第3話_結『-友情と別れのパレット/決別とトモダチのイシ-:-お別れの追いかけっこ-FAREWELLCHASE』

距離は結構ある!

でも吉田君とのレースゲームと違って、ここにはゴールがない。

おまけに私のエアーボードはムッチーとの移動によって

結構燃料を使っている。サイムさんのボードギアに変えてもいいけど、

ギアを取り出して、新たにギアをはめるなんて言うことをしている間に

逃がすかもしれない・・・。


持久戦は不利。

でも運がいいことにここは私の見知った町!

それに相手はわざとわかりづらい道を通っているようだけど、

そんなんじゃここの人間は撒けない!

相手を追い詰めれる近道ができれば、捕まえられるチャンスがある!!


もう弱い私でいられない!

『心も』鬼にしてでもカイちゃんたちの別れを取り戻すッ!!


「そこまでです!!ストーカー!!」

私がボードに乗っていると


「オラァ!!待てコラァ!!!そのオメガは!!

マチルダさんとの大切な別れをしなきゃなんだよ!!

テメぇが割り込むなァ!!ストーカーがぁ!!!」

とサイムさんが隣を全力疾走していた。

「サイムさん!!?」

「!!?」

サイムさんも気づいたらしい。


「説明はあとです!!私もあの人を追っているんです!!」

「同じ・・・目的か!」

「ええ、そういえばサイムさん!

これ!ボードギア!

預かっていました!!」

「あ・・・そういえば、渡してた!さんきゅー!」

私はサイムさんに走りながらボードギアを渡す。


「ガジェットギア・セット!!」


サイムさんも走りながらボードギアに乗る。

「ニッちゃんコトダマ第4交差点、上の回廊にソライ!」

サイムさんは挟み撃ちを狙っているということを伝える。

コトダマ第4交差点はポンテン町6丁目という

ショーワ町タイショー町そして隣の区のポンテン町の

ちょうど中央に通っている人通りの多い交差点だ。

あそこなら動きづらいはず!!

「了解です!!」



「ニッちゃん!行くぞ!」

「はい!」


ここはタイショー町1丁目

一番いいのはタイショー町1丁目から2丁目、

そのあとにタイショー町ではなく

第8商店街のあった隣のショーワ町3丁目、4丁目まで

迂回しないとポンテン町まで行けない!

タイショー町3丁目とかに行くと逆に交通規制やボード禁止区域にひっかかる!

少し大回りになるけど、このルートを進ませないと・・・。


「ニッちゃん。考えてることは多分同じだ。

どうにかしてあのルートを進まないといけない。

だが決まったルートは意識しなくていい。」

「どうしてですか?」

「相手も同じだからだ。同じような条件の場合、

スピードの出している相手の方がネズミ捕りエリアとかで確実に警察の世話になる。

そうなったら国家権力と共同戦線を張れるからな。

相手は俺たちの気をうかがっていたつまり大ごとにはしたくない。

じゃなきゃ二人ともすでにもっと家を爆破してそのあと探すとか、

人質を取るとか強引な手段とかで奪われていなくっちゃおかしいはずだ。

むしろ、俺らは法定速度をできるだけ厳守しつつ、

地の利人の利を生かして確実に追い詰めたほうがいい。」

「なるほど・・・。」


「それにだ!このボードで一時的にトリックが出たら速くなる

トリックブースト行為だが、後続車両のアオリ運転としてとらえられなければ、

ブースト以外での『スピード自体』は法定速度を守ってさえいれば

うっかり一時加速してしまったということで、

信号無視とか人を跳ね飛ばさなければ特に問題はない。

まぁ実際は軽犯罪じみているが今は緊急事態だ。

こういう時のそういうことはここらのおまわりさんは寛容なんだ。

この前、俺に違反切符きった若いやつが言ってた。」

「な、なるほど・・・。」

結局違反切符はきられているんですね。


「だから、適度にトリックを決めつつ、相手を追うことだけを考えろ!」

「了解!」


1丁目!

街の路地裏の風景が高速で流れていく!

「ムッチーのを!!!かえしなさああああああーい!」

「かえしやがれえええええ!!」


まだ見えるけど、まだ追いつけそうにない!

「追いつけない!!」

「追いつかなくていい!ソライを信用しよう!」

・・・

サイムさんとソライさんを信じる!

このままだと逃げられる不安があるけど、追いつかなくていいなら

この距離を死守して見せる!


2丁目!

まだまだ差が縮まらない!!


前方に突き当りが見える!!

ストーカーは、ほぼ直角に曲がる!!

「曲がるぞ!!」

「了解ッ!!」

サイムさんと私は体を思いっきり傾け、立体的にドリフトする。

吉田君とのゲームのドリフトの感覚を思い出して何とか、距離を保ち側転に近い

トリックをし加速をする!!


「よくやったぞ!ニッちゃん!!」

「まだまだですッ!!」


障害物が邪魔でなかなか進めないけど何としてでも取り返す!!


3丁目!!

代り映えしない景色で敵がこちらに気が付く、

「お前ら!!うざい!!!」


なに!?何か投げつけた!!??

「キャァ!?」



よく見るとスパナや、ドライバーといった工具!?

「ニッちゃん!!」

「私にかまわず!!」


少し驚いてよろけて減速したが、

相手がどうやって投げつけたかよく見てみる。


あの攻撃!!あの翼っぽいの・・・

あれは翼じゃあなくて・・・

・・・まさか『腕』!!?


何あれ!!?鉄のようにでかい腕であの飛行姿勢を保っているの!?



4丁目!!

空中回廊からレールを渡り!

相手との距離を縮めていく!!

空は夕日が出ており、すぐに夜になりそうだった。


「あともうちょいだ!気を引き締めていけ!!」

「はい!!!」




5丁目!!



「サイムッ!!」

ソライさんとの挟み撃ち!!これなら!!


「返せ!返せよ!それはある少女の涙の別れなんだよぉおおおお!!」

サイムさんが叫ぶ!

だが淡々とした口調でストーカーは

「まだ来るか!!こうなったら・・・」



敵の腕と思わしき部位から大きな二本のドリルとハンマーがそれぞれ2対

計4本の腕と思わしき部位から突如それぞれ生える!!

「なッ!!」

「ぇ!!?」



まずい!この距離で突っ込んだら三人わたしたちともドリルとハンマーに当たる!!




それに高さが異様に高いここで落ちたら・・・致命傷・・・。




「助けましょう、『ネバーカラーペインティング!!』」

カイちゃんの声が聞こえる。


すると次の瞬間、ローブのストーカーはペンキがぶちまけられるように

彩が鮮やかになっていく。



「オッラァ!!」

ソライさんがローブの人物を踏み台にしてサイムさんのボードに飛び移り

「・・・ッ!視界不良!視界不良!不時着します!」

ストーカーは突然ソライさんの奇襲とこんなビビットカラーに

塗られて驚いて目を抑え姿勢を崩し不時着する。


そのどさくさを狙って!!

「返せえええええええええ!!!!」

私がタックルの要領でカイちゃんをストーカーの手から強引に力づくで奪い!!!

回収する!!!


「ッ!」

まずい!!


私は地面も何もない空中にいるのにタックルの要領でやったから反動で、


数mの高さに投げ出される構図になっている!!?

「危ない!!」



ドンッ!!と地面に落ちた感覚がした。

不思議と、痛みはしない。


「!!」

それもそうだ。

私を抱えてボードからジャンプしたサイムさんが抱えて守るように一緒に落ちてくれたのだ。

「サイムさんっ!!?大丈夫ですか!!?」

「・・・んーーぁ・・・いてて・・・

大丈夫、俺頑丈だし、このくらい、なんともない。」

「どこか折れてるんじゃ・・・!」

「本当に、心配ないよ・・・。

俺学校の、3階から、何度か落ちたことが、あるけど、

その時も、骨、折れてなかったし・・・。

折れても、すぐ、直るしな。それよりも・・・歯車は・・・?」


私はさっきがむしゃらにキャッチした歯車を見せる。

「カイちゃんならここに!」

私の手には確かにカイちゃんがあった。

「カイだけか?」

「はい。」

「・・・てぇー・・・こと、は!

オメガは、まだ!」


「返せ。」

その人物がつぶやく

私たちの少し手前に先ほどよりも色どり鮮やかなローブの人物がおり、

同じように転落してまともにダメージを受けているはずなのに立ち上がった。

「い、やだ。てめぇこそ!かえせ!」

「お断りです!」


「く、ローブが邪魔だ。」

歯車を求める『敵』はローブを脱ぎ捨てる。

「おい、また、かよ・・・」

サイムさんと私の眼前


そこにはあのモンブに似たような仮面であり古代の生物でアノマロカリスのような形で色は赤。

そしてモンブと違い身長が低く普通の人間の二本腕のほかに

背中に大きな四本の機械の金属でできた丸太みたいな太く長い腕に

さっきのドリルとハンマーの武器がついており。

合計六本の腕と、二本脚にロケットのノズルがついており、何もない空中を飛び

朱い淑女のようなスカートをまとった、女性型の子供ロボットがこちらを見ていた。


「名乗れ、てめぇは、何、者だ!」

「あたしの名前は2611号ノーツー、歯車を追うものだ。」

モンブ一体だけじゃなかったんだ。こういう厄介なロボットが!!


「さぁ名乗ったぞ!それを返せ!」

「もともと、自分のものじゃないのに、

返せっていう表現はどうなんですかねぇ?」

サイムさんが煽る!

「ならば奪うのみ!!」


「キャぁ!」

サイムさんは私を押しのけ


「来い!」

ノーツーはサイムさんをにらみ、サイムさんの元までやってきて

殴る体制ボクシングのようなしせいに入る。


そこからは集中してみたせいか、

まるでスローモーションのような光景が広がっていた。


サイムさんはまずは普通の腕のパンチの一発目を右へよける!


そして二発目のハンマーを今度は地面を蹴り上げ上へとかわす!


三発目のドリルを空中でバク転でかわし!


四発目の普通のパンチを、受け止め。


五、六発目のハンマーとドリルを交互に回し蹴りで蹴り上げ。


そして・・・


「おらぁあああああああ!!!」

サイムさんはとどめの頭突きを繰り出すッ!!


「グっ!?」

冷たい金属音が響く!

サイムさんは金属に頭突きをした反動で

よろけながら、相手を組み伏せようとする!


でも・・・


「大馬鹿ね貴方。」

「ッ!?」

「本来、柔道とかで、相手を組み伏せられるのは、

相手が二本腕の場合のみ!だから私には・・・!」

「しまっ」


ノーツーは器用に残りの腕を使い、サイムさんを引きはがし

押し出す!!


「くぅーーー・・・」

サイムさんは頭突きの衝撃がでかかったのか頭から少しだけ血が出ていた。

「ふふ。残念でした。」

ノーツーが銅色の歯車を片手に不敵に笑う。

「くそがあああああああああああ!!!」

「さてと・・・そちらのほうもよこせ!」

どうすればいいの?

サイムさんは負傷している。

相手は強い・・・。私なりでいい!

考えろ!考えろ!この状況・・・ノーツーからもう一つの歯車を奪還する方法を!


しかし、私が考えていると

ノーツーは射程範囲外の一定の距離で立ち止まる。




「・・・通信を受信。こちらノーツー

・・・現在歯車を一つ確保した。

現状もう一つの歯車を求め交戦中なり、

そちらの報告を求む。」


まるで誰かと通信しているかのようにノーツーは話し出す。


「何?3066号が?

3066号を危険分子と判断?

理解した。

通信を終了する。」

どうやら通信が終わったみたい。




「さぁ喧嘩しよーぜ。まだまだこれからだろ?もう一つの歯車『オメガ』を返せ!!」

サイムさんが叫ぶ!

「僕参上!!サイムだけにいい格好させるもんか!

僕も相手になってやる!!」

先ほどの交差点から警戒にあたっていたであろう

ソライさんが立ち塞がる!!

「私だって!!」

私も立ち上がり対峙する!



ノーツーは淡々と

「状況が変わった。お前らとの喧嘩はまたの機会に取っておく。」

え、それってどういう・・・。



ノーツーはジェット噴射を起動する。

「何?てめぇ!勝ち逃げする気か?」

「悪いが、歯車を一つ奪還された以上この勝負は『引き分け』だ。」

「返せ・・・」

「また会おう、今度は本気で奪いに行くからな」

そう言ってノーツーは空高くへ飛び立っていった。


私は何もできなかった・・・。


「ちっくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

サイムさんの叫びが街にこだまする。

私たちは・・・負けたのだ。


「はぁーーー」

ため息を吐いて気持ちをリセットする。

大丈夫、勝負には負けたが、

ムッチーとカイちゃんの別れという思いはきっと守れた。

それでいい。今回の進歩はそれでいい。

きっと。




マチルダさんとムッチーと再会し事情を説明する。

マチルダさんもどうやら歯車を持っていてオメガといったらしい。

そのオメガをどうやらサイムさんは報酬にもらう予定だったらしく

ノーツーにまんまと奪われたということらしかった。


マチルダさん曰く。

「ジェームズへのお土産が無事なら問題ないわ。

ただ残念だけど、依頼人としては依頼不達成ということで、

報酬の借金全額返済のところを

半額にしておきます。いいですね?」

言葉は冷静だがとても悲しそうな表情をマチルダさんはしていた。

「「はい・・・」」


そして改めて

「ムッチー・・・今までありがとうね。」

「うん、バイバイ、カイちゃん。」

二人がお別れをした。

「認証コード『χ-カイ-表現と心の情景を考えるもの』を確認しました。」

アルゴニックさんにぽちゃんと吸収され、

『χ』のマークのパネルに、カイちゃんが吸い込まれるように収まった。


「ニッちゃん・・・私いつか、カイちゃんに笑われないような女になる!」

「頑張れ。ムッチー!」

「うん!」

もしも【違う未来】をたどっていたらこの光景がどうなっていたのかわからない。

泣きながらも決意を示した、強い友達がそこにあった。

世の中は案外、別れだらけなのかもしれないが、

それでも出会いがきっとそれ以上あると私は願う。

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はぁ、はぁ・・・まだ追ってきてるの?

『姉さん』?いったいどうして・・・こんなことになったの?

どうして私をいじめようとするの?

怖い・・・もっと、遠くへ逃げなきゃ・・・

はやく、逃げなきゃ・・・


「ぐっ・・・」

身体も重たいな・・・

足が稼働しなくなってる・・・

靴もすり減って歩きづらい・・・

お腹もすいた・・・

ご飯が食べたい・・・

ここはどこだろう・・・

いろんな場所を乗り継いできたけど、もうわからない・・・

『姉さん』・・・優しい姉さんたち・・・

どこ行ったの?


どうしてこんなことになったの?

あの光と煙は何だったの?

なんで爆発が起こったの?

いいことが起こるんじゃなかったの?

楽しい日常はどこ行ったの?

お勉強は?お遊びは?

先生の言うことを破ってどこ行ったの?

どうして、私はここにいるの?

どこまでこんな日々を過ごせばいいの?

姉さんたちは姉妹を愛していたの?

姉さんは私と幸せに生きるのは嫌なの?




これが『寂しい』なの?

心細いよ・・・

怖いよ・・・

暗いよ・・・


私わかんないよ・・・


暗い夜道を一人で走っていく。

姉たちがおかしくなった原因を考えながら、

ただひたすらに思考を重ねていく。


寂しい道をふらふらとさまよう。

土の感触が変わったあたりだろうか?

思わず、私はこけてここで気を失ってしまう。






気を失う直前の私の記憶ログにあったのは


ただ一言

『たすけて』

の四文字だけだった。

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