第8話 階層ボスの洗礼
「ギチィィィ」
中に入ると、そこはとても広い空間だった。そして中央には土が盛ってあり、その上には巨大なモンスターが待ち構えていた。
「クワガイガー……かなり大きいモンスターね」
箱でできたような黒いゴツゴツした身体に、電子回路のような模様が青白く光っている。さながら、メカクワガタと言ったところか。イベントを除けば、今まで戦ってきたどのモンスターよりも強いだろう。
「ギチィィイイイイ」
クワガイガーが不愉快な声を鳴らすと、体中から電撃が迸り、フィールド中に落雷が降り注ぐ。
「嘘……速い!?」
そのあまりのスピードに対応できなかった。ヨハンのHPは一瞬で消滅し、残すところ1となってしまう。
『スキル【ガッツ】が発動しました』
召喚獣のスキルを使えるヨハンに、ヒナドラのスキル【ガッツ】が適用される。
「助かった……10秒無敵の間に態勢を立て直して……って、ええ!?」
その時、自分の身体が動かなくなっていることがわかる。そして、自分のステータス欄に状態異常【スタン】と表示されていることに気が付いた。
スタンの状態異常は10秒間その場で動けなくなるというもの。これでガッツのメリットが死んだことになる。
「よし、動けるようになったわ! 召喚獣召か――うわあああ!?」
ガッツによる無敵状態とスタンが同時に解除された瞬間、再び雷攻撃がヨハンの身体に直撃する。これで終わりか……そう思ったとき。
『スキル【ガッツ】が発動しました』
「え? どうして?」
なんと再び【ガッツ】のスキルが発動したのだ。
(どうして? ガッツって一日一度までのスキルだったはず……もしかして!)
ヨハンはマジックゴーレムの持つ【魔力放出】が重複していたことを思い出す。
(ひょっとして、ガッツは召喚獣の数だけ使えるってこと!?)
ヨハンの持つ初級召喚獣でガッツを持っているのはヒナドラとワンコロ。その数は合計で13個。今2回発動したから、あと11回ガッツを使える計算になる。
「でもガッツを使えたって……このままじゃ」
ガッツで耐えたとしても、スタンを受けて動けなくなる。そしてスタンが解除されれば、すぐさま次の雷攻撃が来てしまう。
「無限ループって奴よね……厳しいわ」
この後もヨハンは、一歩も動くことができずに雷攻撃によるスタンを食らい続けた。
「く……もう10回目……ガッツも残り3回……」
しかし、10度目のスタンを食らったとき、状況が変わった。
『スキル【スタン耐性・小】を獲得しました』
【スタン耐性・小】
スタン症状を50%の確率で無効にする。
《入手条件》
一定時間内に10回スタンさせられる。
「こ、これなら!」
ガッツによる無敵、そしてスタンが解除される。すると、再び回避できない雷攻撃を身体に受ける。
『スキル【ガッツ】が発動しました』
『スキル【スタン耐性・小】が発動しました』
「やった! 今度は動けるわ!」
このチャンスを活かさない手はない。ヨハンはゼッカから貰った召喚獣の一体を呼び出す。
「召喚獣召喚――スケープゴート!」
幾何学的な魔法陣から、丸いぬいぐるみのような羊のモンスターが現れる。このモンスターも特別なスキルを三つ持っている。その内の二つを使い、攻撃のチャンスを作る。
「スケープゴート、【増殖】よ!」
「メェー!」
ヨハンの指示を受け、スケープゴートの身体が3つに分裂する。【増殖】は自分の分身を2体生み出すスキルなのだ。さらにもう一つのスキルと組み合わせることで、絶大な効果を発揮する。
「続けて【デコイ】を発動よ!」
3体の内の一体に発動させた【デコイ】は、一定時間の間、敵の攻撃を引きつけるスキル。
「ギィイイイイイイイ」
デコイの効果によって、フィールド中に降り注いでいたクワガイガーの雷撃は、スケープゴートに集中する。自分の想定通りの展開に持っていけたことに、喜びを感じる。
「メェエエエエ」
雷撃を食らったスケープゴートの消滅を確認すると、次のスケープゴートにデコイを発動させる。これを繰り返せばあと二回、敵の攻撃を無力化できる。
「――ブラックフレイム!」
その隙に、ヒナドラのスキル【ブラックフレイム】を敵に撃ち込むヨハン。【魔力放出】の重複により500を超えた魔力から放たれる炎のスキルは、クワガイガーにとてつもないダメージを与える。
「でもさすがに一撃では無理よね。でも、あと4発撃てるのよ――ブラックフレイム!」
二発目が命中すると同時に、敵の攻撃によって二体目のスケープゴートが消滅。最後のスケープゴートにデコイを使わせ、三発目のブラックフレイムを撃ち込む。
「ギチギチギチィィイイイイイ」
三発目のブラックフレイムで、なんとかクワガイガーのHPを削りきることに成功した。クワガイガーの姿が光の粒子となって消滅し、反対側の扉が開く。そしてクワガイガーが居た場所に、一つの宝箱が現れる。
『レベルが15に上がりました』
レベルは上がったが、新しいスキルを覚えることはなかった。まぁさっき一つ覚えたしいいかとヨハンは宝箱へと手を伸ばす。中に入っていたのは召喚獣のクリスタルだ。だが色は黄色く輝いていて、他のものとは違うことを感じさせた。
召喚獣【クワガイガー】
超級:召喚術スキルの有無に限らず、召喚することができる。《譲渡不可》
《入手条件》
召喚師が初挑戦かつソロでクワガイガーを撃破。
「これ、今戦っていたクワガタを召喚できるってこと? 凄い! これでランキング戦? でもきっといい結果が残せるわ! うふふ、待っててね中級の召喚獣たち!」
ヨハンはクワガイガーの召喚石をストレージに仕舞うと、スキップで第二層を目指すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます