第61話  最近テストが難しい国数英が特にムズい

 月曜日の昼。ゼッカこと、姫神絶佳(ひめがみ ぜつか)の通う高校にて。


「ふぅ。それにしても、昨日は疲れたな」


 昼食後、ゼッカは自席にて、昨日の事を思い出していた。イベントが終了した次の日の日曜は、かなり忙しかった。今回のギルドホーム襲撃イベントで竜の雛が手に入れたポイントは、大手ギルド達と比べれば、圧倒的に低い。だが、そのポイントを6人で分け合うとするならば、おつりが来るほどに大量のポイントを手に入れる事が出来た。6人全員がトランスコードを手に入れて、尚且つ愛用している装備を強化拡張するだけの素材が手に入った。


 無論、装備の強化は煙条Pが行う。失敗の許されない繊細な作業であるため、まだヨハンと絶佳の分しか強化が終わっていない。


 絶佳の持つ二刀流専用のユニーク装備デッド・オア・アライブ。強化したことにより、筋力上昇値が20+された。そして、白い剣で切った時にランダムで得られるガッツの数が、1~3に上昇した。これで今まで以上にガッツをため込み、破壊力のある一撃を繰り出すことが出来るようになった。さらに絶佳は把握していないが、ヨハンのユニーク装備カオスアポカリプスにも新しい能力が備わったようだ。


「これなら……次のギルド対抗戦……もしかして一位になれちゃったり?」


 絶佳は小さく呟いた。だがそれを、聞いていた者が居た。


「フフフ。甘いわね絶佳」

「斬子……」


 目の前に腕を組んで仁王立ちしているのはギルティアこと、獅子王斬子(ししおう きるこ)。GOO最強ギルドのギルドマスターにして、ランキング最強プレイヤーロランドの妹である。斬子は金色に染めた髪を揺らしながら笑う。


「はっ。あんなお笑いギルドでアタシたちに勝てると本気で思っているの?」

「お、お笑いギルド!?」

「だってそうでしょ?」


斬子は指折りながら言う。


「魔王女、ゴリラ、女狐、殺人ピエロ、変態……一体どこの面白人間博物館よ」

「くっ……悲しい事に否定できない……」


 斬子の発言を否定出来ない自分を許してと、絶佳は心の中で愛すべきギルドメンバー達に謝罪する。


「で、でも、みんないい人達よ」

「いい人? それで弱くちゃ話にならないわね」

「……くっ」

「ま、期待したい気持ちもわかるわ。あのヨハンは間違いなく強い。でも、ヨハンに関してはネットで攻略法が出回ってるのよね~」

「ヨハンさんの攻略法? ネットで?」

「そ。掲示板に書き込みがあったのよ」

「それってヨハンさんの身長や体重、好みのタイプや好きな食べ物、スリーサイズなんかの攻略に必要な情報が流出したってこと!? 私も知りたい!」

「いや、口説き落とす攻略じゃなくて、倒す為の攻略よ……絶佳アンタまさか」

「ギルドメンバーとより親密になるために欲しかっただけよ。深い意味はないわ」

「そ、そう。ならいいけど……」


(けど、ヨハンさんの攻略情報……一体誰が)


「とにかく、今のアンタ達は敵じゃない」

「なっ……」

「アタシの関心は【セカンドステージ】ね」

「セカンドステージ……」


 ギルド:セカンドステージ。その名は絶佳も聞いたことがあった。小学生以下限定のギルドで、リーダーはクロスというプレイヤー。勢力を伸ばしていると噂になっていて、最近では余っていた大型のギルドホームも購入したという。


「斬子が警戒しているということは……あの噂は本当なのね」

「ええ。ウチの情報班の話だとね……信じられないけど」


 こんな貴重な情報をペラペラしゃべるなんて、本当に自分たちの事を脅威と思っていないのだと、絶佳は悔しさを覚えた。だが今はそれを押し殺し、斬子から情報を引き出すことに徹する。


「ギルドメンバー全員が何らかのユニーク持ち。こんなの脅威にならないワケがないわ」

「全員が……」


 GOOのユニークスキルはピーキーなものが多いが、その分強力なものが多い。寧ろ性能が尖っていれば尖っているほど強力だ。対してヨハンや斬子の持つユニークは、汎用性が高く対応力がある分、個性的な強さはない。予測不能なユニークスキルで攻撃を仕掛けられれば、あっけなく負けてしまうだろう。斬子もそれを恐れているのだろう。


「ま、そういう事よ。最果ての剣と神聖エリュシオン教団、それに新進気鋭のセカンドステージ。次のギルド対抗戦は、この三大ギルドの戦いになるでしょうね。あら、どうしたの? 悔しそうな顔して。ま、最強のギルドを作るっていうアタシとの夢を捨てて逃げ出したんだし? ぬる~いギルドで、ゆる~く楽しむのがいいんじゃない?」


 絶佳は悔しさの余り唇を噛んだ。絶佳が最果ての剣を抜けたのは、斬子が誓いを破ったからである。『剣士職だけの最強ギルドを作る』という誓いを。


(絶対に負けたくない……私たちのギルドを馬鹿にされたままで……いいわけがない)


 そんな感情が絶佳の中で膨れ上がるが、ここは学校だと思いだし、ぐっと堪える。そこで初めて、目の前の斬子が英語の教科書を抱えている事に気が付いた。どうやら、何か質問に来たようだ。図々しいなと思いつつ、絶佳は尋ねてあげることにした。


「まぁゲームの話はこれくらいにして。何か私に聞きたい事があったんじゃないの?」

「そうそうそう、そうなのよ! 流石絶佳。全てお見通しというワケね」


 さっきまでの挑発的な態度はどこへやら。斬子の調子はかつて親友だった頃のものへと戻る。どこか偉そうな態度は変わらないが。


「明日の英語の小テストの範囲を教えて欲しいのよ」

「え……? テスト、次の5時間目だよ?」

「え? ……嘘ぉ」


 その時、昼休みの終了を告げる絶望のチャイムが鳴った。


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