7、はずむ

 ふぅ。これで、僕はもう自由だ。でも、凛と一緒っていうのもちょっとなんか

緊張するから、いてくれてもよかったかな?いや、良くないか。初めてのデートを

誰かに邪魔されたくない。

「石井君、しっかり叱られてるかな?」

「さあ、どうだろう。でも、あれはうまくいったよ」

「ホント。ナイスアイデア!!コタロー君」

「センキュー」

 あの時、僕らは椛ノ丘を下りて、さっき言った広場へ向かった。でも、これは、

トラップだった。昌弘の家は、レストランをやっている。レストランでは、老人や

生活困窮者などに、料理を配達するサービスを行っている。それで、昌弘は、配達を

する1人。ここに来るまでに、昌弘のお母さんが、

「あの子、配達やるって言ってたのに、どこ行っちゃったのかな?いたら教えてね」

と言ってた。つまり、昌弘はそれをサボっているってことは、当然見つかれば、

捕まる。だから、僕はそこが、通り道に入る、あの公園を貸し切ったという嘘を

ついた。実際にそこは、貸し切りできるから、昌弘はすぐに信じ込んだ。それで、

高速で、走っていった。レストランは、踏切が近くにあるため、一回止まった。昌弘

が偶然そこで「小太郎がテニス世界一になれますように!!」と叫んだから、母親にバレて、連れていかれたという。完全な頭脳の勝利だったな。

「て、言ってたら、ただじゃ済ませねぇからな!!」

って、さっき電話で言われたけど、どうせ忘れてるでしょ。何より、相手が車いす

なのに、情け深い(多分)昌弘が暴力を振るえるはずがない。


 それから、しばらくモミジを見ていた。椛ノ丘って、ステキなところだ。普通の

観光スポットにでもなっていそうなのに。2人で自撮りしたり、髪飾りを作ったり。

凛ちゃんは、かんざしコレクションをすでに作っていた。

「ねえねえ、ちょっといい子と教えてあげようか?」

「何?」

「なんか、忘れてない?招待状に書いてあったことで」

「招待状に書いてあったこと?えっと・・・う~ん・・・あっ!!」

「思い出した?」

「花見!桜の花見!!」

「思い出したか~」

「思い出したよ!!」

一体何が始まるというのだろう。秋だ。今は秋だ。紅葉の最盛期であり、衰退期

でもある。そんな秋真っ盛りの11月上旬。桜が咲くのは、3~4月くらい。

「なあ、今桜なんか咲いてるの?」

は、咲いていないよ。桜はね。でも、は、また別に

咲いているんだよね~」

「咲いてるの?!桜が?!」

「桜じゃないよ。だよ」

「それって、桜じゃないの?」

「桜じゃない」

「じゃぁ何?」

「それは、後からのお楽しみ。もう分かると思うんだけどな」

「みんなわかるものなの?!」

「そのはず。秋の桜=秋桜。秋桜って何?」

「ごめん、知らないっす」

「知らないのかぁ」

「うん」

秋の桜。つまり、秋の花。秋の花って何だろう?秋の花・・・秋の花・・・。

「ここね、もう1つ丘があるんだよ」

「もう1つ丘あるの?椛ノ丘だけじゃなくって?」

「そうなの」

「繋がってる?この丘と」

「ちょっと下りて、もう1度登ったらある」

「ふ~ん。行くの?」

「行くよ。てゆっか、見えてるよ?」

「え?!ホントだ!!」

確かに、椛ノ丘の東に、大きな丘がある。ここよりは、小さいけど。ここから

見ると、特に何か特徴があるものは見られない。

「いいから行ってみよ♪」

というわけで行ってみる。そういえば、凛ちゃんとの会話でこれほど弾んだこと

ないな。そんなことに弾むのは、あれだけど。でも、そのあと、あの丘に行ったら

何か弾みそうだな。そんな思いが膨らんで、僕の心も弾んでいた。凛ちゃんと一緒

にいると、色んなことが、“はずむ”。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る