【episode4-駄菓子と叉焼の散歩道】


仕事を終えた祖父には、ふたつの楽しみがあった。


ひとつめは、私との散歩。



訪ねる場所は二ヶ所。


駄菓子屋さんとお肉屋さんだ。



通い慣れた一本道を10分も歩くと、道の角に昔ながらの駄菓子屋さんがある。


お店に到着すると店主が笑顔で迎えてくれた。



祖父は、お金に糸目をつけない。


何回でもクジを引かせてくれるし、欲しいものは何でも買ってくれる。


駄菓子屋さんからお肉屋さんに向かう私の手には、イチゴ飴が"袋ごと"握られてることも珍しくはなかった。



駄菓子の入った袋をカサカサいわせながら、しばしの散歩を楽しんでいると、銀色の扉が見えてくる。


引き戸を開けると香ばしい醤油の匂いがした。



「あっ、毎度!」



お店のご主人も心得たものである。


祖父の顔を見ると特大の叉焼チャーシューうやうやしく紙袋におさめ、そっと差し出した。



この叉焼は、私の大好物である。


ジューシーな塊肉に絡み付いた、特製ダレが堪らない。



普段は、お店で扱わないような高級肉で特大サイズの叉焼を特別に作ってもらう。


私が祖父母のもとを訪れる際には、いつも特注しておいてくれるのだ。



その数は3つ。


一本はお土産用。


二本目は、皆んなが食す用。


三本目は、私専用である。



祖父母の家で、祖父の作品を見せてもらいながら叉焼や駄菓子を食べ、話に花を咲かせるのが私たち家族にとって月に一度の楽しみであった。

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