第70話 初クエスト
「もっきゅ!」
アスカシティに到着と同時に、ヨハンはメニュー画面を開き、なんらかの操作をする。するとどこからかヒナドラが出現し、ヨハンの頭上によじ登る。ヨハンはさらにカオスアポカリプスから私服に着替えると、頭上のヒナドラをガシガシと撫でた。
「……あれ、ヒナドラが居る」
「ええ。この前メイちゃんに教えてもらって【連れ歩き】というスキルを習得したのよ」
「……ほほう」
「このスキルがあれば、手持ちから一匹を町中やフィールドで呼び出して、一緒にお散歩できるのよ。まぁ戦闘には参加できないんだけどね」
「……なるほど、戦闘には参加できない代わりに、ずっと実体化していられるわけだ」
「そういうこと」
通常召喚獣は、実体化しているだけでMPを消費し、ゼロになった場合消滅し、そこから24時間再召喚ができなくなる。
だが【連れ歩き】のスキルを使えば、それを気にせず、お気に入りの召喚獣と共にGOOの世界を冒険できるのだ。
「……もしかして、第三層から実装された新しいスキル?」
「いえ、それが半年以上前には実装されていたスキルらしいわ。メイちゃんが教えてくれなかったから、気が付かなかったのよ……」
なんて事を話しつつ、ヨハンとレンマはアスカシティをぶらりと散歩する。町並みは第一層のはじまりの街と全く同じなのだが、そもそもはじまりの街で過ごしたことが殆どないヨハンには、新鮮な景色だった。
しばらく歩いていると、お洒落な雰囲気のカフェを見つける。お互いにパフェを注文しテラス席に腰掛け、のんびりと雑談。ゲームとは言っても味覚は存在するので、美味しいパフェを思う存分味わうことができる……のだが。
「……お姉ちゃん。さっきから全然食べてないね」
「はい、あーん」
「もっきゅ! もっもっもっ」
「仕方ないのよ。ヒナドラが物凄く食べたそうに見つめてくるんだもの」
ヨハンはせっかく購入したパフェを自分では食べていない。スプーンは全てヒナドラの大きな口に運ばれている。
「……まぁ、お姉ちゃんがいいなら、それでいいんだけど。ん、ちょっと待って。なんかさ、ヒナドラとお姉ちゃん、前より仲良くなってない?」
「も?」
「え? 私とヒナドラは最初からずっと仲良しよ」
「……いやそうじゃなくて……なんというかヒナドラ側の挙動が……」
そんな言葉にし難い感覚をレンマが味わっていた時だった。
「きゃああああああああ」
二人の耳に、少女の悲鳴が聞こえた。
「……女の子の悲鳴? すぐそこの角みたいだけど」
「プレイヤーかしら?」
「……ううん。多分クエスト。ほら」
「イベント? あら」
レンマに言われて見てみると、ヨハンの目の前にはメッセージが表示されていた。
『召喚師用クエスト:お父さんを探して が開始されました。参加しますか?』
「へぇ、クエストってそういえば、受けたこと無かったかも」
「……なら、受けてみるのがいいかもね。ボクも付き合うよ」
「けど、初心者の私にできるかしら」
「……いやお姉ちゃん、何寝ぼけたこと言って……え、お姉ちゃんてば、まだ自分を初心者だと思ってるの? あの強さで……」
呆れるレンマを他所にしばらく考えた後、ヨハンは参加するのボタンを押した。そして、先ほど少女の声が聞こえた方へ向かう。
そこは、木に覆われた公園だった。その公園の隅で、3人の男が小学生くらいの女の子に詰め寄っている。
「ここは格好良くいくわ……やめなさい!」
叫ぶヨハン。ガラの悪い男達がこちらを振り返った。
「あ?」
「やんのかコラ」
「なんだババア?」
「……」
「……抑えてお姉ちゃん。ほら、何かメッセージが出てるよ」
ぐいぐいと男達を滅ぼそうとするヨハンを抑えながら、レンマが表示されているメッセージを見ろと伝える。ヨハンは横目でメッセージを読む。
『このイベント中、戦闘は召喚獣でしか行えません』
それを読んだヨハンは「へぇ……」と一言。
「俺たちに逆らったこと、後悔するなよ」
「懺悔の準備をしておけぇ」
「いくぜ野郎共……」
「「「召喚獣召喚」」」
三人のチンピラの声がハモる。すると、地面に幾何学的な魔法陣が幾重かに重なって、その中から巨大なTレックスが現れる。そして、現れたTレックスの体を、謎の黒い靄が覆うと、肉体は腐食し、剥がれ落ちる。残ったのは巨大な骨。だが、骨となっても失われない闘争心のまま、Tレックスは咆哮する。
「ひゃはは! 驚いて声も出ないようだな」
「これが俺たちの切り札。上級召喚獣【古代王スカルレックス】だ」
「謝るなら今のうちだぜ」
「……うぅ、なんか凄い強そうなの出てきたよ」
レンマは不安げに呟いた。一方ヨハンは余裕の表情だ。
「そんな召喚獣、私は34体も持っているわ」
以前コンと共に買い占めた召喚石の中に、あのモンスターも居たことを思い出す。そしてにやりと笑うと、ストレージから召喚石を取り出した。
「初陣にはおあつらえ向きの相手だわ。それじゃあ……召喚獣召喚――イヌコロ」
「わんわんわん」
幾何学的な魔法陣が出現すると、もっふもふの犬型召喚獣【イヌコロ】が姿を現した。
「……きゃわいい! って、イヌコロじゃ流石に」
「おいおい、そんな可愛いワンちゃんで」
「俺たちのスカルレックスを倒そうってか?」
「ワンちゃんがかわいそうだから交代を勧めるぜ」
「心配ご無用。イヌコロ、進化よ! ワープ進化するの!」
「わんわ?」
「ほら、あれよ。【進化召喚】を使うのよ」ゴニョゴニョ
「わんわん!」
イヌコロの体が、眩い光に包まれる。トランスコードによって解放されたイヌコロ3つ目のスキルはヒナドラと同じく【進化召喚】。自身のMPを全て消費することで、ストレージ内の【ワーフェンリル】を召喚条件を無視して特殊召喚することができる。
「フッ、ようやく出られたぜ」
そして、光の中からワーフェンリルが姿を現す。二足歩行の獣人で、全身を黒いライダースーツに包んでいる。頭部はオオカミで、長い鬣を後ろに流している。一見人間のようなシルエットだが、腕だけがかなり長く、確かに異形のモンスターなのだということを感じさせる。
「か、格好良いわ!」
ヨハンは思わずワーフェンリルのフサフサの尻尾に抱きついた。全体的に格好良く鋭くまとまっているが、尻尾だけはイヌコロ時代のままモフモフを継承している。ヨハンが抱きつくと、ワーフェンリルは恥ずかしそうに頬を染めた。
「ば、馬鹿野郎。恥ずかしい真似してんじゃねーよ///」
「ええ? いいじゃない。久々に会えたんだし~もっとモフらせて頂戴」
ヨハンにしてみれば、バチモンコラボ以来の再会である。その興奮は最高潮だ。
「……イチャイチャしてる場合じゃないよお姉ちゃん」
レンマが叫ぶ。どうやら敵は待ってくはくれないようだ。スカルレックスの口から黄土色のブレス「カースドフレイム」が放たれた。
「よっと」
「きゃっ!? いきなり何!?」
「掴まってろよマスター」
ワーフェンリルは尻尾に顔を埋めていたヨハンを引き剥がすと、そのままお姫様抱っこし、凄まじい脚力で跳躍。敵の攻撃を回避した。
「素敵だわワーフェンリル」
「ありがとよマスター。で、俺の敵はアイツでいいんだな」
マスターであるヨハンを見つめる時とは違い、鋭い瞳で地上のスカルレックスを睨みつけるワーフェンリル。
「そうよ。女の子にいやらしいことをしようとした連中の呼び出したモンスターなの。やっつけちゃって」
「そいつは許せねぇな。いいぜ」
ワーフェンリルは敵の追撃を躱しながら着地すると、ヨハンを降ろす。そして、地面に両手をついて、スキルを発動させた。
「呪縛の鎖――グレイプニール」
すると、スカルレックスの足下から無数の鎖が飛び出し、その体を拘束する。
「くっ、姑息な」
「スカルレックス、早く引きちぎれ」
ワーフェンリルのスキル【グレイプニール】は三本の鎖で相手の動きを止めるスキルである。鎖には耐久値が設定されており、拘束された対象は暴れたりすることでこの耐久値を削らなければ脱出することはできない。
「……凄い、敵の動きを止めたよ。けど、次はどうするの?」
「次はこうするのよ、ワーフェンリル!」
「おうよ。【デモンフリーズ】!」
ワーフェンリルが新たなスキルを発動すると、スカルレックスに水色のエフェクトがかかる。
「【デモンフリーズ】はグレイプニールで拘束している相手のスキルの発動を封じて、さらに防御能力も0にできるのよ」
「……凄い!」
「スカルレックスには特殊能力があるからね。それをあらかじめ封じておこうと思って」
上級召喚獣スカルレックスには【不死王】というHPが0になった時に発動する厄介なスキルがある。だがグレイプニールとデモンフリーズのコンボによって、【不死王】が発動することはなくなった。
「今よワーフェンリル」
「おうよ!!」
ワーフェンリルは駆け出すと、獣の早さで敵に接近。そして飛び上がる。
「――【カイゼルフィスト】!!」
そして、必殺の拳を敵の頭部に打ち込む。防御力が無となったスカルレックスでは当然耐えきれる訳もなく、頭部は砕け、全身は粒子となって消滅した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます