第54話 イベント初日

 イベント開始の月曜日。残業を終えて帰宅した圭は夕食を簡単に済ませると、時間はすでに23時を回っていた。すぐさまログインする。



 王座の間にはドナルドとレンマが集まっていた。


「やってるわね」

「遅かったわね☆」

「……待ってたよ」


 軽く挨拶を交わし、本題に入る。


「で、イベントはどうだった?」

「……ボクから説明するよ」


 11時と20時の両方の襲撃に居合わせてくれたレンマが、その時の映像を表示しながら語る。

 まず11時から始まった定期出撃。襲ってきたのはスライムやゴブリン、コボルトといった弱小モンスター達が100体ほど。これは庭に配置していた初級モンスター達、約300体の数の暴力で凌ぎきる事が出来た。


「続けて20時の定期襲撃ね☆」


 ここからドナルドが参加。だが、11時分の展開を聞いていたドナルドは、今回の襲撃も召喚獣だけで守れるだろうと判断。消滅してしまった召喚獣の分を補填し、見守る事にする。


 20時の定期襲撃。

 敵の数は倍の200体ほど。先ほどのメンツに加え、ダークウルフなどの機動力に優れたモンスターや、オーガなど総合的にスペックの高いモンスターが追加されていたようだ。それらの強いモンスター達の一部が庭を突破し、内部に侵入したという。


「まぁロビーの中級召喚獣達が全部仕留めてくれたけどね☆」


 ドナルドがウィンクした。


「このイベント、襲撃に来るモンスター達が強くなっていくんですね」

「あら、やっぱり気が付いたみたいね☆」


 ヨハンの言葉に、ドナルドが応える。


「……掲示板の情報も合わせると、そうみたいだね。ランダム襲撃は無かったけど、他のギルドによれば、定期襲撃ほどの数は来ないみたいだけど」

「このままイベントが進んでいけば、どうなるのかわからない……か」

「そういう事。それと、他にもわかった事があるのよ☆」


 まず、このイベントで襲撃にやってくるモンスター達には、【デコイ】などのターゲット集中スキルが通用しない事だ。皆、真っ直ぐにゴールを目指してくる。


「厄介ね」

「ええ。スケープゴートとか、いくつか配置していたけど、役に立たなかったもの☆」


 それと、やはり効果が複雑なスキルを持っていても、それをAIが使いこなせているという感じがしないという。


「複雑なスキルより、単純に攻撃的なスキルを持っている召喚獣を配置した方がよさそうですね」

「ええ。それに今回は初級だけを庭に配置していたけど、上級と中級も織り交ぜて、敵の数を削った方が良いわね☆」


という訳で、次の襲撃からは庭に二種類の上級モンスターを設置する。


 一体目は【ホワイトドラグーン】。

複雑なスキルは持たず、戦闘能力に特化した白き竜のモンスター。スキルは超強力な魔力を吐き出す【レジェンドストリーム】。


 二体目はコン一押しの召喚獣【ダークウィザード】。

 リトルウィザードが大人になった様な姿で、漆黒のローブに身を包んだ魔法使い型のモンスター。本人の戦闘能力はそれほどではないが、超強力な闇属性攻撃【アルテマバースト】。

 敵の攻撃を吸収し跳ね返す【カウンターマジック】。

 10秒ごとに最大MPの10%を回復する【マナ増強】という、雑に強力なスキル三つを持つ。


 明日はこの二体を設置して、様子を見ることとなった。


「美形の魔法使いねぇ……嫌だわ、キャラ被り☆」

「いや、1ミリも被ってないです」


 性別も違……いや、ドナルドはどうなのだろうか。そんな事を考えていると、突然メッセージが表示された。


『1分後より、ランダム襲撃が開始されます』


 ヨハン達三人が王座の間のデッキに出ると、庭の入り口には既に多くのモンスターが集結していた。


「……数は150か。さっきの襲撃よりも数は下っと」

「やっぱりランダムの時は襲撃数は下がるのね☆」

「……情報通り。これなら誰も居ない時でも召喚獣達だけで守り切れる」

「ねぇ、だったらこのモンスター達、私が倒してもいいかしら?」


 ヨハンの提案に、ドナルドとレンマが首を傾げる。


「守り切れるとは言っても、やられちゃう召喚獣が出てくるでしょ?」

「ま、無傷という訳にはいかないわね☆」


 やられた場合、今から24時間は使えなくなってしまう。すると、明日の11時と20時の襲撃には使えない。


「だったら、ここは私が倒すわ」

「いや、そんな事出来るわけ……出来ちゃうわけ?☆」

「ふふ、任せて」


 ヨハンは増殖し、それぞれの分身に【フラワー・オブ・ライフ】を掛けさせる。さらにプレレフアを召喚、【フラワー・オブ・ライフ】。さらに自分で自分に【フラワー・オブ・ライフ】。そして【闘魂・極】を使用し、デッキから庭へと飛び降りた。


 敵が迫るにつれて、自軍の召喚獣達が実体化していく。だがヨハンの攻撃は味方召喚獣にダメージを与える事はない。ヨハンは遠慮なく攻撃スキル使用の準備に入る。


「ヘラクレスオオカブトの構え・扇!!」


 ヘラクレスオオカブトの構え・扇とは。バスタービートルのスキル【テラーズブラスター】を撃つ際、軸足を中心に体の方向をズラす事で、より広範囲に向かって攻撃が出来るのだ。圧倒的な火力の前に、ランダム襲撃にやってきたモンスターは次々と消滅していく。


「ぐぎ……」

「あら、まだ残っていたのね……」


 数体のモンスターに守られるようにして倒れていたのは【魔界王子ベリアル】という、青白い肌をした人型のモンスターだった。まだ子供のような体格のモンスターが、ゆらゆらと立ち上がり、ヨハンの前から逃げ帰ろうとしている。


しかし。


「――【メテオレイン】!」


 仕事帰りのヨハンは、ストレス解消のはけ口を絶対に逃がしはしない。ヨハンが天に手を掲げると、メテオバードのスキル【メテオレイン】が発動。空から火球が降り注ぐ。

 一発目と二発目でベリアルの退路を塞ぐ。そして三発目の着弾による爆風でベリアルは吹っ飛ぶ。助かったかと思いきや、そこへ四発目、五発目が降り注ぎ、ベリアルを完全に消滅させる。


「ちょっとちょっと~ホントに一人で倒しちゃったわよ~☆」

「……うん。仕事帰りのお姉ちゃんは怖い」


 ドナルド、レンマの二人は改めてギルドマスターの頼もしさと恐ろしさを味わうのだった。


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