第63話 ヨハンVSオウガ

「……お姉ちゃんとデュエルか」

「生意気な新人やな」

「勝てるわけないわよ☆」

「ヨハンさんと戦いたければまず私を倒してからに……」


 竜の雛のメンバーはやんわりと止めたのだが、オウガは聞く耳を持たなかった。そのただならぬ雰囲気に何かを感じたヨハンは、デュエルの申し出を受けた。


「いいわよ。それじゃあ、地下に向かいましょうか」

「了解っす」


そして、ヨハン達は地下へ向かった。


 ヨハン達が拠点とするギルドホーム闇の城の地下には、闘技場が備わっていて、ギルドメンバーなら誰でも使用する事が出来る。その利用目的は対人戦の練習や新しいスキルを試したりと様々だ。また、賞品を用意すれば、他所のギルドを交えて大会を開いたりという事も出来るだろう。


 地下闘技場に到着すると、ヨハンとオウガがバトルフィールドに。その他メンバーが観客席に、それぞれ移動する。


「ところで、なんでオウガちゃんはいきなりヨハンちゃんに勝負を挑んだの☆?」


 観客席に「よっこらしょ」と腰掛けたドナルドが、もう一人の新人メンバーであるメイに訪ねた。メイは少し怖がりながらもそれに答える。


「えっと、オウガは【ユニーク】を凄く欲しがっているんです。ヨハン様を倒して皆さんに力を認められれば、手に入れた方法を教えてもらえるかもって……それで、その方法を参考に、自分も何かユニークを取りたいって」


 ドナルド達は顔を見合わせた。このギルドで【ユニーク】持ちはヨハン、コン、ゼッカ、煙条Pの4人。半数以上がユニーク持ちという事になる。だがそれは、もちろん狙って手に入れたものじゃない。


「ユニークってのはねぇ、狙って手に入るようなものじゃないのよ☆」

「けどオウガは、元【セカンドステージ】なんです。新しいギルマスと揉めて追い出されちゃったけど」


 ギルド【セカンドステージ】。その言葉を聞いて、ゼッカの顔色が変わる。


「やっぱりあの噂は本当だったのね」


ゼッカがつぶやく。メイは「噂?」と首を傾げたので、コンが補足する。


「セカンドステージのメンバーは全員ユニーク持ち。今、GOOではこの話題で持ちきりなんよ」


「し、知らなかったです。でも、それは本当です。ギルマスのクロスくんは、自分で3つ手に入れて、それでほぼ全てのユニークの入手方法を理解したみたいで。ギルドメンバーたちに次々取らせてますから。オウガはその……教えてもらう前にやめちゃったけど」

「しかし、条件を三つみただけでユニークの入手方法を理解したなんて、物凄い子ですね」

「……一を聞いて十を知るなんてもんじゃないね。そんな天才みたいな真似、あの子には無理でしょ」

「で、ですよね……無理ですよね。あはは」


メイは苦笑いする。


「でも、オウガはクロスくんの事をライバルだと思ってるんです。どうしても勝ちたいって。だからユニークを取りたいって、ずっと言ってました」

「勝ちたいから、ユニークをねぇ……」


ゼッカは微妙な表情をつくりながら、二人の戦いを見守った。


***


***


***


「さて、それじゃあ準備はいいかしら?」

「ああ、いつでもいーぜ」


 オウガは剣を構える。オウガの職業は剣士。Lvは28とヨハンの25より高く、モンスターの骨から作った鎧を纏っている。このレベル帯としては標準的な能力を持つプレイヤーだ。なので、間違っても1VS1でヨハンに勝つ事は不可能である。


 だが、オウガには秘策があった。目の前のヨハンを倒す秘策が。それは数日前、どのギルドに入ろうかと、親のパソコンを使い各ギルドの情報を漁っていた時。偶然その掲示板をみつけてしまったのだ。


【GOO】打倒ヨハン【被害者の会】12という謎の掲示板を。


 ヨハンというたった一人のプレイヤーの事が徹底的に研究されているその掲示板を「ストーカーかよ……」と呆れながらも、オウガは読み進めた。そこでわかった事は、ヨハンは持っている召喚獣のスキルを使えるという恐ろしい事実だった。


「勝てるわけねぇ……」


と思っていたオウガだったが、とある書き込みを見つけ、衝撃を受ける。


128.名無しの狐さん

ヨハンの弱点はMPや。色々なスキルでごまかしてるけど、MPをロックすれば勝てるはずやで



その書き込みを信じ、ここまでやってきた。


(必ずコイツに勝つ。そんで、このギルドの奴らのユニークの入手条件を聞き出す。そうすれば、俺にもユニークの入手条件がわかる筈だ。そうだ……クロスにできて、俺に出来ないワケがない)


「うおおおおおおおお!」


 オウガは愛用の両手剣【ボーンブレイド】を構えて一直線、ヨハンに向かって走る。それに対し、ヨハンはすっと手を伸ばすと、ヒナドラのスキル【ブラックフレイム】を放つ。


「そんなもんっ!」


 ヨハンの攻撃を、オウガは転がって回避する。そして。


「――マジックブレイク!!」


 剣を横に払うと、そこから斬撃が放たれる。それはヨハンに命中する。ダメージは入らない。だが。


「よしっ!」

「……あら?」


ヨハンは何か異常を感じたようで、首を傾げている。


「驚いているみたいだな! 今俺が使ったのはマジックブレイク! その効果により、あんたは1分間、MPが使用不能になった!」

「え、ああ……そうなの?」

「そういうことだ! ふふ、あんたの弱点がMPを封じられる事だってのは、調べがついてるんだぜ!」

「……え。私の弱点って、そうなの?」

「惚けても無駄だぜ。さぁ、今のうちに倒させてもらう!」


 観客席のコンが爆笑しているが、そんなことは気にせず、オウガはヨハンに接近する。そして、剣を振りかぶって連続攻撃をたたき込もうとするが……。


「――暴風!」

「は……!?」


 ヨハンを中心に突如、竜巻が発生し、接近してきたオウガの体を跳ね飛ばす。中級召喚獣、風の精霊シルフィードの防御スキルである。


「くっ……なんで、スキルを……」

「ごめんなさいね。どこで聞いたのかわからないけど。その情報、多分ガセネタよ」

「ウソだろ!?」

「その顔を見る限り、もう奥の手はなさそうね。どうする? ここで終わりにする?」


 オウガは悔しさに唇を噛んだ。こちらは真剣勝負を挑んでいるのに。向こうはまるで真剣じゃなかった。


(まただ……俺はいつも、誰にも相手にされず……誰にも認めてもらえない……)


 ヨハンの言う通り、奥の手なんてなかった。それでも。ただ負けたくなかった。


「うおおおおおお!」

「続けるのね。わかったわ――【放電】」

「――【加速】!」


 ヨハンの手から放たれるクワガイガーの電撃を、加速スキルでなんとか回避する。続けてヨハンはバスタービートルのバグを放つ。わらわらと群がる黒い虫たちを、オウガは必死に避け続けるが……。


「ぐっ」

「捕まえた」


 背後から首をつかまれ、体を持ち上げられてしまう。剣を振ってみるが、ヨハンの高すぎる防御力の前では、当たってもダメージにはならなかった。そのまま殺(や)られるかと思ったが、ヨハンはオウガの耳元で囁く。


「ねぇ、オウガくん」


ヨハンの声色はとても優しかったが、何か得体の知れない圧を感じ、オウガの全身がマナーモードのように震えた。


「さっき調べたって言ってたけど。私の弱点って、どこで聞いたのかしら?」

「ひぃ……お、教えねぇ……絶対に」


オウガは咄嗟にそう答えた。あのサイトを見たらヨハンも流石に傷つくだろうと思ったからだ。


「そう……じゃあ私が勝ったら教えてね」

「ちょっ、この状況で!? それは卑怯だろ……」


オウガは必死で体を揺らすが、まるで脱出できる気がしなかった。


「約束よ?」

「嫌だ、俺は……絶対に喋らねーぞ……ぐあああああ」


そのまま至近距離での連続ブラックフレイムを食らい、オウガのHPはあっけなく0になった。

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