かれる思いがあったからか。
はじまりの街を当てもなく歩き続け、そして疲れて。通りのベンチに深く腰掛けた。
空は赤く染まり、カラスに似た何かが耳障りに鳴きながら飛んでいる。ふと目に入った時計で、18時になったことを知る。
「そういえば……新しいイベントが始まったんだっけ」
ログイン時に表示されたPOPを思い出す。おそらく皆、イベントエリアへ行ったのだろう。先ほどよりも明らかに人が減り、大通りにも関わらず、人通りは少ない。
「帰ろ……」
力なくそう呟き、メニューを開いたときだった。
「ハロー! お嬢さん」
不意に、声を掛けられた。少し低い、中性的な女性の声。振り向いて、ミュウは固まった。
「えぇ!?」
そして思わず、そんな声が漏れた。
声を掛けてきたのは一人の派手な見た目をした女性プレイヤーだった。
頭上には【ハゼル】【Lv:1】と表示されている。
思わず驚きの声をあげてしまったのは、その女性が全身を課金装備で纏っていたからだ。
ド派手な赤いコートや手袋、腰に刺された杖は全て最高峰の課金装備。それだけでも驚きだが、もっと驚いたのは彼女の髪色があまりにも奇抜だったからだ。
まるで昔のビジュアル系バンドのように赤く染まった髪に、金だったり紫だったりのメッシュがところどころに入っている。
(えっと……最初のキャラクリじゃ髪の色ここまでイジれないよね? え、じゃあこの人、リアルでもこの髪型なの……? 絶対ヤバい人だよ……)
GOOでのアバターは現実の姿がベースとなって作成される。身長や顔つきは変更できないが、目の色や髪色は変更できる。しかし、髪の毛を複数の色に染めるには、ある程度ゲームを進行しなければならないのだ。
「あわわ……」
「そんなに怖がるなよジャパニーズ美少女。ちょっと聞きたいことがあってね。この迷える初心者に教えてくれないか?」
怯えるミュウを気遣ってか、砕けたしゃべり方をするハゼルというプレイヤー。
「実は人を探していてね」
「人……? GOOで?」
ハゼルの妙な言葉に、首を傾げるミュウ。何か変だ。そう思っている間に、ハゼルはこう続ける。
「ああそうさ。人捜しさ。ねぇ君、哀川圭って知ってるかい?」
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