【episode6-唄声の中のエロス】


昔ながらの平家造りの祖父母宅は、まるで絡繰屋敷からくりやしきのようだった。



玄関のすぐ左に祖父の作業部屋があり、壁には2面の大きな窓があった。


そのひとつは玄関の真横に位置しており、祖父の座る作業台のすぐ前にあるため、仕事関係の方は立ったままここで祖父と話をする。



御用聞きの人は、暑い日も寒い日も玄関の敷居を跨がせてもらうことすらできないのである。


子供心に、礼儀作法に対する祖父の厳しさと大人がする仕事という事柄の大変さを感じていた。



祖父の作業部屋は手頃な大きさに仕切られいるが、襖を開け放つと奥の間へと繋がっている。


奥の広間を抜けると、台所とお弟子さんが寝泊まりしていた布団部屋があるのだ。



玄関からは、まっすぐに伸びた木造の廊下がある。


よく磨かれた床を踏みしめ奥に進み入ると正面には台所。右に折れると、風呂場と雪隠せっちん



台所とお弟子さんが使っていた布団部屋からは、別宅につながる外廊下がある。


台所にたどり着くまでにも廊下の右側には部屋が複数あり、それぞれに重厚な木の引戸が設えてあった。



お正月には広間に親戚が集まり、祖父母を囲んで祝賀の辞を述べる。


祖父は私の声が好きで、毎年唄声を聴くことを楽しみにしていた。



大人になってから、その時のことを振り返ってみると、親戚中の視線が集まる先で、少し震える声を絞り出すように歌うその時間は、初めての相手と肌を交えるときの緊張感に似ているように思えた。



何をしていても、全てが「エロス」に結びついてしまう。


大人になった今、私には確かに祖父と同じ血が流れているのだということを感じるのであった。

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