第3話 実験
人の上に立つことを望まれた。
だから見下ろすのが好きになった。
一番好きなのは僕に向ける感情が目に見える時。
人が死ぬ瞬間とかね。
坂道の足場を確認しながら進む。このスーツのおかげで一定範囲内の索敵や荷物持ち、戦闘もそれなりに出来ている。
今日の足場は大丈夫みたい。ユリがまた転ばないといいけど。前回この道を通って転びかけていた。僕が道を変えたせいでなったと思うとちょっと笑えて来る。あの怯えた後に来た不満の怒りも良かったなぁ。反応満点あげたい。
「ユリちゃん、今のところ道を変える必要はないよ。だから前回のところ気を付けてね。」
「おk・・・。」
ロープにしがみついて踏ん張っている。大変そうだからちょっとロープを引っ張ってあげようかと考えたがこの場所じゃ不安定になる可能性がある。助ける側もその辺を考えなければならない。下手に手は出せない。
「ヒマちゃん達はどうー?」
声を張って呼びかけてみる。下の方を見るのは平気だが、岩で頭が少し見える程度だった。サーモグラフィと生体レーダーで透視してみる。
「大丈夫だ。そのまま進んでくれ。」
リーダーが太い声張って返事してくれた。ヒマはユリと同じく踏ん張ってる様子。あのペースなら想定内か。ユリのことを考えて少し距離を取っている訳だが離れすぎるのも良くない。
スーツの生体レーダーが空を示した。確認すると空を飛ぶ鳥が確認できた。
「リーダー!鳥のレグアニだ!」
すぐにそう言って足を止める。対応できるように両手を離して立てるように片足を岩に固定。
「伏せろ!種を確認しろ!」
ユリが慌てて僕の近くに来て伏せる。ヒマはリーダーと一緒だろう。僕は襲われても平気だが、生身に等しい3人は鳥だろうと油断出来ない。
鳥の動きが速いが羽の形状と大きさが分かるとある程度の種が分かる。・・・かなりの大型だ。梟か鷹と言ったところか。
「1体、大型の猛禽類だ!多分ステージ3!」
「発砲を許す!」
レグアニには感染の進行を示すステージがある。全部で1~5。ステージ1が初期段階の症状が目に見えるように出ていない状態。ステージ2で細胞変化が行われる。この状態では立つこともままならなくなる。ステージ3で細胞変化がある程度落ち着いて活動が可能になる。ここでステージ2の時に動けなかった分、飢餓状態に陥る。ステージ4で更に細胞変化が始まる。ステージ2と比べて体力がある為、細胞変化しながら活動が可能。ステージ5で細胞が耐えられず崩壊し始める。同時に凶暴化する為、周囲にいる生物を無差別に襲う。
細胞が耐えられなくなるまで変化が起きる為、変化と飢餓を繰り返す。体の大きな動物だとステージ2とステージ3をもう1セット繰り返すこともある。体が大きいと細胞の量も多い。その為1度の変化で細胞が変化しきれない。
人でも同様。ステージ1では無自覚で、ステージ2で発症。大体ここでシェルターから追い出すか殺害するのがいい。ステージ3で襲う。でもここで人だけの反応がある。分岐点なんだ。ステージ4になる時、普通は細胞変化が来るんだが例外があって、脳が変化した時に新たな自我を持つこと。言語も話せるし、元々持っていた知識を引き継いでいる。この場合、細胞変化の速度が急に遅くなる。止まるに等しいくらいにゆっくりになる。元の体の状態にもよるが大体・・・50年くらいはそれを維持出来る。
中身は人のようだけど完全に化け物なんだけどね。その人みたいな思考の中に本能みたいなのがあって、自分の意思で人を襲う。襲って、自分と同じ感染者を増やそうとするんだ。もちろん、自害を望むのもいる。
ステージ5では細胞の崩壊。骨も残らず壊れていくんだが、このステージ5で死んだ時に細胞の破片が周囲の半径約1キロの範囲に散らばる。感染源になってしまう為、ステージ5が発見された時には焼却対処される。
腕に装備されている銃を展開、空を飛んでいるレグアニに照準を合わせる。銃が扱えたことは無い。やってくれるのはこのスーツなんだ。
1発、発砲。
ドンッと耳にくる音の後にピャーっと甲高い鳥の声。命中してくれたみたいだ。そのまま地面にボタッとおちた。
「リーダー、北西の方に落ちたよー!」
「分かった。」
屍をそのままにしておけない。放っておくと他のレグアニに食べられたり、細胞が生きているなら再生し始める。死んでいたら細胞が崩壊して新たな病原体として散らばる。これも焼却しなくてはならない。
「ユリちゃん、大丈夫だったかい?」
「ありがとう、カルミア。でも相変わらずその銃の音はくるわ・・・。」
耳を両手で触って気にしている。そこそこの銃声だ。鼓膜に影響が出るほどでは無いが、キーンっ と多少なるか。
「何、前には銃戦したじゃないか。」
「あれは必死だったから別。」
過去に1つのシェルターにいるレユーを倒し尽くしたことがある。施設内に爆弾を仕掛けて、外へで後に起爆して処理する。最下層に行く時には毎度レユーに襲われている為、銃戦となる。
まぁ、そんなところにわずか15歳で行って帰ってくるのは天才と思ってるよ。教えこまれただけはある。人手が少ないのも確か。メアの数自体も少ない。世界で18人しか居ないんだっけな。その中でも最年少。
「焼却処理してくるって。追いついたー・・・。」
ヒマが登ってきた。リーダーは鳥を焼きに行った。と言うことは僕に2人とも任せたんだ。鳥がここまで飛んでくるのも多い訳では無い。近くの木々に巣でもあるのかもしれない。1匹来たから次も来ることは考えられる。
「先に頂上まで行こう。そこならまたレグアニが来ても足場がしっかりしてるし、身を隠す岩がある。」
「リーダー、1人で大丈夫かな?」
「ユリちゃんとヒマちゃんには待機してもらうよ。僕がお迎えに行ってくるよ。」
「えー。」
しょぼんと心配そうな顔を2人揃ってしてる。
「坂道往復したい?」
「「無理。」」
ロープを掴みながら下がっていく。空も一応警戒している。
「リーダー?どこにいるんだい?」
もう近くまで来ているはず、生体レーダに反応あり。おや、熱源反応もある。
「こっちだ。」
リーダーは落ちたレグアニの屍を焼いている途中だった。ひょいっとスキップするみたいに駆け寄る。・・・あー、ちょっと足に来る。痛てぇ。
「ユリちゃんとヒマちゃんは頂上で岩陰に隠れてもらってる。お迎えに来たよ。」
「すまない。しかし、鳥がこの辺に来るのは珍しい。」
「そうだね。過去に木々の巣は潰してたんだろう?」
「残りがあったか、新しく作られたのかもしれない。」
「そよから来たってことかい?」
「このレグアニ、ステージ4だ。」
「え。」
「上空で飛んでいるのを完璧に見分けるのは難しい。だが、ステージ4で自在に飛んでいるのは相当な飛行能力だ。」
「それは、・・・また気にさせることを言ってくれるね。」
「ステージ2の時に運良く細胞が強化されたか、共食いしたかの可能性がある。発見した時には再生が始まっていたのを見るに、全身に感染してる。」
「・・・濃いね。」
感染した細胞は変化し、増加するが病原体が体内で増える訳では無い。病原体1つで細胞100~200に自身の欠片を入れることで感染させる。その為、病原体も塊で摂取しなければ全身に回ることは無い。
共食いしたとなれば、屍となった細胞を摂取しているのと同じ。細胞が死ぬときにそれが1つの病原体になる。それで病原体が全身に感染。
あるいは病原体の発生源がどこかにあり、そこに長時間いることでステージ1の時に全身に回っていたか。・・・発生源?
「あ、メアリーちゃーん。ちょっといいかい?」
『なんですかー?』
「今回の探索の依頼主か周囲シェルターの報告を知りたいんだけど、ここ最近でレグアニが目撃されたり、生体反応があった事ってある?」
『確認しまーす。・・・シェルターログで熊のレグアニが確認されてますねー。森林に帰った姿も確認されていたので今のところは大丈夫だろうと考えられまーす。』
「今回の探索の場所とどのくらい離れてる?」
『Eシェルターなので、約5キロでーす。』
「んー、ありそうだ。その鳥のレグアニ、今回探索するところの近くに居たのかもしれない。そこから感染するのも考えられないかい?」
「そうだな。熊には会いたくないがな。」
「レユーより大変だと思うしね。」
森林がある以上、野生動物で感染しているのもいる。今のところは鳥と小動物がほとんど。稀に鹿。熊はまだ1度も会ったことがない。鳥でも脅威。熊なら化け物と呼ぶに等しいかもね。
レグアニを焼却して、ユリとヒマがいる頂上へ着いた。
「おかえりー。特に変化ないよー。」
「おかえり。ずっと警戒しちゃった。」
「待たせた。後は下ってすぐだ。・・・時間もあるからFシェルターで昼飯にしよう。」
「休憩時間はいつも通り1時間かい?」
「そうする。車は貨物車だ。第4車に乗せてもらう。全員そこで合流とする。」
「おk。」
「分かった。」
「了解。」
殺すのは躊躇なくて手慣れてる。だけどもレグアニを殺したって楽しくない。人を殺すから楽しくなっちゃったんだ。
僕は実験体。一応死刑囚。どうせ死ぬならってことで生まれつき悪かった足を切除して感染した他人の足を移植された。杖なしで歩けるようになったけれども足以外は生身。人だ。
その補助と強化、スーツの運用テスト、足の経過観察。僕の体は利用されている。重いだのなんなのと口から出ているが、本心そうでも無い。苦であるけどその度に泣く程じゃない。慣れだよ。それよりもゾクッとくる楽しみがある。
ユリとヒマはいい反応をしてくれる。ヒマの精神回復のお手伝いもしてあげた。ユリを人らしい感性にしてあげた。リーダーは僕の本性も全部知ってるから演技しなくていいっていう気楽はある。僕は他者をよく見て、お世話をするのが好き。信頼とか友情とかを築くのが好き。
それをぶち壊して、怒ったり泣いたり殺意を向けてくる顔が大好きだ。
僕は”カルミア”。
カルミア(花笠石楠花)
ツツジ科カルミア属。学名がKalmia latifolia。種としては5月から6月、約7種が分布。
栽培では苗木から育てることになり、成長が遅い。水はけ、水持ちがよい弱酸性用土を好み、暑さや乾燥が苦手。鑑賞用で通年を通して育てることが出来る。
食用にはならず、葉に毒素を含んでいる。症状は腹痛、嘔吐、下痢、神経麻痺。花の蜜にも同様な中毒症状がある。これにより羊が中毒しやすく、牛殺しという別名が存在する。
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