第59話 ベリアルキング

「ファイナルセイバー!!!」


 黄金の輝きが、庭に居るモンスター達を粉砕する。片手剣最強の攻撃スキルで敵をなぎ払ったゼッカは周囲を見渡して、ため息をついた。


「ベリアルは? いない……もう、私が倒したいのに!」


苛ついたゼッカはそのとき、奇妙な音を聞いた。


「キェエエエエエ」


聞き慣れない言葉に、ゼッカは上空を見上げた。


「あれは……ワイバーン?」


 ワイバーン。GOOにはあまり居ない、飛行タイプのモンスターである。メテオバード達が迎撃に向かうが、敵が頭上を飛び回っているのは、なかなか落ち着かない。


「でも、煙条Pの無限ガッツもあるし、なんとかなるかな」


 もしワイバーンの火球を不意に食らっても、ガッツで耐えればなんとかなる。自分はとにかく地上の敵に集中しよう。そう思っていたとき。


「キェエエエエエエ!!」


上空のワイバーンが火球を放つ。その火球の向かう先はゼッカではなく……。


「オマイ……ぐあああああああああ!?」


『【煙条P】のHPが0になりました。煙条Pは死亡しました』

「煙条Pぃいいいいいいい!?」


 ワイバーンの火球一発で煙条Pが持って行かれてしまった。これでゼッカを守っていた無限ガッツは尽きる。


「くっ……こうなったら破れかぶれ……とにかく一匹でも多く倒す!」


 そう気合いを入れ直すゼッカ。だが、その数メートル横を、見たことないモンスターが駆け抜けていった。赤い甲冑を纏ったモンスターだ。注視すると、その頭上には【ベリアルキング】と表示されていた。ベリアルキングはゼッカには目もくれず、召喚獣達の攻撃を搔い潜りながら、城目掛けて走って行く。


「く、通す訳には……ああもう!!」


ゼッカは他のモンスター達に囲まれて、身動きが取れない。そして、ベリアルキングは城の中へと侵入した。


***


***


***


それからわずか10分後。

赤い甲冑を纏った青白い肌をした魔族のようなモンスターは、ドナルド達の待つ4Fへ姿を現した。


「あらあらあらあら……もう来ちゃうなんて……どういう事かしら?☆」


 ゼッカからメッセージを受け取っていたとはいえ、あまりにも早いベリアルキングの4F到達に、ドナルドは驚愕する。ロビーや2F、3FにもAI操作とはいえ、強力な召喚獣達が守りを固めていたからだ。


「ギルドホームの守りを突破するのに特化したモンスターなんやろ」

「……きっとそう。だからこそ、ここで止めるよ」

「せやね。ほな、召喚獣達!!」


 コンのかけ声で、4Fに配置されていた召喚獣達が一斉にベリアルキングに襲いかかる。

 メイドラグーンやユニコーンなどの中級召喚獣、それらに混じってレンマがベリアルキングと戦いを開始する。だが、その目的は足止めだ。

 レンマ達が時間を稼いでいる内に、コンはバックアップチアを使い、ドナルドを強化する。


「フンヌ……漲るわ☆」


 さらに【闘魂・極】と【闘魂・零】を発動し、己の筋力値を限界まで上昇させる。


「……準備終わった? それじゃ……」


 レンマはパーティメンバー同士の位置を交換出来るスキル【ポジションチェンジ】にて、自分とドナルドの位置を交換する。これにより、一瞬でドナルドはベリアルキングの背後に移動する。


「これでおしまいよ☆」


ドナルドは右腕を大きく振りかぶると、敵に向かって叩きつけた。


「ドナルド☆マジック!!」

「ぐああああああああああ」


ドナルド⭐︎マジック(ただのパンチ)を受けたベリアルキングは大きく上空へと打ち上げられ、天井に激突する。HPゲージはみるみる減り、0になる……と思われたが。


「何なんあれ?」

「……初めて見た」


HPゲージが0になった途端、その上にもう一本のHPゲージが出現したのだ。さらに、フィールド全体にスキルが発動する。


『ベリアルキングのスキル【悪のオーラ】が発動しました。プレイヤーの全ての強化状態が解除されます』


「なるほどね。バフを盛って一撃でクリアする……そういう輩への対抗策ってワケ☆」

「こりゃ、魔王はんもあかんかも」


『ベリアルキングのスキル【ゲートオープン】が使用されました』


 さらにベリアルキングが新しいスキルを発動する。すると、地面にゲートが開かれ、そこからモンスター達が湧いて出る。そのメンツはトゥルーヴァンパイアやデスデーモン、ケルベロスなど。どうやら庭にいるモンスターの一部を直接ここに呼び寄せたらしい。


「ドナルドはん、あのゲートから呼び出されたモンスター、【デコイ】が掛かってはる」

「嘘~それじゃあベリアルキングを止められないじゃな~い☆」

「……不味いね。ベリアルキングが出口に向かってる」

「敵だけヘイトコントロール出来るの卑怯やー」


これこそがベリアルキングが下の階層を速攻で突破してきた理由である。

【ゲートオープン】により、【デコイ】状態の部下達を呼び出し、召喚獣の攻撃を自分から外す。その隙に奥へと進んでしまう。


「こうなったらヨハンちゃんに託すしかないわ☆」

「せやね。魔王はんなら、なんとかしてくれはるわ」

「……お姉ちゃん、頼んだよ」


***


***


***


ベリアルキングは静まった王座の間へとたどり着く。すると、出迎えたのはヨハンと一匹の召喚獣。その名もヒナドラ。


「うふふ。待っていたわよベリアルさん」

「もっきゅ」

「こっちは準備万端よ。それじゃあ、早速始めましょうか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る