【episode2-腕の中】


「ただいま。」


母が古い木戸を引くと、ガラガラと音を立てて開いた空間から玄関のタタキが見える。


我家から電車で1時間ほどのその家は、木をふんだんに使った昔ながらのスタイル。


最新型の一戸建てやマンションに住むことが多かった私にとって、レトロ感溢れる祖父母の家は、ちょっと不気味でワクワクする存在だった。


「お帰り。お爺ちゃん、今仕事中だから静かにね。」祖母が迎えてくれる。


私たち姉弟は、靴を脱いで土間に整えると、ふすまの奥に身を進めて正座をした。


板に向き合う祖父の背中からは、近寄り難いオーラが発せられている。


いつものことだ。


私は、深呼吸をすると背筋を伸ばし、弟や母とともに祖父の仕事姿を見つめる。


程なくして、コトリと彫刻刀を置いた祖父が振り向いた。


「おいで。」


満面の笑みで手を広げて抱きしめてくれる祖父の腕の中が大好きだった。


「おじいちゃん。」


見上げた視線の先に優しい祖父の笑顔がある。


私は、蕩けそうな心地良さの中で深い幸せを感じていた。

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