第2話 ダーツとお姉さん

「少年、親とかには連絡しなくていいの?」


車は街へと向かっていた。


「共働きで今日は帰ってこないみたいなので大丈夫です。」


「えー大変だね。」


「お姉さんどこに向かってるんですか?」


「もうちょっとで着くからそんなに焦んないでよ少年。」


その言葉は本当だったようで、5分後にはとある店の前に着いていた。


「ダーツ?ですか?」


「そうだよ!やった事ある?」


「無いです。」


「じゃあ私が教えてあげるね!」


店に入ると中はそこそこ混んでいた。


初めての店だったのでどうしようかと思ったがお姉さんが手続きをしてくれた。


そういえばお互い自己紹介してなかった。



お姉さんがダーツをプレイするための道具を持ってこちらに来たので今気になった事を質問してみた。


「お姉さん、名前なんて言うんですか?」


「少年、名前を聞きたいなら自分から言うのが礼儀だと思うよ?」


「海絵翔といいます。」


「へーいい名前だね!それじゃあ行こっか。」


「お姉さんの名前は?」


「私は名乗るとは言ってないよ?」


「お姉さんいい性格してるって言われた事ありませんか?」


「日常茶飯事だよ!」


でしょうね。


ダーツ台の前まできたのでこれからはダーツに集中しようと思った。


結果から言うと名前不詳のお姉さんはそこそこの腕前だった。2回に1回はブルに入るし、フォームも綺麗だった。


教え方も上手く何回かプレイして俺も上達を感じることが出来た。


「あれ海絵君だよね?」


だから、ここで下田に見つかったのが唯一で最大のやらかしといっても過言ではなかった。


「少年の知り合い?」


お姉さんが聞いてくる。


「塾の先生です。」


下田は1人できていた。

なんでこんな所にいるんだろう?


「駄目じゃないか!こんな夜遅くに高校生がこんな所に来たら!」


「すみません。」


「本当は学校に連絡しないといけないのだけど、」


そう言って俺の隣にいるお姉さんの方を見た。


普段、塾に通う女子に向ける視線と同じものを感じだ。


その地点で下田が今日の獲物を探しにここにやってきたのだと察した。


「私も鬼ではないからね!そうだな、ダーツの勝負で勝ったらこの事は秘密にしよう。」


「負けたら?」


お姉さんが聞く。


「そこのお姉さんに何でも1つ言うことを聞いてもらおうかな!」


「お姉さん大丈夫ですよ!こんな勝負受けなくても。」


「…私が代わりに投げてもいいんだよね?」


「えぇいいですよ!ルールはシンプルに一投ずつ投げてブルに先に5回入れた人が勝ちってことにしましょう。さらに1回入れたら続けてもう一投出来る。ルールはこれだけです。」


「お姉さん!」


「大丈夫。安心して負けるつもりは無いから!」


そういうと2人は準備を始めた。


下田は間違いなく勝ったらお姉さんに卑劣な願いを要求するに違いない。


俺のせいでお姉さんがそうなってしまったらと今すぐにでも止めなきゃと思うが、何もできない自分が憎かった。


先行は下田だった。

矢を投げる瞬間に外すことを強く念じたが、無情にも矢は真ん中に吸い込まれた。


「さっそくブルですか!ついてますね!」


そして、2投目先程と同じフォームで投げた矢は先程と同じ場所に突き刺さった。


やばい。これで残り3回ブルに当たられたらお姉さんが、、。


3投目俺の願いが届いたのか下田は外し、後攻お姉さんの番になった。


だが、お姉さんの1投目は大きくブルを外れた。

よく見ると緊張したのか投げた後の手が震えていた。


次の下田はまた2投目をブルに入れ、リーチとなった。


お姉さんは後がなくなって明らかに余裕がなくなっていた。


そして放った矢はまたブルにはほど遠い場所に矢が突き刺さった。



「あれ?大丈夫ですか?僕、勝っちゃいますよ!」


その場で落ち込むお姉さんに下田は煽りを入れ、矢を放った。


だが、下田も勝利まであと一歩で緊張したのか今日初めて1回もブルに入らなかった。


お姉さんの番がきたが、入る気配はない。

そしてお姉さんは俺にこう言った。


「ごめんね。もう、勝てないかも。」


お姉さんのこの言葉に俺が返し言葉はこれしか無かった。


負けてないですよ。お姉さん。」


お姉さんは意表をついたような顔になり、それから最初に会った時の自信満々の顔に戻り、


「言うね!少年!」


このお姉さんの表情を見て確信はないが、俺はこの勝負の行く末を安心して見守ることが出来た。


~~


「嘘、、だろ、5、5投連続、ブル、、」


「はい!私の勝ち!じゃあ約束通り秘密にしてね!あとさっき密かに撮っていた写真も消させてね。」


全く気づかなかった。いつの間にか写真を撮られていたなんて。


「クソが」


写真を消されると捨て台詞を吐いて下田はどこかに去っていった。


「こっちのセリフだわ!」


お姉さんが呟く。


「ありがとうございました。」


「こっちこそありがとう!あの言葉が無かったら負けてたよ。貸しを作っちゃったね。」


「じゃあ、借り使いますね。お姉さん俺とも勝負してくれませんか?」


「え?勝負?」


俺は今1番気になる事を聞きたいと思った。


「勝ったらお姉さんの名前教えてください。」


そう言って矢を投げた。


今ならブルに刺さる気がした。












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