第8話 悪夢

夜。三日月を見ていた。

冷たい風が当たって寒い。外?

もふっと暖かいのが右隣に当たった。

振り返ると灰色の犬がいた。

大型犬なのか自分よりも頭の位置が高かった。

魅入るような、青い目をしていた。


自室で目が覚めた。確か、検査をした後に休んで来いとベッドへ寝に行ったんだ。頭は割とすっきりした。

「・・・・コラン」

検査で思い出した。コランの顔色が良くなかった。様子を見に行こうとベッドから離れた。

『起きましたか、体調は良さそうですね。』

「うん、すっきりした。ハチ、今ってコランの所行っても大丈夫?」

『コランさんは自室での休憩・・・いえ、変更されました。医務室で詳細な検査を行っています。何かあったのでしょうか?』

「マジか。面会おk?」

『・・・同意が取れました。通話を申し込まれています。』

端末を見て通話に出る。


『通話ですまない。プランターに言われて急遽、精密検査となった。体調が悪いという訳ではないんだが、脳の様子が気になると・・・』

「話せる元気があるとは分かったから一安心だよ。まぁちょいと気になったんでそっち行くね」

『分かった』

通話を終え、エレベーターへ乗り込んだ。


「来たかちびっ子。現在進行形でやってるから機械には触んなよ。」

「分かってるよ、過労死候補め!」

プランターとの仲はあまり良くない。初めて会ったのは5歳の時だがガラス越しに会ったぐらいでまともな交流は11歳の時だ。その時からあのクマが付いていた。印象は正直良くない。何か距離を置かれている気がする。


「コランー来たよ」

「そこに椅子がある。座るといい」

コランは白いベッドの上で枕を背もたれに寝ていた。頭にシールと線が繋がった検査機を張られて、腕には脈拍や体温を表示するやつのバンドが巻かれている。

はぁと気を抜けさせ、コランのベッドの上に上半身を置くようなだらけを始める。

「ユリは休憩出来たか?」

「うん、ちょっと寝てきた。あ、夢の中ででっかい犬を見たよ」

「犬と遊ぶ夢でも見たのか、悪い夢ではなさそうだな」

「遊んでは無かったよ。こう、一緒に夜空を見てた。三日月が見えたよ」

「それはまた気持ちよさそうだな」

「いやー、でも寒かったぞ?風がひんやり。んでも隣に来たでっかい犬がもふもふであったかくてさー・・・」

あのもふもふ具合は最高だった。

「なら丁度良かったじゃないか。いい犬に会えたと思っておこう」

「あの犬にもう一度会いたいや。まぁ夢の続きどころが同じ夢なんてそんな見れないんだけどさ」

「おそらくハスキーではないか?月がよく似合う犬だったらしい。ユリの事だから実際に会える日が来るのかもしれないな」

住居は完成したがそれは必要最低限の生活が約束された場所。ペットの命は人間の次に考えられ優遇と呼べるかは分からない。絶滅した犬種や動物もいるだろう。ハスキーもその中の一つだろう。

「犬なんて会ったことないよ。でも図鑑は読み漁ってるからね。シベリアンハスキーでしょ?実際に会えるなら今すぐにでも会いたいさ。」

「・・・ユリ、その犬は灰色の毛で青い目を持っていたんじゃないか?」

「そうだけど、あれ・・・うち・・・」

「プランター!来てくれ。俺は、ユリの夢が見える。ユリの見た夢を当ててしまった」

「ナニナニ、はぃ?」


コランの見ているものを言語化して他者に教えるのは難しい。だがコランの目には見えている。感染する前の正常だった頃の視覚と比べることでなんとか目の前にあるものが異常だと判断していた。だが異常だと判断できないほどに見え方が変わってしまうと他者に教えるのも遅れる。今まで見えなかったものが見えてしまった時、見たくないものを見ないことを幸いと思うしかない。


「ユリ、今から俺が言うことがあっているか聞いてくれ」

「う、うん」

「三日月の見える夜空。周りは木が数本、砂地で草も生えている。地面、か倒れた木に腰かけているのかは分からないが座っていた。風は強くなく、寒いと感じたのは特に背中。右隣に灰色の毛を持つ犬・・・大型犬よりも大きい気がするが青い目がハスキーを思わせる。月明りのみでよく分からないが白と灰色の模様があったじゃないかとも見える」

「うわ、うちが書き起こす時より詳細だ・・・。んじゃ砂地の色は?」

「茶色。黄色に近い」

「うわぁー・・・。正解。全部当たってる」

「んー・・・脳細胞が荒ぶっているのは考えているからだな、勉強している時の動きとほぼ同格。これと言って異常は見当たらない。んだがとんでもねぇな」

機械のモニターを見ながらため息ついている。

コランは他者の感情を当てることが出来た。それが動物だろうと関係ない。だが今回当てたのはユリの夢。考えている事という枠に入るが感情どころか内容を把握している。これは感情などではなく、もはや他者の記憶を見ていると言ってもいい。

「・・・それと、これは外れているかもしれないが、俺はこの砂地の場所を知っている気がする。初めて見た場所とは思えない。どこかで来たか見たことがある・・・多分」

コランが焦りながらしょんぼりともしているように見える。自分で制御の出来ない能力だ。精神面でのダメージが凄まじいことになる。あまり刺激が過ぎると現実との区別が付けられなく、能力とは無関係な幻覚が見えてしまう。・・・過去にそれがあったから注意していたが。

「さすがに覚えのある場所が木々数本の砂地と言われても何もできないが、・・・そうだな、犬はこっちも覚えがあるぞ。確定はないが悩み続けられてきた小さな問題が一つ進みそうだなぁ」

「え、犬の方?」

「シェルター46。アメリカの森林区域にある小さな場所なんだがそこで動物の社会が構築されているらしい。その頂点、言わばリーダーが登録済みメアの一員なんだ。今は脱走して野良になっているって話」

「え、つまりは犬が、・・・犬のメア?!」

「人体実験する前の動物実験のやつだ。人間が世話をしていたからメアになっても生きれたが3年前だったか?そん時に施設を脱走。森を中心に野生化だ」

「・・・野生化してなぜ今まで生きてこれた?」

「そのシェルター46が犬を捕獲するために作られた。犬を死を望んでいる訳じゃねくて捕獲。だから慣らす為に罠と餌を与えていた。ま、捕まってないんだがな」

プランターはニヤニヤしながら機械を操作している。プランターがニヤニヤしている時はあまり良いことないと思っている。うん。

「ちびっ子、”実際に会えるなら今すぐにでも会いたいさ”と言ったな?・・・叶えてやるよ」

壁にある電子モニターの方を指さして言う。そっちをみたら一枚の写真が映されていた。灰色の犬だ。

「・・・うっわ」

「申請は出した。今回キャンセルした任務ついでにシェルター46に行け。何か進展するかもしれねぇだろ」

「本気か、プランター?!」

「え、会いに行くの?!あのもふもふと?!」

「本気と書いてマジと読む~。ひょっとしたらコランの言う覚えのある砂地もあるかもしれないじゃないか。気になったままにするとこれからの任務に支障が出ることもある。晴らしとけ・・・・・んぁ?」

「だからっていきなりじゃないか?ついさっき襲撃にもあったというのに」

「んでもこれはいい方のニヤニヤだぞ!遠足と言ってもいい、超遠出だ!!いつもだったら山崖の重労働になるんだからね!」

「俺よりも先に過労死させねぇぞちびっ子。んで、条件が出された。シェルター46は小さいから4人で行くと定員オーバーだから2人で行けってさ」

「「・・・2人って」」

コランとユリはお互いを見合い合った。

「行ってらお二人さん★」

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