第119話 今決別の、最果ての剣
「あのギルティア……そろそろトドメ刺していい? 私上に行かないといけないんだけど」
トドメを刺そうとした刹那、堰を切ったように今までのギルドに対する不満や愚痴を吐き出し始めるギルティア。
やれカイはネチネチネチネチうるさいだの、グレイスは女子メンバーと揉め事を起こすだの、ガルドモールは語尾がキモいだの、クリスターは『私だったらもっと上手くギルド回せますけど?』感を出してくるだの。
もう止まらない止まらない。実はゼッカが王座の間に駆けつけるのが遅れた原因はこれである。
そして、全ての恨み言を吐き出したギルティアはむくりと起き上がると、ゼッカに炎刀・烈火を投げ渡した。
「アンタに預けるわ。デッド・オア・アライブ以外、碌な剣ないでしょ? プロトカリバー使うくらいならそっちの方が強いから」
「ふぅん、ありがとう」
「それに、烈火と絶佳って、なんか響き似てるでしょ? アンタが使うと似合うんじゃない?」
「へぇ、今まで気が付かなかったよ。考えたこともなかった。え、もしかして、それで炎刀を愛用してたの?」
「ちょっ……ばっ……は、はあああ!? 違うし!! 全然関係ないし! たまたま……たまたま今気づいただけだし!!」
「そう。じゃ、そろそろ殺すね」
グサリ。
ギルティアの消滅を見届けたゼッカはドナルドゾンビが居ないのを確認しつつ、レンマの応援に向かうのだった。
***
***
***
「私の友達をいじめたのはお前だな? 私が必ずお前を倒す!!」
「いじめ? 人聞きが悪いぞ。私は本当のことを言っただけなんだがな」
ニヤりと笑うカイ。その様子に「確かにウザい」と呟くゼッカ。
「レンマ。その二体の召喚獣と一緒にあと3分、ロランドさんを抑えて。その間に私がコイツを倒す」
そうすればレンマとゼッカでロランドの相手ができる。倒すことはできなくても、ヨハンを守りつつ足止めすることなら可能だろうというのが、ゼッカの考えだった。
「……わかった。でも、2分で戻ってきて」
「オッケー」
「はっ。おいおい、聞き捨てならないな。貴様、この私を2分で倒すだと?」
「ええ。ロランドさんならともかく、【永久2位】の貴方なら余裕です」
ずっと2位止まりなのを気にしているのか、ゼッカの言葉に苛立ちを見せるカイ。
「貴様……言ってはいけないことを言ってしまったな。許さんぞ」
「え、本当のことを言っただけなんですけど? そんなに一位がいいなら【負けの1位】って呼んであげましょうか?」
「殺す。ドラゴニックソウルカウンター1つ使用――ドラゴニックワイバーン!!」
先ほどのドラゴニックコライダーで全てのカウンターを消費したカイだったが、ヨハンたちを捨て身で守った召喚獣の中にドラゴン型の召喚獣も混じっていたため、再びカウンターが潤った。(忘れがちだがヒナドラもドラゴン型なので、結構な数のカウンターを貯められた)
白い竜のオーラがうねりながらゼッカに襲い掛かる。対するゼッカは右手に握る【深海剣アビス】のスキル【メイルストローム】を発動。青い激流が竜のオーラと激突するが……。
「相殺できない!?」
【メイルストローム】が打ち消され、尚も白き竜のオーラがゼッカ目掛けて迫ってくる。
「私のドラゴニックワイバーンにはGOOでも最高クラスの威力が設定されている。その程度のスキルでは打ち消すことすらできんぞ」
「なら――火炎竜撃」
次は左手の炎刀・烈火から、炎の渦を呼び出す。二発目のスキルをぶつけることで、ようやくカイの攻撃を防ぐことができた。
「ふはははは。貴様のレベルではひとつ防ぐのがやっとか? 続けていくぞ! ドラゴニックソウルカウンター10個解放」
「10個……!?」
それは防げない。ゼッカが唇を噛んだその時。ゼッカの耳に、通知音が鳴り響く。
(これは……新しいスキル!?)
【フュージョンブラスト】
二刀流スキル【グランドクロス】使用時、その威力に装備した剣の攻撃スキルの威力値を上乗せする。(追加効果が獲得可能な組み合わせあり)
《入手条件》
【二刀流】使用時、右手、左手で別の剣を装備し、かつそれぞれ違う攻撃スキルを発動させる。
「これなら行ける……良し!」
ゼッカに無数の竜のオーラが迫る。ゼッカは剣を構える。そして。必殺のスキル、グランドクロスを発動させた。
「我が盟友たる炎と水を一つに……【フュージョンブラスト】起動……エンチャント……追加効果獲得……」
炎と水の剣が交差する。ギルティアと、そしてミュウの力が合わさって、二人の力が今、ゼッカの剣技に宿る。
「これが私の……私たちの――【
放たれたのは赤と青の螺旋。
渦巻く炎と水が竜のオーラを飲み込み、消滅させていく。炎と水。相反する二つの能力を合わせることで発生した追加効果は【威力吸収】。触れた攻撃スキルを全て吸収し、その威力分、【
「馬鹿な……ここに来て新しいスキルだとぉ!? ぐっ、うぉおおおおおおおおお」
10発分のドラゴニックワイバーンを吸収し増大した炎と水に飲み込まれ、カイのHPはあっけなく0となった。
「勝った……いや、まだ」
勝利の余韻に浸る暇はない。
振り向けば、メタルブラックドラゴンが今まさに消滅しようとしていた。
ヒナビットを展開する【オールディメンジョン】と弾幕を張れる【ジェノサイドウォー】を連発したのだろう。ダメージを受けた様子はないが、体が粒子となって消滅してしまう。
だがそれはこの状況において、正しい戦い方だ。とにかく攻撃を繰り返し、ロランドを回避に集中させることで、時間を稼ぐ。
メタルブラックドラゴンが消滅したところで、次はワーフェンリルが地面に手をついた。すると、ロランドの足下から無数の鎖【グレイプニール】が出現。ロランドは回避するが、鎖はジャラジャラと音をたてながら追い続ける。
「よし……」
グレイプニールから【デモンフリーズ】のコンボが決まればヨハンの復活を待たずして、ロランドを倒すことができるだろう。
ロランドは回避、回避、そして空中へと逃げる。
「……よし、空中ならもう逃げられない!」
レンマは勝利を確信した。だが。
「――ソードディメンジョン」
アイテムストレージの剣を6本召喚するスキルを使い、剣を実体化させたロランドは、なんとそれを足場にして飛び移り、天井に着地。そもまま天井を蹴り飛び、鎖に向かっていく。
そして向かってくる鎖を剣で捌く。しかし、鎖は一本ではない。残りの鎖がロランドの体を捉えようとするが。
「ぐっ――」
ソードディメンジョンによって呼び出されていた剣がワーフェンリルを貫く。ワーフェンリルの消滅と同時に鎖も消滅。残りはレンマ一人となってしまったが、そこへゼッカが駆けつける。
「うおおおおおお!」
「ほう……強くなりましたね、ゼッカさん」
ゼッカもソードディメンジョンを発動。自らが持つ2本の剣と空中を浮遊する6本の剣で襲い掛かる。だが、ロランドは一人でその攻撃を捌ききる。
「くっ……相変わらず人間離れしたプレイヤースキル……」
「光栄ですゼッカさん。ですが、良いのですか? 私の剣たちが、フリーですが」
「しまった!?」
ロランドは、ソードディメンジョンで呼び出した剣を守りに使わなかった。6本の剣は二手に別れ、一方はヨハン。そしてもう一方はギルドクリスタルへと向かっていく。
(レンマちゃんがデコイを使わないってことは、まだ再使用できない!? それだとまずい……)
「くっ――メイルストローム!」
打ち落とそうとスキルを放つゼッカ。だが剣たちはそれをあっさりと回避する。オートで動く剣にあんな真似はできない。ロランドはゼッカの相手をしながら、6本の剣全てを脳内の操作で操っているのだ。
「化け物……」
思わずそう口にしてしまう。
守りのメンバーはレンマ一人。つまり、ギルドクリスタルか。繭化したヨハンか。どちらか一方しか守れない。
(そんな顔しないでゼッカ。大丈夫。ボクだって、ちゃんと奥の手を用意してきたんだ)
白いゴリラの着ぐるみが飛び上がり、ギルドクリスタルへ向かっていた3本の剣をその体で受け止めた。そのぬいぐるみのような体に、3本の剣が深く突き刺さる。
「そちらを守りましたか。ではヨハンさんの方をやらせていただ――馬鹿な……一体なぜ?」
ヨハンへ向かっていた3本の剣は、青い髪の少女に突き刺さっていた。それは、無装備状態を意味するインナー姿のレンマだった。レンマが体を張って、残りの剣を受け止めたのだ。
「馬鹿な。確かにレンマさんは上に飛んだはず……」
上空で串刺しにされたゴリラの着ぐるみは、ぼんっと音を立てて落下すると、光の粒子となって消滅した。ロランドから見ると、突如着ぐるみがレンマから剥がれ上空の剣を防ぎ、そして地上に残ったレンマが残りの剣を防いだように見えた。分身のスキルか? とロランドが考えていると、レンマが口を開く。
「……【ダブルアーマー】。そう言えば、ロランドさんなら理解できるんじゃないかな?」
「なるほど……そういうことですか」
ダブルアーマー。装備したプレイヤーから分離し、独立可動して戦うこともできる鎧である。レアな装備ではないうえ、分離した鎧はプレイヤーが操作しなくてはならず、扱いづらいネタ装備だった。
「……ボクのゴリちゃんは普通の鎧に煙条Pが作ったCGモデルを貼り付けたもの。同じゴリラのCGモデルを、今度はダブルアーマーにくっつけてもらったのさ」
GOOではプレイヤーが生産する装備の見た目を、プレイヤーが独自に作ったモデルと変更することができる。レンマのゴリラ着ぐるみもその一つだ。もちろん性能はユニークやレア装備には到底及ばない。
及ばないが、だからこその意外性。トッププレイヤーであるロランドを出し抜き、勝利のための最後の瞬間を守り切った。
「……流石のロランドも、無名プレイヤーのネタ装備までは読めなかったみたいだね」
「無名なんてとんでもない。見事。君の作戦勝ちだ。どうやら私は、詰めきれなかったようだ。後ろを見てごらん」
「……え?」
「やった、ヨハンさん!」
その瞬間。
繭が光を放ち始める。カチ……カチ……と、繭にヒビがはいる。
そして、中から現れたのは……。
漆黒のフルプレートに身を包んだ……つまり、いつも通りのヨハンだった。
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