第62話 メンバー決定

 その日ゼッカがログインすると、メッセージが届いた。開いてみると、それは先日メッセージを送っていたソロからの返信だった。


『ギルド【竜の雛】へのお誘い、大変嬉しく思います。ですが、私はこの名の通り、ソロプレイを貫く者。大変申し訳ありませんが、今回のお話はお断りさせてください  三刀流のソロ』


「意外に丁寧……」


もちろん他のメンバーと相談の上でだが、前から行っていたギルドの勧誘を断られてしまった。


「ソロさんなら大きな戦力になると思ったんだけどダメか」


そう。斬子に言われるまでもなく。ギルド対抗戦を6人だけで勝ち抜くのは不可能というのは、竜の雛全員の見解だった。だが、そこから先の考えは、各々によって分かれている。


ヨハン、煙条P、レンマは、楽しめればそれでいいと思っている。


コン、ドナルドは、ギルドを大きく強くしていこうと思っている。が、それはあくまで長期的な計画であり、次のギルド対抗戦で優勝したいとは思っていない。


かくいうゼッカは、次のギルド対抗戦で、斬子に負けたくないのだ。


「ソロさんがダメだったとなると……よし」


ゼッカはギルドホームに向かう道すがら、次は誰を勧誘しようかと考えを巡らせた。


***


***


***


「おやゼッカさん。丁度良いところに」


 ゼッカがミーティングルームに入ると、そこにはゼッカ以外の全てのメンバーが集結していた。平日には珍しい光景だ。ゼッカは早速、勧誘の話をしようと思った。だがそこには竜の雛メンバーの他にもう二人、見知らぬプレイヤーが居た。


「あ、来たのねゼッカちゃん。見てこの子たち。オウガくんとメイちゃん。うちのギルドに入りたいって来てくれたんだけど、いいかしら?」

「よ、よろしくお願いします」

「うっす」


 暗いトーンの茶髪の少年と、明るい栗色の髪をした少女。名はオウガとメイ。小学生プレイヤーだ。ヨハンや煙条Pは面識があったが、ゼッカは初対面である。


(もしかして、凄いプレイヤー!?)


と期待して、そして落胆する。彼らの頭上に表示されたレベルはオウガが28、メイが25だったからだ。


「あ、はい。別にいいと思います」


「許可が降りたな。それじゃあメイちゃん、お姉さんがじっくり指導したる!」

「よ、よろひく……お願いしましゅ」


コンは新人の召喚師(サモナー)が嬉しくてしょうがないのか、メイに頬ずりしている。


「ようこそ我らがギルドへ」

「歓ゲイするわ☆」

「よ、よろしくっす」


一方オウガはドナルドと煙条Pという狂人に囲まれ、顔を引きつらせていた。


そして、新人二人の歓迎ムードも一段落した頃。ゼッカはみんなに提案してみた。


「あの、次にギルドに勧誘するプレイヤーをリストアップしてきたんですけど」


 そのプレイヤー達の情報を、ホワイトボードに表示すると、コンとドナルドが難色を示した。


「その【カサノヴァ】って男は止めた方がええ。恋愛トラブル起こしまくる有名な問題児や」

「【ベクター】ちゃんと【ブリぶり】ちゃんも止めた方がいいわ。性格に難ありよ☆」

「失礼ながら【暴れん棒将軍】も除外した方がいいかと。以前パーティを組んだ事がありますが、とてもギルドで一緒にやってきたいと思える方ではありませんでした」


「ち、ちょっと……それじゃあこの人達を入れるのには反対って事ですか!?」


 ゼッカの言葉に、コン、ドナルド、煙条Pが頷いた。確かに腕の立つプレイヤーである事は間違いないが、一緒に居て楽しいかと問われれば、ノーなのだ。どちらかと言えば、問題の火種となりうる人物たちである。


「そんな……」

「もしかしてゼッカちゃん。次のギルド対抗戦で、優勝狙ってはる?」

「はい……私は最果ての剣に……ギルティアにどうしても勝ちたいんです」

「それはうちも一緒や。けどな。うちは今すぐじゃなくてもええと思う。このギルドを大事に育てて、いつか勝てればそれで……」

「いつかっていつですか! 今勝たなきゃ……意味ないじゃないですか」

「なら勝つために、人格に問題があるヤツ入れろ言うてはるん?」


「ストップ。落ち着いて二人とも。新人が怯えてるわ」


 ヨハンが止めに入る。そして、ヨハンはゼッカを優しく抱きしめると、諭すような優しい口調で訪ねた。


「何があったの? いつものゼッカちゃんなら、問題ある人をギルドに入れようなんて言わないわ。何か、あったんでしょう?」

「うぅ……ヨハンさん。その……ギルティアに、私たちのギルドをゆるいとか、ぬるいとか、色々馬鹿にされて……それで……絶対勝って見返してやるって思って」


 ゼッカの目には涙が浮かぶ。それを見たヨハンは優しく微笑んだ。


「そう……私たちのギルドの為に怒ってくれてたのね……ありがとうゼッカちゃん」

「……でも、ボクはゆるいのもぬるいのも事実だと思うけどね」

「せやね」

「で、でも! 他にも殺人ピエロとか、変態とか……馬鹿にされて」

「あはは、言われてますよドナルドさん」

「変態は多分アンタの事よ煙条P☆」

「なんと心外な!?」


「えっと……皆さん、怒らないんですか!?」


「まぁ……ねぇ?」

「本当の事やし」

「……寧ろゆるいのは良いこと」

「ちょっとちょっと~ワタシ人殺しじゃないわよ~☆」

「私も変態ではないのですが……」


「……」


 ゼッカは不思議だった。さっきまであんなにも『許せない』という気持ちが渦巻いていたのに。あからさまな挑発をしてきた斬子の事も。『まぁいいか』と許せるくらいに、その心は落ち着いていた。


「ふふ、凄い人達だな……もう」


ゼッカは微笑む。そして。


「さっきは変なことを言ってごめんなさい皆さん。これ以上、無理矢理メンバーを探すのは止めます。次の対抗戦は、このメンバーでどこまでやれるか。それを楽しみたいと思います」


そのゼッカの発言に、大人達は微笑む。


「そうやね」

「ま、気の合いそうな人が来たら、要相談ってカンジね☆」


 そうして、ギルドの雰囲気はピリついたものから暖かいものへと戻る。


「はぁ~ちょっと怖かったけど、まとまって良かったね」


少し離れたところでやり取りを見守っていたメイが、横に居るオウガに話しかけた。


「ああ。それに、ちゃんとギルド対抗戦に参加するみたいで安心したぜ……何せ俺は」


オウガはキッと、何か決意に満ちた瞳でヨハンを睨む。


「ユニークを入手する方法を聞き出す為に。そしてクロスに勝つ為にここに来たんだからな」


そしてゆっくりとヨハンの元へ向かう。そして。


「ヨハンさん。いやギルマス。俺と決闘(デュエル)してくれないか?」


無謀にも、ヨハンに勝負を挑むのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る