2、転校生

 岡村凛は、両親を説得し、自立へ向かった。そう、独り立ちだ。独り暮らしを

始めることにした。この高校とも、もうおさらばだ。私は、これからここよりも、

もっと、もっと有意義な学校生活を送るため、新芽高校への転校を決めた。

もっとも、目的は1つだけだ。岡田小太郎を手に入れる。相手は調理部らしく、

彼氏の料理を「あ~ん」って言ってもらって食べさせてもらう。それが、理想の形だ。彼は、アプリの解析によると、かなりの相性だ。次の週から、早速恋愛計画を

始動させる。


 岡田小太郎は、今日はホッとしている。調理部がないからだ。それが、小太郎に

とって一番うれしいことだった。車いすを器用に操って、学校を猛スピードで

走り回る。そして、そのまま超特急で、校門を出た。その時だった――

「ヒャァ!!」

目の前に、女の子がいる。マズいマズい。すぐに車いすを止めるが、彼女の

アキレス腱をかすった。

「大丈夫かい?ごめんなさい。僕の不注意で・・・」

「いえいえ、コチラこそごめんなさい・・・」

見てみると、僕と同じくらいの女の子。でも、こんな子、学校では、見たことが

ない。僕は、どちらかというと社交的なほうだから、大体の生徒を知っている。

図書館の貸し出し処理を担当するため、図書館で初対面するたび、親しい人が、

どんどん増える。そんな僕が知らない子がいるのか?

「どうしたの?ここの学校の生徒?」

「いや。明日からです」

「へぇ。転校生か」

「そうです。あ、もう時間ヤバいんで、行きますね」

「何しに?」

「人探しです。気になる子がいるんで、早く会いたいんですよ」

「手伝おっか?」

「いや、大丈夫。1人で探した方が見つかった時に気持ちいいし」

「そう。じゃ、またね。さっきは、ごめんね」

そう言い終わる前に、彼女は、校庭に向かって消えていった。


 翌日。紅葉は鮮やかになる一方で、散ってきている。そろそろ、モミジの季節も

お終いなのだろうか?火曜日は、部活。調理部は、もはや抜けたい。それなら、

高校を中退してもいいが、そんなこと、母親が許すはずもない。

「コタロー、暗い顔してどうしたんだよ?」

「今日、調理部だから」

昌弘が声をかけてくれた。

「そういえば、うちのクラスに、転校生が来るらしいぜ?」

「そうなのか・・・ええ?!」

それから、この話で沸いていた。全然知らなかったなぁ、どんな子なのかな?、男子

なのかな?、料理上手いかな?、かわいいかな? なんて。

「おはようございます・・・」

車いすの扱いも随分慣れてきた。車いすを操りながら、いつもの席へ行く。椅子は

用意されていない。車いすだと、便利なのか便利じゃないのか。

「おはようございます。みなさんに、今日は転校生の紹介をしたいと思います」

担任の二条先生が声をかける。教壇に先生と立っていたのは―—―

「どうも、おはようございます!私、近くの女子高から転校してきた、岡村凛って

言います。恋人を求めて、やってきました!みなさん、仲良くしてくださいね!!」

昨日、車いすにかすったあの子だ。転校してくるって、本当だったんだ。しかも、

うちのクラスに。

「それじゃあ、岡村さんは、岡田君の横に座ってください」

「はい!」

コチラに、凛さんは、歩いてくる。緊張でドキドキする。

「あの、僕、岡田小太郎って言います。仲良くしてくださ・・・」

「ええっ?!あなたが、岡田小太郎なの?!」

クラス全体がどよめき始めた。

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