第4話 軍の解体って簡単にできるの?
「いやぁいきなり最難関から攻略とか僕にしかできない芸当だろうなあ」
一人、また一人と去っていく。大半が城での生活を惜しんでくれた。帰る場所がない者をいきなり野に放り出すのは不親切なので魔王城を売ったお金で退職金を用意した。
「行き場のなかった俺たち一家を引き取って面倒見てくれた御恩、一生忘れません」
「まおーさま、ばいばい~」
「ヨルドにミルド、元気でね。君たちが作る新鮮な野菜が食べられなくなるのが寂しいよ」
「はっはっは。ほとんど趣味ですからね。我々はしばらく飲み食いせずとも大丈夫ですし、言っていただければあんな物いつでも持っていきます。それでは魔王さま、ご武運を」
「うん。奥さんも、またね」
ニコニコと笑って言葉少なな奥さん。無骨だけど芯の通った旦那のヨルドに、五歳になった息子のミルド。そんな豚人族(オーク)の家族を見送って、仕事は一段落した。
「これで全員かな?」
「はい。それにしてもさすがに総解散ともなるととんでもない人数になりますね。退職者リストの枚数が凄まじいことになっておりますよ」
筆記具片手に用紙とにらめっこするイシスがため息をつく。
「まーちゃ~ん。フェアリーとインセクトたち送り届けてきたよ~」
「こっちも、任務、完了」
「二人もご苦労さま」
「んん~! まーちゃんだぁ! 久しぶりのまーちゃんだぁ!」
「わぷっ。いきなり抱き付くのはやめなさい。今朝会ったばかりじゃないか」
「だ~め~な~の~! うちは常にまーちゃんのそばにいないと死んじゃう病にかかって
るんだから~♪」
「エルも」
板挟みのクッションと化した僕は二人に弄ばれる。
「魔王さま、いったいどういうおつもりですか?」
「うわぁシャックス! 急に背後に立つのやめてって言ってるじゃん、心臓に悪いから!」
「ほっほ。大変失礼しました」
特技なのか、シャックスは時々降って湧いたように現れる。神出鬼没的だ。
「というかまだいたのかい。退職金も渡したしもう自由になってくれていいよ」
「その前に確認させていただきたいことがございます」
おどおどするホアキンの横で、シャックスは微笑をたたえて頭を下げた。
「世界平和のために魔王軍を解散するとはどういうことでしょうか?」
「そのまんまの意味だよ。やんごとなき事情により世界を平和にしたくてね。その一歩としてまずは最大の脅威である魔王軍の解体をしたまでさ」
「そのやんごとなき事情とは、勇者を娶る……という物ですか?」
「ありゃ、知ってるのか」
かん口令を敷いてたのになあ。耳聡いシャックスのことだ、こっそり聞いてたのかな?
「なら話は早いじゃないか。君の言う通りだよ。僕は最強の魔王を作るために勇者に子供を産んでもらおうと思ってるんだ。でも彼女は世界平和が達成されるまで恋愛なんぞにうつつを抜かしてる暇はないと言うんだよ」
「お話は理解いたしました。しかし魔王軍の解散はいささか行き過ぎではないかと愚考します。いざという時の備えは必要かと」
「そこはまた一から築けばいいさ。それに、予定通り事を運べば僕はすぐに隠居する身さ。その後の魔王軍は新魔王の手に委ねられる。そんな時に旧体制が残ってるっていうのは新経営者としては煩わしい部分もあるし、今解散するメリットはあると思うよ」
実際僕も父さんから引き継いだ直後は何かと苦労したしね。邪魔な急進派はイシスに言いくるめてもらって放逐したし。
「なるほど。わかりました。失礼ついでにもう一点質問をする無礼、お許しください」
「何だい?」
「このような理由で魔王軍を解散すれば魔王さまは、世間から『勇者に尻尾を振って降参した腰抜け』と罵られる可能性がございます。よろしいのでしょうか?」
「構わないよ」
アルテミスが頬を膨らますのを見やりながら即答する。
「僕がどれだけ誹謗中傷を浴びようと構わないさ。戦ってないのは事実だしね。自分自身の評価がいくら下がろうとも、僕は僕の大切な可愛い女の子たちの笑顔が守られるのならそれでいいよ」
「そうですか。実に魔王さまらしいご意見でございます。大変よくわかりました」
シャックスは笑顔のままでお辞儀をした。
「お時間を取らせてしまい、大変申し訳ございません。魔王さまの真意も確認しましたので、私たちもお暇させていただきます。また会う日まで、くれぐれもご健勝にお過ごしください。さあ、行くぞアホキン」
「う、うい」
きびきび歩くシャックスの後ろを歩くちょっと鈍臭いホアキン。長年魔王軍に仕えており、僕の統治にも異論を挟まず最後まで笑顔でまっとうしてくれた。そんな実にできる部下を失うのはさすがに寂しいなあ。なんて、最後の別れをしながら思ったのだった。
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