第58話 開幕
昼の定期襲撃を退けた竜の雛のメンバーは一端ログアウト。各自食事や休息を済ませ、最終襲撃の一時間前、19時に再びギルドホームに集結した。
「いやはや、まさか私だけ落ちてしまうとは、お恥ずかしい」
「煙条はんにも羞恥心があったんやな。今日一番の驚きや」
「ともかく、ポイントは順調。この勢いでクリアするわよ☆」
前回の襲撃でベリアルカーサンを撃破したヨハン達。おそらく、より強力なベリアルがやってくると思われるが。
「それに関して、何か情報はないの?」
「あらへんよ」
「……多分、最後の襲撃限定のモンスターなんだと思う」
ベリアルカーサンの次のベリアルモンスターの情報はどこのギルドも持っていない。ぶっつけ本番の応用力が試される事になるだろう。
「今集まっているポイントで、皆さんの装備強化に必要な素材を取るには十分。ここは確実に行きたいですね」
生産職の煙条Pはそう言った。つまり、次の襲撃を守り切れば、ヨハン達全員が大幅なパワーアップを果たすことが出来る。
「ええそうね。それじゃあ、気合い入れて行ってみましょうか☆」
ドナルドが注目とばかりにホワイトボードをバンバン叩く。そこには城の図が書かれており、ギルドメンバーの大まかな配置が書かれていた。
庭がゼッカと煙条P。
ロビー、2F、3Fを全て召喚獣に任せ、4Fにコン、ドナルド、レンマ。
そして最後の王座の間にて、ヨハンが待ち受ける。
その図を見て、ヨハンは首を傾げる。
「今更なんだけど、最初から全員で掛かった方が手っ取り早くないかしら?」
ヨハンの疑問に、ドナルドが答える。
「それもいいけどね。敵の能力がわからない以上、貴重なプレイヤーは分散させた方がいいのよ☆ もし敵が理不尽なスキルを持っていて、それを私たち全員が受けてしまったら、ゲームオーバーじゃない☆」
「確かに……」
「また海賊王みたいな糞ゲー仕掛けられるかもしれないですからね」
「ええ。だからこそ、一番応用力のあるヨハンちゃんが最後の砦なのよ……。あら、そろそろ時間かしら。さぁみんな。配置につくわよ☆」
短い会議は終わり、ヨハン達は全員配置についた。
***
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「しかし、なぜ強力な上級召喚獣を出し惜しみするのでしょうか?」
最後の襲撃の少し前。庭にてスタンバイしている煙条Pが、横にいるゼッカに疑問を投げかけた。庭にはクワガイガーとクリスタルレオという超級や、ダークマジシャン等上級モンスターも居るには居るが、それ以外の殆どが初級、中級のモンスター達である。
「ああ、もしかして煙条Pは召喚獣に詳しくない感じですか?」
「ええ。フレンドに居ませんでしたから」
「あはは……召喚師の人達って、排他的でしたからねぇ」
苦笑いしつつ、ゼッカは何故、ドナルドやコンが上級召喚獣をもっと積極的に設置しないのか答える。
「中級以上の召喚獣は、手に入れた段階ではスキルが封印されているんですよ。1つしかスキルを使えない状態なんです」
そして、スキルを解放する為には1体単位で素材、ゴールドが必要となる。そしてその要求数は上級召喚獣の方が遙かに多い。
いくらベテラン召喚師のコンであっても、全ての召喚獣のスキルを解放している訳では無い。だから、殆どの上級召喚獣達は、スキルが未解放のまま。スキルが1つしかない状態なのだ。そして、最初から使えるスキルの殆どは、使いづらいスキルなのだ。
「なるほど。ならいっそ、中級の方が役に立つという訳ですか」
「そういう事です。結局、サモナーが直接指示を出すのが、一番強いんですよね、召喚獣は」
「はは、違いありません……おや、そろそろですか」
庭の入り口から、モンスターがわらわらと入り込んでくる。そのメンツの中には、高難易度ダンジョンで見かけるようなモンスターまで混じっている。
「どうですかゼッカさん? ベリアルと思わしきモンスターは?」
「今の所見当たりませんね。ですが、やることは一緒です。なるべくここで数を削ります」
ゼッカは背の剣を引き抜いた。
このイベント中に装備しているのは、いつものユニーク装備【デッド・オア・アライブ】ではなく、二種類の片手剣。与えたダメージの10%分のHPを回復する【吸血剣ブラッドソード】。そして闇系のモンスターにダメージ補正が+される【聖剣ゼットカリバー】である。
「やる気ですねゼッカさん。それでは私も……」
「ええ……またそれやるんですか?」
煙条Pがスキル【ライブフォーユー!!】を発動させると、彼の前にスタンドマイクが出現する。
煙条Pがいつもアイドルの衣装を着ているのは、何も彼が変態だから……という訳では無い。彼が着てるユニーク装備【サクラハピネスSF】に備わるスキル【ライブフォーユー!!】が非常に強力なスキルだからである。
その能力とは、スキル発動後、アイドルスターズの楽曲が流れる。全5種類。その中から、発動プレイヤーが選曲出来る。それぞれの曲につき1つ、味方に超強力なバフを掛ける事が出来る。ただ、弱点もある。
一つは、そのバフは煙条P自身には効果が無いこと。もう一つは曲に合わせて、煙条Pが歌とダンスを完璧に再現しなくてはならないという事だ。もし音を外したり、ダンスを間違えてしまえば、その時点でバフの効力は失われる。
「さらに、このスキルには大きな弱点があります。敵のヘイトを集めてしまうという、大きな弱点が」
「でしょうね」
「しかし、このイベントはヘイトが関係ないイベント。私のスキルを存分に発揮できる。さぁ私の歌を聴け! タイトルは『OH MY GOD!!』」
軽快で可愛らしい曲が流れ始める。そして、Aパートが始まる。煙条Pの歌う、Aパートが。
「オマイガ~♪ オマゴ~♪」
「なんか無駄に声がいいですね……」
微妙な気分で剣を構えつつ、ゼッカは敵に突進する。煙条Pの『OH MY GOD!!』によって、ゼッカは無限に【ガッツ】が掛かった状態となる。目の前には、超強力なモンスターの群れ。
「さて、どうなることやら……」
こうして、防衛イベント最終戦がスタートした。
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