第3話_転『友情と別れのパレット:心残りと弱さと、大人の務め』

ムッチーを送っている帰り道の最中。

ゲームセンターの景品もあるし、

ここは高圧配線が多めなのでボード禁止区域から帰っている最中だ。

実は少し警戒している。


ゲームセンターを出たあたりか

何かがすぐそばをいる気がする。


ムッチーが見られている。

という発言をもとに周囲に気を配っている。

もしそれが事実なら今も・・・


まぁ、いかにも怪しい人影なんているわけ・・・


いた・・・。


何あの人・・・

そういえばさっきからちらちらいたような・・・

あのローブを羽織った人・・・



あれ、今夏だよね。

なんでローブ羽織ってるのあの人!?


あからさますぎる!!


背丈からして10代だと思われる、

ローブを羽織った人物を横目に

私は小声で、ムッチーに呼びかける


「ムッチー、なんかあからさまに怪しい人がいる。

もしかしたらストーカーかもしれない、走ろ!」

「え、うん!」


私たちは走り出す、するとローブの人物も走り出す

「ムッチー、あれ、ストーカーだよ!走って!!」

「ごめん、ニッちゃん!今もう、全力!」

ストーカーのほうが速い!まずい!追いつかれる!

私たちは、大急ぎで路地裏に入る。


ドンッ!!と何かにぶつかる!!


「あ!?さっきの財布ちゃんと鬼ィ!?

てめぇらよくも俺に恥をかかせてくれたなぁ!?」

その路地にはなんと偶然、さっきの不良がいた!


「げッ!まずい。」

しかもその不良のほかに

でかい鬼の男の不良もたむろしていた。

「番長!こいつでさぁ、

こいつが俺に恥をかかせたくそ女です!」

「誰が、くそ女よ!」

「・・・ほう、こいつをやったのは、お前か。」


くそ、ストーカーに追われてる時に

まさに前門の虎、後門の狼ってとこかしら?

そして相手の種族も鬼。しかも男性で鍛えている。

まず、間違いなく勝てない。


「ムッチー下がって!こいつ強いよ!」

「ニッちゃん!やめようよ!」

「ここで引いたら追いつかれる!!」

「ッ!!」

状況をムッチーも理解したようだ。


「どぉれ俺が相手してやろう。

もし俺が勝ったらお前に今以上の苦しみを与えてやる!」

「番長、その時は俺もお供しますぜ、

財布ちゃんはたっぷりとかわいがってやるよ。」


しかも変態くずどもときた。こういうタイプ一番嫌い!!


「悪いけど、そんなのお断りよ!」

「まぁなるようになれって話なんだよ。

この『喧嘩組』番長の名に懸けて、

お前らはここで俺に負けんだよ!!」


 私は番長のパンチを食らう前に手でおなかをガードする。


「グっ・・・がはッ!」

そのままパンチを手に食らう。

すごい衝撃だ。こんなのを何度も食らっていたら、立てない。

ストーカーの件がなければムッチーを逃がしているところだけど、

何が何でもここを通らなければいけない。


「やああああああああああああああああ!」


私は一転攻勢の心構えで、相手の顔面を殴りつけようとする。




傷付けたらどうしよう・・・


一瞬だが思ってしまった・・・




「うん?この程度か?」

「ッ!?」

が殴ったはずの私の手を掴む、うごかせない!!

力に差がありすぎる!!


いや私も一瞬の躊躇から力を出し切ってなかった!


「おらぁ!!」

そのまま私に肘鉄をくらわす。


衝撃で頭が真っ白になりそうだ・・・


「がぁッ!?」

「ニッちゃん!」

肘鉄をもろに食らい頭がくらくらする。


「ニッちゃん!!ニッちゃん!!!」


「おっとお前の相手はこっちだぜ!

財布ちゃん~、さっきの反抗的な態度の分た~ぷっりかわいがってやるよ!」


「このクズがぁ・・・!!」

私は声を振り絞る。


「いや!やめて!こないで、」

くそ、私にもっと力があったら!


番長が私の髪をひっつかみながら笑ってる

「そこの小鬼のお前もこれまでだよ。ぐへへへ!!!

弱いやつを服従する!いい気分だぜ!!!」


また私の弱さが傷つける。

無鉄砲で軽薄な弱さが

今度は自分じゃなく、

親友を傷つけてしまう・・・。

温かい笑顔を守るって決めたんだ・・・。

なんで私の体は動いてくれなくて、意識を保つのがやっとなの?


吉田君の時も思った圧倒的な暴力や現実の前では

悪知恵を働かせようと気丈にふるまおうと

私は愚かで無鉄砲で無責任で無力だ。


守らしてください・・・


いや、私じゃなくてもいい。

だれか・・・

ムッチーを。

せめて親友を、守ってください・・・


お願い・・・です。





そんな私とは裏腹にムッチーは、不良を見据える。


「お?どうした!ボコられてぇのか!?」

ゆっくりと口を動かし。

「・・・たす、助けて!!『カイちゃん』!!」




ムッチーが誰かへ叫ぶ。

その時だ不思議なことが起こった。

まずムッチーの持っていたバッグからピンク色の光があふれだす。



「ムッチー、ちょっとそれを言うのが遅いですよ。」



どこからともなくややきつめな女性の声が聞こえてくる



「な、なんだ!?まぶしい!!」

そしてだ周囲の建物、地面がまるでペンキを

ぶちまけたみたいに、高速で色が塗られていく。

色は様々な色だった

赤、青、緑、黄色、オレンジ、白

そしてピンク

様々な色がビビットカラーで塗られていく。


まるで色が世界にあふれたかのように!


「な、なんだこりゃ!」

そしてその次に不良にも同じように色が塗られていく。

「おい!前が見えねぇぞ!?」

驚きのあまり番長は私の髪を離す。


「番長!どこにいるんですか!?

番長ー!!目が見えないよおおおおー

こわいよおおおおおーーぉぉぉおおおーーー!!!!

おとうさーーーあああああああああん!!!」


番長が私を離して目をこすりだす。

だが目をこすってもこすっても、

色は落ちないようで。


「こんの!くそアマ共がああああああああああ!!!

どこにいやがるぅうううう!!!!」

無茶苦茶な方向を殴りだす!


「ニッちゃん!!」

ムッチーが私のもとへ駆け寄ってくる。

「ム、ッチー・・・」

私は満身創痍になりそうになりながらムッチーの手を取る。

暖かい。手がとっても暖かい。

守ろうとしたのに守られてしまった・・・。

この暖かさに守られている。


「そこかぁあ!」

番長が耳を頼りに、私達のいるところを殴りつけようとする。





「残念ながらチェックメイトですわ、男子諸君。」

先ほどの謎の声が勝利を宣言する。



その時。




誰かが大急ぎでこっちに走る音が聞こえる。

「「高達流喧嘩術たかだちりゅうけんかじゅつッ!!」」

うつらうつらとした頭に響くよく聞いたことのある声

ひらめの稚魚!!」

かれいの稚魚!!」


番長の両肩に強烈な重いかかと落としが炸裂する!

「がぁああああああああああああ!!!」


「「グァアアアアアア!!」」

だがその技をした本人たちも痛がる。

「骨、イッテェエエエエ!」

「かかとが破裂するみてぇにイテェ!!」

少し悶えた後二人はふらふらと立ち上がる。


「はぁーーー・・・よっしゃ!間に合った!」

意気揚々と長身のロングヘアーの男は言う

「だ、大丈夫かい、ニッちゃん!」

獣人のジャージ姿の男性が心配そうに言う。

「サイムさん、ソライさん。」

私は泣きそうになりながら二人の名前を言う。

「今回は労災を出してやる!こんな馬鹿あいてに頑張ったしな!

あとで病院へ行け!」

「ニッちゃん僕に無断で無茶はいけないよ。

でも、大切な人を守るのはすごいことだよ!」

「お二人とも・・・ありがとう・・・ございます・・・。」

ボロボロと泣き崩れてしまう。心細かったものがつながった気がする。



感謝する・・・今の私にできる精いっぱい・・・。

「とりあえずニッちゃん、ナイスファイト。よくもった。

あとは任せろ!」


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

「サイムさん・・・ソライさん・・・なんで、ここに?」

「歩いていたらこの紙が、空からばらまかれたんだよ。」


ソライさんが差し出した紙を見てみると、

HELP!という文字と

テキいう矢印で描かれた不良と番長の絵と

私が殴られているところの絵が載っていた。


ついでに言うと場所も丁寧に書かれていた。



「いったいこれは?」

「さぁな?すぐそばを通った時にこれが空から落ちてきたとき、

すぐに駆け付けなければ、やばい状況だったことには変わりない。

まぁ何とかなってよかった。」


 「お前ら!俺たち喧嘩組を相手にしたらどうなるか、

知ってんだろうなぁ!?」

番長がふらふらと立ち上がりながら叫びだす。


私はずっと思っていた

この喧嘩組って名前・・・

聞き覚えがあった。



「・・・」

「・・・」


サイムさんもソライさんも真顔で番長のほうを見ると


「プっ、くはっはっはははははははは!!」

「ぎゃーーーはっははははっははは!!」

二人して指をさして番長のほうを笑う。


「何がおかしい!!俺には初代番長とのコネだって!」

「ダウト!」

「ッ!?」

「お前、それ本気で言ってる?」


「はぁ?番長は初代番長とのコネ持ってるに

決まってるだろ、何言ってんだよおっさん!」

「うわー僕らがおっさんかー。クッソうけるんですけどwww」

「おい、ソライ今いいところなんだから自重しろ。」

「フヒヒ、さーせん。」


 「いいか、お前らが名前を借りてる、

『喧嘩組』ってのは俺が作ったものなんだわ。」



「は?」

番長と不良は唖然と口を開く。


あーやっぱり、昔。サイムさんが言っていたあれだった・・・。

「だーかーらー、俺がショーワ町、鮫島学園喧嘩組、

初代番長。」

「ま、まさか。あ、あなた様は」

番長と不良は震えだす。


「そう俺が元喧嘩組、

『人を巻き込む天災-ディザスターピープル-』の

武山才無様だ。」

「そして僕がその腹心、

『斬切のソライ』こと応木空井様だよ。」

「ひ、ひぇ」

番長は小便をちびりだす。

「うちのバイトをいじめた覚悟はいいか?

俺の喧嘩組(古巣)の名をかたった覚悟もできてるんだよなぁ!!?

クソガキィ!!?」


「そ、そこまでだ!俺のお父さんに頼んで、お前らを訴えてやる!!」

するとソライさんが早口勝ややどすの利いた声で。

「言っとくと僕も今回の件についてはかなりきてるんだよねぇ?

そっちがその気なら僕はいくらでも受けて立つよ。

僕に交渉、それも喧嘩が絡んだっていう、

一番得意な交渉をやらせるっていうのかい?

ならば君の父親、君の母親、兄弟、交友、学校、自治会関係に至るまで

君をうちのバイトに手を出したっていうことを、

ちゃんと何が一番の原因か場を設けて話し合ってやる。

全員にしっかり君の証言を聞いてもらおうじゃないか。

理由から何から何まで公平にそうなったかをさ。

裁判で争いたければいくらでもやってやるよ。

君のお父さんが何だ?あらかじめ言っておくと脅迫ではなく警告だ。

君のお父さんや会社や家系、すべてに君は迷惑をかけているという

自覚はあるのかい?そんなみせいねんを擁護する親の気持ちを考えな。

何より僕らの大切な仲間に過剰な攻撃をし、

僕らの思い出の名前けんかぐみの名前を無断で騙ったんだ。

喧嘩は買うが余計な喧嘩は売らないのがけんかぐみらのポリシーだ。

騙るぐらいだからそれを君らは守ってんのかな?

一応いっておくと君がそれ相応の態度を見せるまで和解はしない。

僕だって君らがそう言う態度を見せなければこういう態度はしないんだよ?

だけど、最初に手を出したのは君たちだ。

僕らの大切な人を傷つけたやつはどんな理由があれ許さない。」


「・・・」

「言いたいことがあるなら言えよ。僕だけしゃべってるじゃないか。」

「・・・・・・」

不良はうつむく

「・・・交渉の舞台にも立てない臆病者め。」

ソライさん・・・それ、がっつり脅迫に聞こえますよ・・・・・・。




「さて、少し選ばせてあげよう、僕らとさっき言ったように

すでに交渉の舞台に立っていない君らと争うか?」

「ここで土下座して二度とこんなことをせず、

ニッちゃんたちにした非礼を詫びるか。」

「それとも俺たちの怒りの腹いせに徹底的に殴られるか?」

「一時的にボコられて今だけ我慢するか、

ボコってた相手に、プライドもすべて捨てて、土下座するか。

社会的に死んで今後の人生で地獄を味わうか。だけの選択肢だ。」

「「どれがいい??」」




「へ・・・」

「ぁ・・・」

「あいまいな返答だと、すべての選択肢を

一通り味わうことになるけど?ん?そうなりたいのかなァ?

じゃあサイムやっちゃって。」

「了解だソライ。さてと、じゃあけじめつけようか?」






「待ってください!やめてください!俺が、俺が悪かった!謝るこの通りだ!」

「申し訳ございません!!申し訳ございませんッ!!」

不良たちがサイムさんに頭を下げる。












「俺たちに謝るなッ!!!謝罪する相手がちげぇだろうがよッ!!!」


「・・・ッ」







「サイムさん・・・その辺で・・・」

私がそういうと

サイムさんは私に向き直り優しく諭す。



「いいか、ニッちゃん。徹底的にたたくことは確かに悪いことだ。

時に身を引くことも大事だ。大勢で叩きのめしたりし続けるなんて

それをやってしまっては、人として下がれないところまで下がっちまう。

『間違い』を許せない奴は『弱い子供のまま』だ


だけどな・・・。子供が間違いを犯し、反省できない時

なぜ反省しなくてはならないかわからない時があったら

叱ってやらないといけないときがある。それが大人だ。

こいつらは叱らないと、その間違いの時の『弱い』ままだ。


叱らずに子供の時のような感覚のままでいたら、

大人になった時、こいつらはもっと大きな間違いを犯すかもしれない。

そうなったら、大人になったこいつらは責任を負わないだろう。

こいつらを育てた親も責任を負えない。こいつらは子供の時のまま

誰かがもっと悲しい思いを背負ってしまう。


それにだ。叱らなくたって反省をしたとしても誰かが

区切りをつけなければいけない。反省をし続け過去に後悔をする。

やってしまったことは仕方がないが、しっかり謝らないと後悔しっぱなしだ。

謝るとき心を込めて謝らないと本当に過ちを正したことにはならないからな。


俺もソライも大人になるにつれてこういったものが積み重なってる

時間がたつと謝罪ができなくなる。後悔で押しつぶされ弱くなる。

だからこいつらはニッちゃんたちに形だけで誤ってしまっては大人になって

過去の後悔がこいつらにとっても悲しい思いを引きずるんだよ。


これはみんなが誰しも引きずっている、わだかまりだ。


だから、今、俺らができることは叩きすぎないよう、細心の注意を払いながら

こいつらをニッちゃんたちに今後の後悔が無いよう謝らせる。

わだかまりを引きずっているものとして

少しでも年下のために、それをできることをする。

世間体や見栄としてではなく、大人としてな。


ニッちゃんも心残りはあるかもしれないが、

そういう『弱い厳しさ』ではなく『優しい強さ』を

しっかりと受け入れるんだよ。」




「・・・」

「・・・」

今の話を聞いて

不良たちは涙目でこちらを見つめる。


「・・・」


私も思うことがある。私もやってしまった。

これが原因だ。

サイムさんが言ってたこと。私の弱さが招いたこと・・・。


不良が向き直り半泣きで、しっかりと私たちに頭を下げて。

「・・・

・・・申し訳ございませんでした。

・・・俺、睦月さんにひどいことを言ってしまいました。

・・・暴力も振るいかけましたごめんなさい。」


番長を名乗っているほうもゆっくりと土下座をする。

「・・・

・・・俺も、大切な名前を語ったり、暴力をふるいました。

申し訳ありません。ごめんなさい!」


・・・



・・・



「わ、わたしも・・・

ご、ごめんなさい。

思わず手が出ちゃって。・・・ひどいことをして、

ごめんなさい!」


私は今、どんな顔をしているのか自分でもわからない。

震えた声で気持ちを込めた言葉で何を言ってるのかわからない・・・。


頭を下げる私に不良たちはどんな顔をしていたのだろうか?

ただわかるのはソライさんとサイムさんが、私たちを見ながら優しい声で話し合っていた。


「・・・ふぅーーーー痛み分け・・・だな。サイム?」

「やっぱりニッちゃんもそうだったか。」

「さっきの交渉、結構勢いで言うの賭けだったんだよ?」

「ま、そりゃそうだろう。ニッちゃんだもん、友達思いなあの子らしいな。

お前の交渉は綱渡りだが、俺がフォローしてやるよ。昔みたいにな。」

「ああ、なんか懐かしい感じだ。自ら身を引くことも大事だけど。

今ならまだ引き返せるしね。僕らに対して『あいつ』がしてくれたことだ。」

「ああ、懐かしいな。よくあったなこういうの。

ちゃんとしっかり許せればいい。」

「『あいつ』が今のサイムみたいに諭してくれなかったら

きっと僕は・・・一生後悔したと思う。

冒険社も設立しなかっただろうね。」

「今思えば大人になったら変に意地はってできないことだしな。

これ以上こいつらを責めるのはガキ以下のすることだ。」


そうして不良たちはそのあと

何も言わずにゆっくりその場を去っていた。

すこし優しく微笑んで。

ムッチーと私も彼らを優しく静かに送り出した。

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

「さて、万事解決だ!」

「「いえーい!」」

「あいかわらず無茶苦茶ね。あなたたちの解決法。

まぁしっかりと更生させたのでよしとしましょう。」


マチルダさんだ・・・

その昔、ありとあらゆる学校を飛び級で単位を取得し何故かは知らないけど、

この下町に行きついたっていうまさに天才少女であり、

サイムさんたちがいつも困ったら泣きつく人だ。

私とは知り合いだが接点はあまりない。


「サイムさんたちがお世話になっています。」

「本当に世話ばかり焼けるわ。

やれやれ、バイトまで問題に巻き込まれるとか、

本当にあなたたちってば・・・」

「すみません。」

私は頭を下げる。

「ニッちゃんの知り合い?」

ムッチーが聞くマチルダさんとムッチーは初対面だった。


「うん、この人はろある堂のマチルダさん。ほら鑑定屋の。」

「あ、初めまして、睦月といいます。

ニッちゃんからはムッチーって呼ばれてます。」

「私は書輪街子『大天才少女-ジーニアスガール-』。

ろある堂の支店長の、マチルダさんといったほうがわかりやすいかしら?」


「で、俺がアルゴニックってもんだ!」

そこにいたのはメイジダンジョンで出会った

なんだかよくわからない生き物アルゴニックさんだった。

「あ、起きたんだ。アルゴニックさん。」

「おうよ。今さっきこいつらと協力関係を結んだばかりだ。

前部の後書きにも書いたがさっきまで空気が重苦しくて、

なんやかんや、ガキの頃とかの昔を思い出し

心にぐさぐささって致命傷だったぞ!」


後書き・・・?まぁいいや。


「へ、へぇー」

協力関係って・・・。


サイムさんを睨む。

ちらっとそっぽを向いて口笛エオ吹いているこの人は

どうせまた面白そうだからとか言って、なんだかよくわからない

協力関係を結んだんでしょ。


「で、サイムさん達はなぜ、マチルダさんと一緒にいるんですか?」

私は地味に気になっていたことを言う

というよりまともな女性の交友関係の少ない

あの二人がなぜ、こんな美人と一緒にいたのか

さっきから気になってしょうがなかった。


「あーっとえーっとな。話は数時間前にさかのぼるんだが・・・」


サイムさんはこれまでの経緯を話す。


願いのこと

護衛の依頼をしたこと

マチルダさんと買い物をしたこと

突然空から、私たちの助けを求めるのチラシが降ってきたこと。


それらを説明してくれた。


「あれからマチルダさんの買い物が無事に済んで、

帰り道に何が起こるかと思えばこれだよ。

何とかなったからいいものの。」

「しかしニッちゃん。無理は禁物だよ。」

「ごめんなさい。助けてくれてありがとうございます。」

「まぁ何かあったら互いをフォローをしあうのは大事だ。

世の中にはソライみたいな変態が、うようよしているもんな。」

「え、僕!?」

場が少し明るくなる。


ここでマチルダさんが口を開く

「あの、聞きたいのだけれども、さっきの男どもの目とか壁や地面は、

なぜペンキがぶちまけられているみたいに、なっているのかしら?」

そういえば疑問だ、ソライさんが拾った紙は私の殴られている瞬間を、

的確に映した『絵』が描かれていた。

写真じゃあなかった。なんであの瞬間をこの短時間で描けたのだろう?

いったいどこから?


「あ、えっと、説明しづらいことですが、

それたぶん『カイちゃん』の仕業です。」

ムッチーが、恐る恐る手を挙げて言う。

「そういえばムッチーさっき『助けて、カイちゃん』

って言ってたもんね。カイちゃんって誰?」

ムッチーはカバンからガサゴソ何かを取り出そうとする

「あの、えっと、その、これがカイちゃん・・・です。」


その物体は色はピンク色だけれども、

形、大きさ、不思議な模様。それは完全に見たことのある代物。

中央には『χ』っていうマークが点滅していた。


それは・・・

「超越の歯車!?」

「この独特な感じ、『ピン』じゃないか!!

いや、この世界では『カイ』か!

お前なんでそんな状態でいるんだよ!」

と、アルゴニックさんが反応すると、

それに答えるかのように、歯車から声が聞こえる。


「げ、アルゴニックじゃん!

あんたこそ、起きたの!?

この姿にはいろいろと訳があるのよ!」


「キエアアアアアアアアアアアアアシャベタアアアアアアアアアアアア!!!」

ソライさんが馬鹿みたいに叫ぶ。

「本日二回目だぞソライ。いい加減慣れろ・・・。」

二回目って何があったんだろう?


「ううぅ・・・まさかのピンか・・・まぁいてくれてうれしいけど・・・」

「はっきり言いなさいよ。」

「なんでもない・・・。」

なんだろうこの思春期の娘と父親みたいなやや険悪な雰囲気・・・。


「カイちゃんは私のおじいちゃん家の、蔵にあったんです。」

「ねぇムッチー・・・ちょっといいかしら?」

カイちゃんが喋りだす

「何?カイちゃん。」

「私ね。この前言った家族までの帰り道・・・

実はね、この謎生物のところなんだ・・・。だから、

あなたとはここで、お別れしなくっちゃならないの。」

「え、そんな!突然すぎるよ!私、

まだまだあなたとお話したいこといっぱいあるのに!!」

「ごめんね。ムッチー。でも私行かなくっちゃならないの。」

「嫌だ、嫌だ嫌だ!カイちゃんが行っちゃうなんて嫌だよ!!」


ムッチーから涙がこぼれだす。

「ごめん。ムッチー。でもね、大丈夫、あなたは強い子、本当は強い子。

それでいて優しい子だから私がいなくたって大丈夫。」

「それでも嫌よ!」

「ムッチー、いい?愛情のこもった別れも人生で必要な美なのよ。

だから、それも糧として生きていきなさい。

その糧一つ一つがあなたという『絵』を育てる。

いつかまた、あなたと出会ったときに

成長したあなたという絵を私に見せて。それまでお別れよ。」

「うう、わかった。ありがとう。でも、カイちゃん、アルゴニックさん。

一つだけわがまま言っていい?」


「時と場合による。」

アルゴニックさんは淡々と答える。

「何でも話して頂戴。」

カイちゃんは親身に話す。


「今日一日だけは一緒にいさせて。

家まででいいから。お願い。

なんなら帰り道だけでもいいから一緒にいたいの。

まだ心が整理できないの。」


「うーん、まぁ別に急いでないし。俺はいいよー。ピン・・・じゃなくってカイ次第だ。」

アルゴニックさんは気楽な感じで答える。

「もちろんよ。もう少し話してお別れ・・・しましょう・・・。」

「そっちもか・・・。ニッちゃん、君を冒険社の一員としてお願いだ。

ムッチーを守ってやってくれないか?

俺らはマチルダさんとこの後もちょっと用事がある。

君が何とかしてムッチーとカイを家まで守ってやってくれ。」


私は一息をついて決意し答える

「了解です!」

「じゃ頑張ってねー。」

ソライさんはゆっくりと歩む。

マチルダさんは一礼をして、その場を去る。


「カイ!オメガともどもあとで、お前らにほかの歯車のことを

たんと聞いてやるからな!」

「なにもないわよー。あっかんべーっ!」

アルゴニックさんはカイちゃんに若干の舌打ちをしてその場を去る。


「よく引き受けてくれたな、ニッちゃん。いい子だ。」

サイムさんは私の頭をポンポンしてその場を去る。


「じゃあ帰ろう。ニッちゃん。カイちゃん。」

「ええ。」

「・・・うん。」

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

私とムッチー、そして超越の歯車のカイちゃんは、

駄弁りながらゆっくり帰路についていた。

「カイちゃんは、服選びのセンスとか、色とか絵がすごくうまいんだ。」

「ああ、だから突然センスが良くなったんだ。

さっきの買い物の間もずっとアドバイスをしてもらっていたから。」

「ええ、私はなんたって『絵』の歯車、

またの名を『表現と心の情景を考えるもの 』

センスが良くて当然、ファッションも大好きだし

絵なんていくらでも描けるわよ。」


「一回、家にいるとき、子供のころの使わなくなった絵の具とかで

試しに書いてもらったんだけど、すっごくうまかったの!」

「あれぐらい、大したことのない落書きよ。」

どんなのだろう?というよりさっきも思ったけど、その姿でどうやって書いたんだ!?

「すごい美術品みたいなのだからニッちゃんのもあとで見せてあげる!」

「ありがとう!」


「二人ってすごく仲いいんだねー。ちょっと嫉妬しちゃうなぁ・・・。」

「あら、あなたたちも仲いいと思うわよ。」

「「ありがとう!」」

「ふふ。」

「でもカイちゃんは帰るべきアルゴニックさんとは仲よくないんだね。」

「・・・純粋に馬が合わないだけ、生まれたころから、

あいつ、ちょっと苦手。絵を描くけど中途半端な極め方が気に食わないし。

なんか、私が言うのもあれだけど女としても、絵描きとしても、

家族としても素直に嫌い。でも、家族だから一応一緒にいるし、

ほかの家族にマシなのもいるし『パートナー』もいるし、

私がいないとあいつら面倒ごとの渦中になるから、一応一緒に行くけどね。」

「そうなんだ・・・。ねぇパートナーってお婿さんとか?」

ちょっと失礼なこと聞いたかな・・・。

「いえ、違うわよ。彼女は女だし。

生まれたころから一緒にいる、あなたたちのような関係、

人間的にいうと幼馴染ってやつかしら?」


幼馴染か・・・ムッチーとは中学からだし、

苗字や家を転々としている私にはいないなぁ・・・。


「ねぇこっちからもいいかしら?」

「?」

「ニッちゃんとあのサイムって人はどういう関係なの?」

「え・・・どう・・・って、バイト先の・・・。

しゃ、社長?と思う。」

「・・・ふーん。じゃあ聞きたいのだけど。

どういう風に『思っているの?』」

「え・・・それは・・・。」

「それ私も気になってたんだよね!ニッちゃん的には

サイムさんはどういう風に思っていてどういう関係でいたいの?」

ムッチーまで・・・。


「・・・どうだろう・・・。」

わからない。私はなぜかサイムさんにひかれている。

恋かどうかも今の私には、どうやっていえばいいのかわからない。

二人に伝えられない。うまく表現できない。

「ふふ、少し、意地悪だったわね。

私の家族のローだったらうまいこと相談に乗れたかもしれないけど・・・

私からはいつか『表現できるように』なるといいわね。しか言えないわ。

それを。」

「・・・」

何か見抜かれている感じがする。

私の見てこなかった。見ようとしなかった部分まで。


なんだか悔しいなぁ・・・。


そんな話をしていると

ムッチーの自宅の前まで着く。


つまりここでお別れをすることになるんだ。


「さてと・・・私は・・・ここまでね。」

カイちゃんはゆっくりと喋る。

「・・・。」

「ムッチー名残惜しいわ。とっても、でもいつか。

また会える。絶対に。」

「・・・うん。」


カイちゃんは今にも泣きそうな震えた声で話を続ける。

「大丈夫、私が見込んだ女ですもの。

貴女の色はとても素敵な色。

きっときれいな絵が描ける。自信をもって。

貴女の色であふれたそのパレットに哀しい色は合わない。

哀しい色はすこしでいいの、哀しい色ばかりで埋めるんじゃなくて

貴女のあなたの心の色がこの悲しみと別れをきれいな絵にしてくれる。

約1、2か月間一緒に過ごせて本当に、楽しかったわ。

ありがとう。」

「わ、私だって。ありがとう・・・

・・・ありがとう!カイちゃん!

ずっと!ずっと!あなたを忘れないから!

また、会おうね。」

ムッチーの伸びた前髪が風に揺られ、隙間から涙いっぱいのキレイな目が見える。

「ふふ、最後のアドバイス。前髪は少し分けたほうがかわいいわよ。」


そういってムッチーはアルゴニックさんに

あとで渡すため私にカイちゃんを差し伸べる。

「ニッちゃん、カイちゃんを頼むね。」

「うん。」


「カイちゃん、さようなら。」

「ええ、さようなら。」





その時!

「対象を確認。」

という声が路地裏に響き渡る。声のしたほうに目を向けると

ものすごい勢いで茶色のローブを着た何者かが、翼のようなものを広げて

地面すれすれの低空飛行で『飛んでいた。』


そういえば、ストーカー!!!

もしかしてさっきまでは不良とサイムさん達がいたから近寄ってこなかったんだ!!


「あ!」

「きゃぁ!」

そのままローブの人物はムッチーの持っていたカイちゃんを強奪する!



「まずい!すられた!!」

まさか!このタイミングを見計らってきたの!!?


ストーカーはそのまま、前方の道へ飛びながら爆速で逃げていく!!


「ニッちゃん!!」

「今追いかける!!

ガジェットギア!!セット!!!」


私はボードギアをガジェットにセットし、

エアーボードに乗り込む!


「ムッチー!!危険だから自宅にこもっていて!!!

私が何とかして見せる!!!」

「わかった!!信じる!!!」


ムッチーから大切な別れを奪うなんて!

絶対に捕まえる!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る