第9話 悪夢(2)
お昼の時間・・・午後12時半ごろ。
「それで、本当に二人で行くの?その、アメリカまで」
食後のカフェオレを飲みながら話すヒマ。
「遠いよー?!それこそ船か飛行機だよ?」
1人用キムチ鍋を突っついているカルミア。
「そこだよね・・・滑走路はあるが機体が無い。船はあるにしても海には極力いかない方がいい。森も通る。そうでしょ?」
カルミアのキムチ鍋をちょっともらいながらおにぎりを食べているユリ。
「あぁ、俺がここに来た時に船には乗ったが・・・いい思い出ではない。船に酔った。」
コランはロールキャベツにホワイトクリーム・・・パスタだ。
「コラン、車は平気なのに船はダメなんだよな・・・なんで」
「船の方が揺れるからだ」
「三半規管は機械じゃないんだね」
「やっぱり飛行機かぁ・・・ちょっと空飛ぶって怖くない?」
「長距離を移動する手段としてはアリだけどレグアニが心配なだけ。他シェルターでは結構乗る人が居たりいなかったりー?」
「・・・あの、怖いこと言っていい?そういえばで思い出したんだけど」
「なに?」
「任務に行く日、その時に見た夢・・・飛行機が墜落したの見た。赤い、飛行機」
「それは、自分が乗ってて墜落?」
「いや、墜落したのを地上から見てた。なんだか複雑な感情で、隣にコラン、いや、みんな居た」
「夢の内容が全部当たっているとは限らなくて、視点を変えて現実で起きるなんてこともあるから・・・ちょっとそれは心配だね」
「飛行機、ナシ、おk?」
「・・・・・・・・・」
「そんな眉間にしわ寄せないでよコラン・・・ごめんて。酔い止め貰おう?」
移動手段は最初歩き、海岸まで車、船に乗ってアメリカ、あっちに着いたら送迎用車を手配してくれるとのこと。ユリの夢だけでこんなにも動かせる。それが正夢の価値だ。
プランターは一人デスクでモニターに向かいながら軽食を取る。データ化したコランの脳波と過去データを比較して記録して、更新して、異常性と危険性も・・・上の奴らがこのデータを喉から手が出るほどに欲しがっている。メアは少ない。中でもハーフメアを監視下に活動しながら置けているここは稀少だ。
つい昨日、世界のメア個数体が17体になった。ドイツにいたハーフメアがナイトメアの予兆を感知し処分になった。本来の世界であれば人を処刑、または殺害したという言い分にはなるが周りに危害を与える存在をもう人としては見れなくなっている。メアは、適合者達はもう人ではない種として数えられている。メアの中には植物、動物も含まれていて活動できる人間は17体中11体のみ。能力者は5体。そのうち2体がユリとコラン。適合者は全124体。そのうち2体がヒマとカルミア。
「メアリー、夜21時以降にカルミアと話がしたい。言っといてくれ」
『了解しましたー。にしても彼を頼り過ぎではないですかー?』
「あいつは人並外れた観察眼と推測力を持ってんだ。生まれながらの天才だ。こっちは努力で上がったんだから天才には敵わねぇ所があんだよ」
『あなたも大変ですねー』
俺は、元は植物学の端くれだった。だがこんな世でやれることがそれしかなかったとも言う。死を招くそれを解明することがこの世にとってマシな一般職。ロクな生活も出来ないやつは感染予防を最低限して外へ調査サンプルや物資の運航をする。最もいい職は建築、管理職と言ったところだ。これも管理職か?いや、にしては注意しなきゃいけないこと多くないか?
カルミアは生まれながら天才であり、ある意味この世が待ち望んだ救世主かもしれない。生まれは上の奴らと同じかそれ以上。しかし自分の快楽の為にシェルター一つ壊滅させたために死刑囚だ。その言動は筋が通ってながら狂っている。観察眼とよく回る頭は学者を思わせる。足が変わってもそこは変わらず、減らず口だ。
カルミアに話さなければならないのは、ヒマについてだ。文面上の情報みて、ヒマと仲良くなったところでも知りえない彼女の危険性だ。最近になって緩やかに変化していることに気付いた。カルミアには人間観察をヒマにしてもらった。
ヒマの適合者としての異常は”対抗”と名付けられた。短時間であればマスク無しでも外にいられるほどの体制。症状は精神不安定による体調不良。しかし、これは実験を重ねた結果の症状。彼女が見つかった時の症状は思考錯乱だった。それを精神不安定と言えばそうだが、周りに他に人がいない状態で体調不良になれば命はない。人がいるから、自分が助けられると分かっているから体調不良という症状が出たのかもしれないという推測、そして今あるのは外にあるレグニアに対し”対抗”ではなく、変異した別のレグニアの”母体”であるということだ。
レグニアは変異し続け、現状何十種もある。それらは見つかった経緯と感染経路があり、元凶、感染源となる母体が存在する。ある時は植物、ある時は生まれもいない胎児。動植物に感染し、その中で変異体となり、それを増やすために働く生命体に変わる。その母体は外のレグニアと潰し合う。潜入すれば殲滅するまで。それぞれの多さで生命体の支配が決まる。おそらくヒマのレグニアに3人とも感染している。元々持ち合わせていた能力や適合はヒマのレグニアに染まり、外での対抗も可能とする。そして警戒すべきはコランの能力が熊のナイトメアによって引き出されたのか、ヒマのレグニアによって進化したのか。車内ではコランとユリしか症状を出さなかったのを見るに母体という推測でヒマの症状はなかった。限定して、能力者のみに影響を与えるナイトメアだった場合にはあり得る。そこから出すならヒマにも進化か変異がある。感染経路を調査するレポートからは母体から広がった変異体は感染先で影響がある時、母体にそれを知らせて指示を煽る行動があった。つまり、変異体は通信機器のような連携も可能とする。母体は更に感染源を増やす母体を作ったり、自らを他者に捕食させて移動や宿主を変えるまでする。
レグニアの変異体は、まるで軍生命体のように意志を、判断する頭を持っている。ヒマが母体であるという推測が当たれば今後、何か変化があるかもしれない。レグニアの変異体そのものが判断する意志を持つのならば、周囲を確認してそれを利用することも出来るだろう。宿主の意志を乗っ取るように、本能のように。自分が外からやって来た別レグニアに負けそうになれば宿主に体調不良と精神不安定を促して危険を知らせる。・・・ここへ来たばかりの時もそれが酷かった。それはあの3人に感染を広げるためか、3人からのレグアニ感染を受けて対抗していた為の反応だったと考えることができる。
ヒマは旦那と死のうとしていたが死ねなかった。変異体からすればまだ自分が広がってなかったから母体を、宿主が死ぬことを許さなかった。レグニアユーになった旦那が一度は捕食をやめた理由。ヒマから変異体に感染し、指示をされたからではないだろうか。そしてレグニアユーが殺そうとしたのは変異体が母体、宿主を変えようとしたか、または屍となって広範囲に拡散しようとしたか。死ぬことを許した。そこを救助された時にあれだけ死を望んだのに説得されて生きることを選んだのも、ヒマの意志と言いたいところだがまた新たに感染出来ると変異体が生きることを許したなのかもしれない。
ヒマは旦那が感染してシェルターを出なくてはならなくなったから出た。ヒマだけならシェルターに残れた。感染者じゃなかった。なら、ヒマにとっての感染経路がない。旦那という線もあるが旦那は感染経路が判明している。そこから病原体のサンプルもある。ヒマのレグニア病原体と比べれば違った。どの母体もどこからいつ、宿主になったのかが分からない。ヒマも同様。
この仮説が当たったらヒマは”対抗”ではなく、”母体”。その名称を聖母マリアから取り、”レグニア・マリア”と言われる。病原体に聖母とはまた、世も末だ。
メアの造花 まっちゃぁぁ @mattyaaa
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