第118話 王座の間の攻防
「来た……」
闇の城の最奥、王座の間の守護を担当する白いゴリラスーツの少女。レンマは扉を開けて入ってきた二人を見て、緊張感に体を震わせた。
ヨハン覚醒まで残り17分ほど。他のメンバー達の頑張りが報われるか否か。みんなが繋いできたバトンが今、レンマに託された瞬間だった。
「おいおいおい、どういう冗談だこれは?」
入ってくるなりレンマを一瞥したカイの声が、王座の間に響く。
「ようやくヨハンと戦えると思っていたのだがな。それが……」
そして、レンマをにらみつける。
「こんな着ぐるみと戦えと?」
トッププレイヤーの放つ威圧感に、元々人付き合いが得意ではないレンマは萎縮する。
「着ぐるみではありません……いや、着ぐるみを着てはいますが。彼女はレンマさん。ヨハンさんやゼッカさんの友人です」
「はっ。名前など覚える必要はない。さて、ヨハンはどこに隠れている? 貴様の悲鳴でも聞けば、姿を現すのかな?」
嗜虐的な笑みを浮かべるカイに怯まされっぱなしのレンマ。だがその時。
「ギチギチィ」
「がるおおおん」
カイとロランドに立ちはだかるように、二体の召喚獣が姿を現す。メカメカしいクワガタのモンスター【クワガイガー】。そして青い毛並みの【クリスタルレオ】。どちらもヨハンが持つ超級召喚獣である。
その二体が現れたことで、レンマに立ち向かう気力が湧き上がる。自分でも、足止めくらいはできるだろうという、気力が。
(そうだ。お姉ちゃんが預けてくれたこの召喚獣たちが居れば。ボクでもやれる)
「ほう……懐かしいモンスターだ。なら、これくらいでいいかな」
カイはメニューを操作すると、剣を構える。
「両方私が倒すぞ、ロランド」
「ご自由に」
「……な、なんだ。何をするつもりだ!?」
「ドラゴニックソウルカウンター10個使用。――ドラゴニックワイバーン!!」
カイが剣を振り下ろすと、そこから10本の竜の頭部を持った白いオーラが放たれる。それらは5本ずつに分裂すると、それぞれクワガイガー、クリスタルレオを襲う。
「……攻撃!? それなら――ルミナスエターナル!!」
すかさずレンマは、味方に10秒間の無敵を付与する守護者職最強防御スキルを発動。二体の召喚獣を守る体勢に入る。だが。
「無駄だ! ドラゴニックワイバーンは無敵状態を貫通し、さらにダメージ計算時、防御力も貫通する!」
「そんな!?」
高いステータスを持っている二体でも、防御力貫通攻撃を5回も受ければひとたまりもない。カイの強力な攻撃の前に、クワガイガーとクリスタルレオはあっけなく消滅した。
「どうした? 最大の切り札を失った……という顔をしているぞ。――はっ」
そして、スキル【スラッシュ】がレンマに打ち込まれる。レンマは後ろに吹き飛び、その様子を見てカイは笑おうとして……しかし、それを発見してしまう。
「これは……」
「繭?」
王座に座るように置かれている大きな繭。今までレンマの影に隠れ、よく見えなかった、ヨハンの眠る繭が、二人に見つかってしまったのである。
「なんでしょうこの繭は……」
「そういえば、昨日滅ぼしたギルドの中に、このような繭を守っていた召喚師がいたな。泣きつかれたがそのまま殺したのだった……おいおい待てよ」
何かを思い出したのか、カイはメニューを開く。
「そうか……それが貴様らの狙いか」
「どうしましたかカイ?」
「驚くなよロランド。あの繭の中身はヨハンだ」
「そんな馬鹿な……いや、本当だ」
ロランドが繭を注視してみると、その上に確かに【ヨハン】と表示される。カイは昨日倒したモスらーから聞き出したスキル【繭化】の情報をロランドに伝えた。
「なるほど……しかしそれならば、今までの竜の雛の不自然な作戦も全て納得がいく」
「それで、どうする? 羽化まであと13分と言ったところ。待ってやるのも一興と思うが?」
「確かにどのような結果になるのか見たいという思いもありますが……ここで手を抜くのは竜の雛にも、我々を行かせるために外で戦ってくれている仲間たちにも、あまりに失礼というもの。ここは全力でいきましょう」
「はっ、それもそうだ。よしロランド。ここは俺に任せろ。これが最終決戦。我が奥義で全てを破壊してやる」
「ほう……随分と乗り気ですね」
「それはそうだろう。もう少しでも遅れていれば、あの繭から超強化されたヨハンが誕生し、我らが負けていたのかもしれないのだからな」
言いながら、カイはレンマ、繭、そして王座の上に浮かぶギルドクリスタルを目視する。まるで、狙いを定めるように。
「長かったこの戦いも、今この瞬間で最後だ。行くぞ……全ドラゴニックソウルカウンター198個解放!!」
カイの鎧から、竜の霊魂が次々とあふれだし、空中で収束していく。そして、それはやがて巨大な一匹の竜の姿となる。
カイの持つユニーク装備【ドラゴンズガスト】の最強スキル【ドラゴニックコライダー】。外に居るプレイヤー達ですら全滅させるほどの攻撃が、目の前で完成されていく。
「そ、そんな……ここまで来て……負けるの?」
ドラゴニックコライダーが完成されていくのを、レンマはただ黙って見ていることしかできない。
「そう嘆くことはないぞ着ぐるみの少女よ。たった8人でよくやったと褒めてやろう。だがこれで最後だ。行くぞ――ドラゴニックコライダー!!」
白き竜たちの魂が、強大なエネルギーとなって、レンマと繭に襲い掛かる。レンマがもうダメかと思ったその時。
「もっ!!」
「え!?」
レンマと繭、そしてギルドクリスタルを守るかのように。まるで壁になるかのように、次々と召喚獣が姿を現した。
それは50匹以上のヒナドラとイヌコロ。バスタービートル。メテオバード。ソードエンジェル。ダークエルフ。プレレフア。メイドラグーン。リトルウィザード。バックアップチア。
他にも様々な召喚獣が姿を現し、そしてドラゴニックコライダーに飲み込まれては消えていく。まさに捨て身だった。だがそれでも、徐々にドラゴニックコライダーの威力を消耗させ、そして。
「……みんな、お姉ちゃんを守るために?」
レンマはイベント直前のことを思い出していた。
今日はいつもの防衛とは違い、召喚獣は庭に200体配置するだけだ。なので、残り300の枠が余るのである。その枠に、ヨハンが自分の召喚石を詰めていたのを思い出した。
『レンマちゃんの助けになるといいなって思ってね』
(……そうか。この召喚獣は、ボクとお姉ちゃんを守るために……それなのにボクは……諦めたりして)
そして、白き竜のオーラは完全に消滅。遂に、召喚獣たちはカイの最強の攻撃を、身を挺して防ぎきったのである。
「馬鹿な……こんなことが……」
唖然とするカイ。召喚獣たちの捨て身に驚いたのか、それとも自分の最強の技が破られたことに驚いたのか。そんなカイを他所に、今度はロランドが前に出る。
「確かに驚きましたが……カイの攻撃も無駄ではなかった。この召喚獣ラッシュも、どうやらあの二体でお終いのようですよ」
ロランドの見る方には、繭を守るように立つ二体の召喚獣。
メタルブラックドラゴンとワーフェンリルの二体だった。
「はは、そうだな。あの二体、そして着ぐるみだけなら楽勝だな」
「ええ、早く片をつけましょう」
二人は剣を構える。だが、その時。王座の間の扉が大きな音を立てて開く。全員が振り返ると、そこに立っていたのは。
「お待たせレンマちゃん! 助けに来たよ!」
「……ゼッカ!!」
ギルティアを下し、王座の間に駆けつけたゼッカだった。そのゼッカの右手には深海剣アビス。そして左手にはギルティアから譲り受けた炎刀・烈火。
それを見て、二人が仲直りできたのだろうことを察したロランドは、静かに微笑んだ。
一方、カイは意地悪く笑う。
「あっははははは。貴様が来たということはだ、ロランド。お前の妹は負けてしまったらしいぞ? 傑作だ。あれだけのユニーク装備を持っていて無名の剣士一人倒せないとはなぁ」
そんなカイの様子を見て、ゼッカは理解する。ギルティアはずっと、こんな嘲笑に耐えていたのだろうと。理解して、悔しくて……そして、思わず叫んだ。
「私の友達をいじめたのはお前だな? 私が必ずお前を倒す!!」
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