第71話 召喚術の研究者
スカルレックスを倒すと、「ばーかばーか」「あほー」等、負け惜しみを言いながら三人の男達は走り去っていった。このままバラバラにしようと思っていたヨハンだったが、追いかけられなかったため、クエストの仕様らしい。
「お姉ちゃんたち、是非お礼をさせてくださいな」
助けた女の子からそう言われたヨハンとレンマは、少女の家へとやってきた。
「……まるで研究所だね」
家に入ったレンマはそう漏らす。部屋の壁は背の高い本棚に囲まれていて、机の上には実験に使う器具やら空の召喚石が散乱していた。
そこでふと、ヨハンは違和感を覚えた。だが、それが何かわからなかったので、気になったことを聞いてみる。
「お父さんかお母さんは居ないのかしら?」
汚い部屋に顔をしかめながらヨハンが呟くと、女の子は俯きながら答えた。
「お母さんはずっと昔に死んじゃったの。お父さんは……仕事に行ったきり帰ってこないの」
「ねぇレンマちゃん」
「……うん。このクエストの名前は【私のお父さんを探して】だから。ねぇ君。実はボクたちも君のお父さんを探してるの」
「え、本当!!」
「ええそうよ。だから、詳しい話を聞かせて頂戴」
女の子は頷く。
女の子の父親はアスカシティでも有名な召喚術の研究者らしい。国からの依頼で街の地下の遺跡を調査していたらしい。今から一ヶ月ほど前、仕事に出たきり帰ってこなくなってしまったという。そして、この家にやってきた役人は「君のお父さんは行方不明になった」と告げると、いくつかの資料を持って居なくなったのだとか。
「……国が黒幕で間違いないね」
「ていうかこのゲームに人間の暮らす国とかあるの?」
ジェネシスオメガオンラインのゲームコンセプト。それはネットワーク上に出現した異世界を【デジタル冒険者】となって冒険するというもの。そしてこのネット上の異世界に関しては、様々なクエストをこなすことで集まった情報を組み合わせて考察していく必要があるのだが……バチモン以外に興味がないヨハンは、そういった情報に何一つ触れないままここまで来たのだ。
「……うん。国自体はまだ出てきてないけどね。まぁあくまで舞台設定の味付け程度の話だし、知らなくても問題ないと思うけど」
「そうなの……でもこの子がかわいそうなことに変わりはないわ。それで、私たちはどうすればいいのかしら?」
ヨハンは女の子に訪ねる。
「えっと。お父さんが調査していた遺跡を調べたいの」
「わかったわ」
「……行こう」
「あのね。ちょっと準備が必要だから。【明日】また、私の家に来てほしいの」
「……おっと、これは面倒になったねお姉ちゃん。これ、日付を跨ぐタイプのクエストだよ」
「へぇ、そんなのもあるのね」
「……確認されている最長のクエストは一週間かかるらしい」
「い、一週間……まぁ、気長に行きましょう。何せ今の私には【有給休暇】があるのだから」
***
***
***
その日の夜。
ヨハンがギルドホームの会議室でドナルドと雑談していると、気合い十分の表情をしたゼッカとオウガが、二人でどこかへ出かけようとしていた。
はじめこそ「きゃー! 二人ってそういう関係!?」と騒いでいたヨハンとドナルドだったが、その表情を見て考えを改める。とても逢い引きというような感じでは無く、さながら決戦に赴く武士のようであった。
「実は今からロランドさんに修行をつけてもらうんです」
ロランドとは、GOOのランキングイベントにおいて常にトップを維持しているプレイヤーである。ゼッカのライバルであるギルド【最果ての剣】ギルドマスターギルティアの兄でもあり、そういう意味ではヨハンたちにとっても敵となる人物なのだが。
「動画を見て勉強するより、直接本人に教わるほうが早いと思いまして。コネを使いました」
「コネって……ロランドちゃんだって忙しいでしょう。よくこんな時期にOKしてくれたわね☆」
「もし私たちの修行に協力してくれたら、貴方の妹の勉強の面倒を見てあげますって交渉したんです。即OKしてくれました」
「あらあら☆」
「勉強ならロランドさんが直接教えればいいんじゃないの?」
ヨハンの指摘に、ゼッカは困ったような顔をする。
「現実(リアル)のロランドさん、全然勉強できないんですよ」
ゼッカ曰く、ロランドは勘が鋭いらしい。テストでは選択問題を全て勘で当てることで学生時代を乗り切ったという。今何をして生きているのか非常に気になったが、それを聞くのはマナー違反だろうと、ヨハンとドナルドはぐっと我慢した。
「まぁとにかく、今日から三日間、私とオウガはロランドさんと修行します」
「わかったわ。何か成果が得られるといいわね」
「はい!」
「それじゃ、行ってくるっす」
二人は頭を下げると、ギルドホームを後にした。
その後、今日の昼間のクエストのことをコンに聞こうと待っていたが、その日、彼女は現れなかった。どうやらギルド対抗戦の日とその前日に休暇を取った為、仕事が忙しくなってしまったらしい。
また明日に備えようと、ヨハンはログアウトした。
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