第9話 イベントに向けて準備

「ふぅ……今日は疲れたわ」


 哀川圭は帰宅するなり、自宅のソファーに倒れ込んだ。


『ふぇええええん哀川さあああん。仕事終わらないでずぅうう手伝ってぐださいいい』


 と泣きついてきた後輩の仕事を手伝っていたら、大分遅くなってしまった。コンビニのサラダと寒天で腹を満たすと、機材を準備し、ジェネシス・オメガ・オンラインへログインした。



 ログインすると、そこは雪と石の壁に囲まれた、城塞都市だった。第二層は雪のエリアなのだ。ヨハンは適当な宿屋に入り部屋を借りると、召喚獣ヒナドラを呼び出す。


「もっきゅ!」

「んきゅー!! うふふ、相変わらず可愛いわねーもうっ!」


 召喚したヒナドラを抱きかかえると、そのままベッドにダイブする。そしてヒナドラを抱きしめながらゴロゴロと転がる。


「はぁあああ幸せ。私ここに住みたい……永住したい」


 他人には到底見せられない顔で幸せを満喫したヨハンは、早く中級のバチモンも召喚したいと思うようになる。

 中級クラスのバチモン召喚獣はソードエンジェル、バスタービートル、メテオバードの三体。それらは《かわいい》というよりは《格好良い》部類の見た目をしているモンスターたちだ。

 イベントでモンスターのクオリティを確認しているヨハンは、なんとしてもその三体を自分の自由にしたかった。


「召喚してあんなことやこんなことを……ぐへへ。さて、そのためにはランキングイベントで勝たなくちゃね。一応確認しておこうかしら」


 ヨハンは切り替えが早かった。メニューからイベント予定を開き、ランキングイベントの概要を確認する。


【定期ランキングイベント開催】

日時:4月12日(土)10:00 14:00 19:00


《参加条件》

第二層到達。Lv:10以上


 各時間のどれか一つに参加可能。事前にいずれかの時間に申し込み。

 参加時間にログインしていれば、自動でイベントエリアへと転送される。


 イベントエリアではレベル帯ごとに30~50人ずつの部屋に分けられ、20分間のバトルロイヤルを3回行う。プレイヤーを倒した数、倒したプレイヤーのレベルからポイントが割り振られる。



「いっぺんに30人以上と戦うってことかぁ。不安ね。あのボスにもかなり苦戦しちゃったし」


 ヨハンの脳裏に、昨日戦ったクワガイガーの姿が過る。辛勝だった。あの時こそ浮かれていたヨハンだったが、冷静になってみれば、いろいろと反省点の多い戦いだった。


「参加条件が第二層到達ってことは、全員がクワガタを倒してきたってことよね。はぁ。みんな強いんだろうなぁ……」

「もきゅきゅ」


 自信なさげにため息をついたヨハンを励ますようにヒナドラが鳴いた。短い手でポンポンとヨハンを叩いている。


「そうよね。貴方の仲間を呼べるように、私頑張るわ」

「もっ!」

「ひとまず一層に戻るわよ!」


 階層間の移動はワープポータルで一瞬で行えた。


 ヨハンが一層に戻ってきた理由はいくつかある。まず、ランキングイベントは次の土曜と時間が無い。火曜と金曜はジムがあるし、今日のように急な残業が入ることを考えれば、準備に充てられる時間はそこまでない。

 だったら、残りの時間を一層のまだ攻略していないダンジョン探索に充て、マジックゴーレムのようなコモン召喚獣を集めるほうが自分の力を高めることになるのでは? と考えたのだ。


「よし。残りの時間は全部探索に使うわよ!」

「わんわんわん!」


 ヨハンは【もの拾い】スキル持ちであるイヌコロと共に、未探索のダンジョンへと潜っていった。


 結果、レベルは16に上昇した。




「あの、本当にいいんですか? 釣り合ってない気がするんですけど?」

「いいのいいの。私が持っていても使わないから」

「やったー! じゃあトレード成立です!」


 そして、メニューから開けるトレード掲示板も活用する。召喚石を集める過程でゲットした鉱物系の素材やレアアイテムを出品し、狙いの召喚獣を集めたのだ。

 召喚師(サモナー)以外は召喚石の使い道がないので、面白いくらいトレード依頼が舞い込んできた。



 そうして、《筋力》を50上昇する【筋力増強】を持つ召喚獣マッスラーを10個。

 《防御》を50上昇する【レアメタル】を持つメタルスライムを10個。

 《器用》を50上昇する【職人の手】を持つノームを10個。


 全部で30個の召喚石を手に入れることに成功するのだった。


「ふう。結構頑張ったわよね、私」

「もっ」


 金曜の夜。


 飲みの誘いを断ったヨハンは二層の宿屋にて、召喚獣ヒナドラと共にくつろいでいた。明日はランキングイベント。土曜だというのに午前中は仕事があるので、19時の部に参加予定である。その最終確認として、自分のステータスを確認していたのだ。



名前:ヨハン Lv:16


職業:召喚師(サモナー)


HP:30/30 

MP:75/45(+30)


筋力:20(+500)

防御:20(+550) 

魔力:20(+500) 

敏捷:20 

器用:20(+500)


頭 :カオスアポカリプス

胴 :カオスアポカリプス

右手:カオスアポカリプス

左手:カオスアポカリプス

足 :カオスアポカリプス

装飾:マジックリングZ

装飾:なし

装飾:なし


スキル

【初級召喚術】【シフトチェンジ】【視覚共有】【スタン耐性・小】



 余った素材アイテムは売却し、その金で最大MPを増やす装飾品マジックリングZを購入。


「これなら……一方的に負けることはないでしょ」


 ぐっと伸びをして、ログアウトの準備をするヨハン。どうやら明日の仕事に備えて早めにログアウトするようだった。その背中をヒナドラが「大丈夫だよ」と励ますように、見守っていた。

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