第95話 闇のゲーム

 二日目開始からわずか10分。

 竜の雛のギルドホーム闇の城の門前は異様な雰囲気に包まれていた。


「だから俺たちが先に入るって言ってるだろうが!」

「いや、ここは我々に譲って頂きたい」

「お前たちは昨日失敗したんだろ? だったらここは俺たちに任せとけや」

「は? 俺たちはむしろここを攻めるためにやってるんだが?」

「弱小ギルドが……お呼びじゃねーんだよ」


 なんとギルド【打倒ヨハンの集い】と現在10位のギルド【27ブラザーズ】がブッキング。どちらが先に魔王城を攻めるかで揉めているのである。


「アベンジャーマスオさん」


 一触即発のこの事態を後ろから見ていた、打倒ヨハンの集いの若手、エックスはリーダー格の男アベンジャーマスオに耳打ちする。


「27ブラザーズは強豪ギルドです。こいつらを先に行かせれば、ヨハンたちの戦力を消耗させることができます……ここは引いた方が利口では?」


「エックスよ。我々は今まで、ヨハンたちと五分五分の勝負を繰り広げてきた」


「五分五分!? おかしい。俺の記憶と違う……」


「我々にはその誇りがある。だから、そのような卑怯な真似はできないのだよ」


「卑怯かなぁ……」


「話は聞かせてもらったわ!」


 その時、門の上から声が響く。その声の主は、闇の城の主、ヨハンだった。黒いマントをはためかせながら、腕を組んで立っている。どこか芝居がかったその喋りに怯んだのだろうか。両ギルドの面々が押し黙り、ヨハンの次の言葉を固唾を飲んで待つ。


「どうやらどっちが城を攻めるかで揉めている様子。ならばここは、デスマッチで決着をつけなさい!」


「「「デスマッチ!?」」」


「そうよ。両者が戦い、先に敵を殲滅した方のギルドに、私たちの城を攻める権利をあげましょう」


「「「うおおおおおおおお!!! ヨハンッヨハンッヨハンッ!!!」」」


 盛り上がる打倒ヨハンの集いのメンバーたち。


「いや待て。今思いついたんだが……」

「ああ。普通に俺たちが手を組めば……」

「攻略が楽になるのでは……?」


 一方、不幸にも、このタイミングで冷静さを取り戻す27ランサーズの面々。だが一歩遅かった。ヨハンたちに執着する異常者たちは、もう止まらない。


「なぁあんたら……ヨハンの首はくれてやるから、ここは俺たちと手を組まねぇか?」

「問答無用おおおおおおお!!」

「死ねええええええええい!!」


「うわっ!? ……なんだコイツら、話が通じねぇ」

「イカれてやがる……」


 久々に推しを生で見たことでテンションが狂った掲示板の民は、問答無用で敵を攻撃し始める。


「臆することはねぇ! 人数は120と多いが、所詮は無名のギルド!」

「うおおおおおおおおよはああああんん!!」

「ぐっ!? なんだこいつら……無駄につええ!?」


 27ブラザーズの部隊はランキングトップ勢を含めた20人。対して掲示板の民は120人。27ブラザーズ側のプレイヤースキルが高いため、本来ならこの人数差でも厳しいぐらいだが、ヨハンの煽りによる精神的バフを受けた掲示板の民は、異常な強さを発揮した。


「ヨハン対策で取得した防御貫通が思いのほか刺さるぜえええ!」

「魔法使いは全員【マジックブレイク】でMPロックしてやるぜえええ!」

「おっとこっちは【強化解除】だ……頑張って掛けたバフは剥がさせてもらうぜぇ?」


 ヨハン対策に取得したスキルが思いのほか刺さったのか、意外にも掲示板の民が優勢だった。


「み、みんな落ち着いて! これはヨハンの罠です! 普通にみんなで攻めるのが相手にとって一番辛い展開のはず……ああもう滅茶苦茶だよ!!」


 唯一冷静さを残していたエックス。だが最早話は通じないと判断したエックスは剣を抜くと、戦いに参加した。


***


***


***


「あんな感じで良かったかしら?」


 門の外をこっそり覗きながら、ヨハンは呟いた。


「効果抜群やね。完璧や魔王はん」


 両者を煽って潰し合わせようというのはコンの提案である。外の様子を窺いながら、ニヤニヤと笑っている。


「ずっと見ててもしょうがないし、ワタシたちはそろそろ行くわよ☆」

「後は任せました」

「了解どす。適当なタイミングで横やり入れて、全滅させとくわ」


 コンは優雅に手を振ると、裏口から脱出するヨハン、ドナルド、煙条Pを見送った。


「あの……今更ですけど、全員まとめてヨハンさんに倒して貰った方がよかったんじゃ?」


 両者の戦いをニヤニヤしながら見守るコンに、引き続き庭の防衛を任されていたメイが尋ねる。


「ポイントだけ考えたらそっちの方がええかもしれへん。けどな、ほら」


 メイは、コンが指さした方を見る。すると、また別のギルドのパーティが数名、こちらに近づいてきた。

 何が起こっているのかと様子を伺いに近づいたら、掲示板の民に攻撃を受け、巻き込まれる。さらに遠くから見ていた別のギルドの先行部隊も、この異様な雰囲気に恐れを感じ、引き返した。


「あ、門の前の戦いを見て、引き返した?」


「ウチらは今4位。昨日よりも襲撃は確実に増える。だから今日はポイントは魔王はんらに任せて、ギルドクリスタルを守ることに専念するつもりや」


「なるほど。この混乱で時間を稼ぐ感じですね」


「そうや。ノリのええ連中で助かったわ」


 そして約2時間後。


「はぁはぁ……全部倒したぞ」

「結局、途中から参戦してきたギルドとも戦いになってしまいましたね」

「ふっ、これで心置きなく魔王城攻略に専念できるというもの」

「いやこれ無理でしょ」


 あの後、4位の竜の雛のギルドホームを攻撃しようと集まってきた近隣ギルドの襲撃部隊も巻き込んで、戦いはさらに激化した。

 生き残った掲示板の民は、エックスも入れて5人。到底他のギルドを攻め落とせる戦力ではなかった。


「何? 生き残りはたった5人か」

「まさかヨハンのやつ、ここまで考えて」

「チクショオオオオオ! 嵌められたって事かよおおおおお」


「いや最初から気付けよ!!」


 エックスが突っ込む。


「けどまぁ他にやることもないし……」

「一応戦って死ぬか?」

「だな」


「みなさーん、お疲れ様!」


 と、生き残った掲示板の民に、声が掛けられた。声のした方、門の上を見ると、コンが愛想よく手を振っている。


「お、美女発見」

「性格は悪そうだけどそれはそれとして美人だな」

「いや待てこれは罠……ぐぎゃああああ」


 エックスはコンの狙いに気づいたが、戦闘の疲れで反応が遅れた。掲示板の民がコンに注目している隙をついて、門の向こう側からメイの乗った召喚獣ブレイブマンモスが突進してきた。その攻撃を受けた掲示板の民たちは、ギリギリだったHPがゼロになり、消滅する。


「くっ……またメイちゃんにやられた」

「一歩進んで二歩下がる……」

「明日はこそは必ず……」

「明日だけじゃねぇ……イベントが終わったってまた来る……」

「……俺たちは止まらねぇからよ」


 消滅していく掲示板の民を見下ろしながら、メイは困惑気味に呟いた。


「この人たち……また来るつもりなんだ……どうして?」

「さぁ、なんでやろね?」


 メイの疑問に、コンはくすくす笑いながら答えるのだった。

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