スピンオフ『ジェネシスオメガオンライン ~失われしサモンソード~』

EP1 プロローグ

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ここから10話ほど、スピンオフ的な番外編となります。

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7月。 夏の入り口。


 むせかえるような暑さの中。


 久々に日本へ帰国していた芸術家、石丸涼いしまる りょうは纏わりつく暑さから逃れるように乗り込んだ電車の中で、その広告を目にした。


 【ジェネシス・オメガ・オンライン】というVRを用いたネットゲームの広告だ。普段の涼ならそんな広告を意識して見ることはない。だが、この時だけは違った。


「これ……バチモン?」


 そこに映っていたのは、涼が子供の頃に好きだったアニメ【バーチャルモンスターズ】のキャラクターたちだった。

 バチモン(バーチャルモンスターズの略称)は、子供時代、涼が最もハマっていたアニメであり、自身のルーツともなる、大切なキャラクターたちである。


(Wonderful! VRMMOってことは、ゲームの世界でバチモンたちと触れあえるってことか)


 液晶パネルに映し出されたモンスターたちは絵柄こそ新しくなっているものの、デザイン自体は昔のままで、その全てが懐かしい。


『ねぇ、それってバチモンの絵? 上手だね!』


 そして、涼の子供の頃の記憶が蘇っていく。時の流れの中に消えていった記憶が。まるでバチモンたちがタイムカプセルの鍵だったかのように。大切な友人との日々が、鮮明に思い出された。


 涼は抑えきれない何かを感じながら、思わずスマホを手に取った。


「もしもし……イエス。そう……ちょっと遊びたいゲームがあってね。用意してくれるかい?

 ああ。え? AHAHA。遊びじゃないさ。ちょっとした取材だよ。次の作品のためのね」


 マネージャーにそう告げると、涼は通話を切った。これで明日にはGOOを遊び始めることができるだろう。


「……コホン……コホン」

「おっと。ソーリーソーリー」


 向かいに座っていた老人が「迷惑だ」と言わんばかりに咳払いをする。なので軽く頭を下げる。そして液晶に目を戻すと、CMはとっくに生命保険のものに移っていた。涼は残念そうに眉を下げるが、それでも口角は上がっていた。


「ああ……しかしバチモンとは懐かしいね」


『涼ちゃん。いつか私たちも、バチモンたちのいるバーチャル世界にいけたらいいよね!』


 涼は静かに目を閉じると、幼き日の遠い出来事に思いを馳せる。子供の頃にはただの夢でしかなかったそれは、20年という時を超えて、現実になっていた。


「圭ちゃん……君は今、何をしているんだ?」


 小さくつぶやくその声は、電車の音にかき消され、誰の耳にも届くことはなかった。

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