第3話_承『友情と別れのパレット:後悔とライバル』

 それから公園のベンチに座り、買ってきたアイスクリームをほおばる。

今日もアイスクリームはラムネ味だったりする。

「ねぇムッチーなんだか今日のムッチー変!」

「え、そんなにも変かな?」

ムッチーはチョコバニラミックスの、アイスクリームを舐めながら答える。

「なんだかムッチー突然、

すごくセンスが良くなった感じがするんだもん。

ちょっと置いてかれた感じ。」

「え、そうかなぁ?」

「あと、今日は誰かと話してる感じだった。」


「・・・はは、えっとね。

・・・」

「?」

「・・・うまく説明できない。から何も言えないや・・・」

「何々?うまく説明できないことって?」

「いや本当に説明することが大変なんだけど、

センスが良くなったのも誰かとしゃべってるのも

実は私の秘密の友達のおかげだったりするんだ。」

「へぇームッチー新しい友達出来たんだ。」

「だけどね。その友達はね。

家族までの帰り道がわからないから、

今探してあげてるんだ。」

「ねぇねぇその友達私にも紹介してよ。」

「ニッちゃんには教えてあげてもいいかな?」

誰なんだろう?と気にかけていると


「おっと、財布ちゃんじゃないか~

こんなところで何してんだよ~さ・い・ふちゃん~」

突如現れたいかにも不良っぽい少年がムッチーに呼びかける。

っていうかこいつには私は見覚えがあった。

確か、ムッチーのお父さんの会社の上司の息子で、

ムッチーと同じクラスの不良だったはず

自意識過剰かもしれないけどなんだか、

女子を見る目が下劣で嫌い。


「なぁ財布ちゃん。俺今、ピンチなんだよ~

前みたいに金くれよ。

なぁ?」

「・・・」


ムッチーはびくびくしながら、財布に手を伸ばしかける。

その手を、私はとっさに掴む。

「ムッチー・・・やめたほうがいいと思う。」

「でも」

明らかにムッチーは恐怖がある表情をしていた。

「こんな奴の言うことを聞く必要はない。」



「ぁん?んだ!?てめぇ!!俺は財布ちゃんに話しかけてるわけ。

お前なんてどうでもいいんだよ!!およびじゃないわけ!!」


・・・


「うせろ」

「あ!?」

「うせろって言ってんの。聞こえない?

ムッチーは私の友達だ。

それ以上汚い手でムッチーに触れようものなら・・・」

ダメだ。穏便に済ませなきゃ。怒りをこらえつつ、

ちゃんと追い返さないと・・・。


「だったらどうだってんだよ!

こいつの立場知ってるわけ?

親も俺には頭が上がらねぇんだよ!

こいつの金も俺の金なわけだ!

わかったら黙ってろよこのアマ!」

「そんな理屈通らないですけど?」

「残念だが、立場もわきまえない奴が負けるのが

この社会だ!!わかったら黙って従えってんだよッ!」


「!!!!」

私は次の言葉をかける前に体が動いていた。

つまりはいつの間にかソライさんの時と比じゃないくらい全力で殴っていた。


鬼の本来の力で。

前提として鬼という種族は力が強い。

具体的には、女子で高校生の私でさえ普段から鍛えてるサイムさんと

腕相撲してかなりいい勝負をするくらいには力が強い。


それを全力で『やってしまった。』のだった。


「あ」

気づいた時にはもう遅かった。

「いってええええええええ!!

骨折れた!!覚えとけよ財布!!!

お、おとうさああああああああああん!!!」


「・・・」


最悪


不良は逃げ出しどこかへと行ってしまった。

やってしまった・・・。どうしよう・・・。


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

「・・・ごめん、ムッチー・・・やってしまった。」

「ううん、ニッちゃんのせいじゃないよ。もともとあいつに言い返せない、

私と私の家族が悪いんだし」

「でも、でも私のせいでムッチーが、大変目に会っちゃうんじゃ・・・」

「・・・そうかもしれない。

でもニッちゃんが私をかばってくれたことは

正直うれしかった。」


私たちはお昼にしようってことになって、喫茶店に入った。

私はさっきうかつな行動をしてしまった。

親友を馬鹿にされたのが、

彼女が言いなりにされ続けられているのを見るのがどうしても・・・


我慢ならなかった。


本来、いくらでも対処する選択肢があったのに自分の弱さで

私は暴力という間違いを犯してしまったんだ。


「ニッちゃん。本当に思い詰めなくていいから。

私、多分、あなたがそうしてくれなかったら、

きっともっとみっともないことになっていたと思う。

私にとってあなたは何も悪くないわ。

ありがとう・・・。」


・・・

ムッチーは半べそをかきながら、ちょっと不安そうな笑顔を私に向ける。

私のせいで・・・ムッチーと、ムッチーの家族が困ったことになってしまう。

こんな軽率な行動をしたせいで・・・


私はそう思っていたのに


私の親友は

やさしい。

ムッチーは優しい。


でもその優しさがちょっと痛い・・・。


私は我慢ができない『弱さ』がある。

私は人を殴ってしまう『弱さ』がある。

私は人を傷つけて後悔をする『弱さ』がある。

私は親友にこんなことを言わしてしまう『弱さ』がある。


『弱さ』に縋り付いて、なんてひどくて

情けないんだろう。私は・・・。


「ねぇニッちゃん。あんまり思いつめないで、私が悪いんだし。」


答えなきゃ・・・私が傷ついて、ムッチーが傷つくわけにはいかないんだ。

少しでもムッチーの負担を減らさなきゃ・・・。


「ううん、ムッチーは悪くない!

本当は誰も悪くなんてないんだよ!

罪を憎んで人を憎まずっていう言葉があるでしょ。

あの人の傲慢さという罪が悪い。

きっとあの人も本当は悪い人じゃないんだと思うよ。

でも、手を出しちゃった私の、せっかちさも悪いから。

本当にムッチーは何も悪くないんだよ。

だから、安心して、サイムさん達は

こういう面倒ごとには、めっぽう強い人達だから

その人達にお願いしてムッチーや、

ムッチーの家族には手を出させないようにするから!

だから安心して!ね!」


何言ってんだろう私・・・。

その場しのぎも、いいことのいいわけだ。

でも、ムッチーを安心させるために

これ以上今の私は言葉が出てこない・・・。


きっと現実は甘くないしこの言葉通りにいくなんて夢物語だろう。

嘘は言ってない。だがはっきりに言ってしまえば、かなり望み薄だ。


サイムさんやソライさんは、面倒ごとには強いが、

極力首を突っ込まない主義の人たちだからだ。

特にソライさんは説得に骨が折れる。

サイムさんは、私の頼みとあれば聞いてくれそうだけど

ソライさんは、なかなか聞いてくれない。

説得しようとすればそれこそ、ワクワクすることや、

サイムさんたちの心の琴線に触れるようなことじゃないといけない。

だがあの二人を説得さえすれば、ムッチーを救うことができる。


他力本願な自分が情けない。

それが悔しくてたまらない。いつだって自分はそうだ。

あの二人を頼っていなくっちゃ、何もできない。


そんな自分が情けなくって悔しくってたまらない。



そんな自分の情けなさを押し殺すために必死に握りこぶしをしてこらえる。


「ありがとうニッちゃん。」


ああ、ムッチーのこの笑顔がますます自分の心に突き刺さる。

貴女のその優しさが、まぶしくて、温かくって、強く


自分の情けなさに鋭く刺さって『痛い』・・・。



・・・いつか、この後悔をこの親友のために役に立てよう。

この子の隣にいてこの子の暖かさへ、ちゃんと答えてあげたい。



そんなことを思っているとニッちゃんが少しそわそわして

「実はねニッちゃん。もう一つ相談したいことがあるの。」

「何?この機会だから言ってみて」


ムッチーは小声で

「実はね、最近私見られている気がするの。

なんだか家にいてもどこにいても視線を感じるっていうか・・・」

「え、それってストーカーじゃん。警察には言った?」

「うん。でも軽く、受け流されちゃった。」

「そっか・・・今日は家まで一緒にいてあげる。」

「じゃあ、お言葉に甘えて・・・」

「うん!」

「じゃあこの後も少し散策しよう。もう少し一緒にいたいし、

私をニッちゃんが守ってくれるって信じているから!」


気を使っているのかな・・・。ありがたく受け止めよう・・・。

「わかった!任せておいて!

その依頼、私が引き受けるわ。」

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私たちは喫茶店でナポリタンスパゲッティーを食べ、次の目的地を話し合った結果。

CDショップとゲームセンターをまわることになった。


ここ第8商店街から少し距離のある位置にお店があるので、

暑いし電車で、行こうかなと思っていたけど、

ムッチーから意外な提案をされる。


「ムッチー、どうする?やっぱり電車で行く?一駅だし。」

「ふふふ。ニッちゃん!これを見て!」

「あ、エアーボードの免許!」

ムッチーは自信満々に免許書を掲げる。

「最近、私も取ったんだ!講習も1週間程度だったし!

ニッちゃんが取ったって聞いて私も欲しくなっちゃったので!」

「おお~~!じゃあ当然?」

「エアーボードのギアはこちらにあるのです!」

ムッチーはボードギアを掲げる。

「じゃあこの前のガジェット免許と併用して、

ボード乗れるじゃん!早速行こうよ!」

「うん!」


「「ガジェットギア・セット!」」


【移-board-】


手のひらサイズのガジェットのくぼみに

ギアが差し込まれ、車輪のないボードへ変化する。


このボードの後ろには原付と同じタイプのナンバープレートが背面にあり

大きさは縦にすると私の膝と腰の中間あたりかな?結構大きい。

大体、よほどの速度を出さなければバッテリーが種類にもよるが2~4時間程度持つ

5mくらいの高さなら飛べて滞空時間もままある。

大体、普通に使用すると法定速度30km/hと原付と同じ。

だけど、最高速度は原付よりやや上の70km/h。

基本的にヘルメット着用が法律上の義務。

だけど「今さっきスリの被害にあった」とか、「雪で受験に遅刻」とか、

「仕事で忙しくて子供が生まれる瞬間に立ち会えない」とかの

緊急時の場合は温情で注意勧告で済む。

サイムさんたちは理由をこじつけてかぶりたがらないけど。

(まぁ免停直前って言ってたっけ?)


レースとかに出ているプロのボード乗りになると、公道での使用不可だけど

速さ特化のフォーミュラーボードとか

空中特化のスカイボードとかいろんな種類がある。

これを思い出すとサイムさん達、

『男の子』は目を輝かして週刊誌を購読しているのを思い出す。


「さてと・・・ヘルメット・・・

・・・ん?」

私はヘルメットを探していたら奇妙なものを発見する。

「どうしたのニッちゃん?」

「これ・・・サイムさんのボードギアだ。

そういえば預かっていたんだ。」


いつの依頼だったか、

適当にボードギアを「これ持っていてくれ。」って押し付けられて、

そのまま返しそびれていたんだ。

今度返そう。


「あ、ヘルメットあった。おまたせ!行こう!」

「うん!」


そのままボードに乗り暑い街並みを駆け抜ける。

基本的に町にある空中回廊とか狭い路地には信号機がほぼないから

それを渡っていく。


空中回廊は主に2~4段構成になっており、

徒歩では割と坂がきつい場所もある。

こういう時このボードのありがたみがある。


「ムッチー!見てみて!」

「?」

私はムッチー以外に人がいないことを確認すると

ムッチーの前でボードを強く踏み、反動でジャンプをし

簡単なバク転のトリックを決めて見せる。

こういうちょっとした技術が楽しい。

ちなみに急いでいるときにこれをやるとややスピードが上がる。


「すごーい!!」

「えへへ。」

ほめられてうれしい。


「ムッチー!講習でレール渡り習った?」

「うん!教えてもらった!」

「あっちのパイプを使って向こう岸まで行くよー!」

「わかった!」


レール渡りというのはこの町での基礎テクニックだ。

スケボーで言うところのグラインドというテクニックがこれに該当する。

ただ庶民的にグラインドじゃあ伝わらないのでレール渡りとみんな言う。

この町には電線やパイプ、その他何のために使うかわからないワイヤーが

無差別に混在している。

ボードを横にしてそれらを渡るのがレール渡りだ。

これをすることにより移動に幅を持たせることができるので、

講習所でも確か必須科目だったはず。

まぁ危ない場所はレール渡り禁止の標識がちゃんと立っているので

見逃さなければ基本問題ない。


「ニッちゃん?できてる?」

「大丈夫!」

青葉マークのムッチーのためにゆっくりいかなきゃ。

最近、サイムさん達に影響されてか運転が雑になっているし・・・。

さっきのトリックだってあの人たちに仕組まれたものだし・・・。


そんなこんなでショーワ町とその隣町タイショー町に

町境までやってくる。

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さてと、CDショップについた。

CDショップにはいろんなCDが並んでおり、

最近有名なタレントや歌手のCDなどが並んでいる。


「あ、ニッちゃん!これ、最近のオリコン乗ってたやつだよ。」

「あ、本当だ。」


スキンケア斎藤『レッツ!ボでぃーソープ!』

帯には『あなたのロックにボディィィーソォープを!!』

うん、何度見ても名前がダサい。なぜこれがオリコンに乗ってるんだろう?

子供っぽい曲名だけど。

歌番組で聞いてみたけど子供向けの曲じゃあなかった。

普通にロック・・・。あと衣装もややダサかった。

私的に絶妙にジャケットと名前がダサいのに買う人がいるって・・・。


ちらっと隣を見る。

・・・ムッチー、ジャケット見てかっこいいとか思ってそう。

「ねぇ?これどう思う?

・・・え~それはないよ~。いいじゃん。

あ、音楽はわからないんだ。」

そういう独り言はいろいろと不安になる。


他にも何かないか物色する。

適当なCDを手に取る

グループ冬の大三角形『夏の大三角形』

帯には『冬と夏が合わさり最強に見える。』

ジャケットには、秋と書かれた文字をバックに

大きな桜色の三角形と桜の木が写っている。


なんだかこのバンド矛盾しているなぁ・・・。

結局夏なのか秋なのか冬なのか春なのかはっきりしてほしい。

どれなのかわからないから買ってみようかな・・・。


次のCDは・・・

はっぴーバルサ巫女ス『甘さときめき☆はっぴーすぺくたる!神社えーる!』

帯には『甘々な巫女さん生活が始まる!』

ジャケットには、露出度の高い巫女服のイラストが描かれている。


アニソンかな?本物の巫女として言いたい。

そんなに甘くないと。


次のCDは・・・

当血象了『トーケツゾウリョーのお食事ソング』

帯には『とーけつ♪とーけつ♪もりもり食べ食べ!ゴックンチョ!』

ジャケットには、おじさんがナイフとフォークをもって独特なポーズをしている。


あ、この人フードファイターで美食家の人だ。

テレビで見たことある。CD出してたんだ。

そういえば番組中に流れてる独特なイントネーションの歌ってこれかな?

小学生の時はやった音楽のCDをみつけてちょっと『フフッ』てなる。

たまにこういう意外な発見があるからこの店には通ってる。



少しして・・・


私たちは店を出る。

結局、買ってしまった。

夏なのか秋なのか冬なのか春なのか、

はっきりしないCD・・・特売だったし。


家に帰ったら聞いてみよ。

ムッチーもさっきのCDを買ってしまったらしい。



店同士が近いので

私たちは駄弁りながらゲームセンターに到着する。


ちなみに私はRPGとか得意だけど、音ゲーとかアクションゲームとかは苦手だ。

だからゲームセンターに向かう時は友達としか行かない。お金もないし。

ムッチーは割とどのゲームも得意な方だけどね。


「ニッちゃん!この台!すぐ取れるよ!」

ムッチーに指示を出してもらって、景品おかしを手に入れる。

こういう風にUFOキャッチャーとかの

アームの強度を覚えてるくらい得意だ。


「すごーい。」

「すごいでしょー。ここ行きつけなんだー。結構、取りやすくて助かるよー。」


だから店員さんが、さっきからすごいまなざしでこっちをにらんでるんだね。

出禁直前て感じでひそひそ話し合ってる。

ソライさんと買い物に行くといつも見る光景なので慣れているけど、

ムッチーなにしたんだろ・・・。


「さてと・・・次は・・・」

私たちが散策していると。

「ん?ムッチーあれ。」

「ん?あ・・・。」

見慣れた顔が両替機の前にいた。

私たちが気が付くとその人物も気づく。

「あ・・・。」

「や、やぁ吉田君。久しぶり今日は休暇?」

「あ、久しぶり・・・睦月さん、草島さん。」

私たち・・・正確には私と出くわすと

この人は目が引きつり若干居心地悪そうに返事をする。


この人は吉田君、私たちと同じ学校に通っている、

同級生で、クラスは今は違うけど、

何度か同じクラスになった経験がある。

服装がジャージのアナウサギの獣人で素早くて小回りが利く、

体育での成績は確か結構上位だけど、

休み時間とかは一人でいることが多い。


「そちらも休暇のよう・・・でありますね。」

この「あります調」は吉田君の職業病だ。

私もある意味「ですます調」は同じような職業病だったりする。

どちらもまわりに年上が多いからだ。

だからか互いに学校関係者に合うとまぁまぁ外れる。

「お互い様だよ。」

はっきり言って、この人とはいろいろと馬が合わない。会うたびに若干険悪だ。

この人は、私の通っている武山冒険社とバチバチにやりあっている

冒険職のライバル会社『万歳ストーム』に所属しており、肩書も同じアルバイト。


特徴として私は自他ともに認めるほど

割と運がいいほうで特に特別な鍛錬をせず日常を謳歌しつつ、

それなりに一人一人の能力が強い武山冒険社の二人にフォローして活躍で来ていて。


この人は不憫で不運な状況になぜか陥りやすく、

それを努力と訓練の力、そして

統率能力とチームワークが強い、万歳ストームの連携でカバーし活躍している。


私は緩やかにやって、あっちはストイック

対照的で、同じ職業でライバル同士。

お互いにそれなりに結果を出している。

こういう休日に出くわすのは

正直、互いにあまりいい居心地じゃない。


「まぁここでやりあうほど、吉田君はほかの万歳の人たちみたいに

単身突っ込んだり、突っかかったりする馬鹿じゃあないでしょ?」


あ・・・まず・・・言ってから気づいた・・・。


「・・・まるでわが社の大隊長をコケにした発言でありますね。

確かに馬鹿じゃあないよ。大隊長も

少なくともどこぞの最底辺のZ級冒険社よりかは

うまく立ち回ってるよ。」


売り言葉に買い言葉をしてしまった。

なんだか、この人とはついついこういう風に煽りあってしまう。

多分無意識的に互いが対照的でどこか気に食わないんだ。


「・・・それは私たちのことかな?」

「・・・さぁ?なんなら、大隊長たちみたいに

軽い勝負でもするのかい?

草島さんは先ほどああいったで あ り ま す が!

『会社とは関係なく』純粋に。」


すぐに手が出る。っていう

さっきまでああいう悩みをしていたけど、

この人に関しては例外・・・

敵というよりかはライバル、

実力を認めているからこそ負けたくないし。

馬鹿にされたくもない。

それは互いの会社のためであり、慕っている人がいるっていう共通点があるからこそ

お互いが

多分相手もそう。




「ふ、二人とも・・・」




ムッチーが心配そうだが、互いに決着をつけたいと思っている。


「ムッチー。」

「睦月さん。」

「「審判をお願い」するであります。」


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

パンチングマシンだと私に有利

射撃ゲームだとミリオタサバゲーマーのの吉田君に有利


ということなのでここは公平に、ムッチーが決めた。

レースゲームで勝負することになった。

相手に不正が行われないようにムッチーが後ろから審判として観戦することになった。


私たちは筐体に乗り込む。


私たちが取り決めの話しをしてると後ろには結構なギャラリーができていた。

ギャラリーからひそひそ声で、

「あれ、ショーワ町の・・・」

「万歳の小僧、『デモリッション・バニー』の吉田じゃん。」

「あっちは草島の巫女さんじゃん。確か、サイムのところでバイトしてる。」

「巻き込まれたんだろう。だが、サイムが巻き込むに値した子だしな。」

「アイテムの運否天賦が結構絡んでくるレースゲーだよな・・・」

「吉田が危ういか・・・。」

「いや、単純な実力なら吉田優勢で巫女さんが負ける。」

等と話し合ってる。


このゲームはサーキットを2週した人の勝ち。

道中のアイテムは速度上昇、旋回性能上昇、車体微回復、

相手旋回ダウン、相手速度ダウンの5つだけ。

配置、個数は完全ランダム、アイテムはニ個ストックできるけど、

めったなことでは出現しない。

NPC(コンピューター)はいない。二人だけの勝負。


「いくぞ!」

「ええ、負けませんよ!」

信号が点滅し始める、

ハンドルを握り、アクセルを踏みだす。


『START!!』


同時に飛び出す二つのマシン!

騒ぎ出すギャラリー

「スタートダッシュは同時だ!」

「いや、草島のお嬢ちゃんが若干優勢!」

「筐体ごとのペダルの調節の差か!」


運がいい!このペダル踏み込みやすい!

さて、アイテムは・・・車体微回復?まぁとりあえずとっておこう。


「このサーキットは4つのコーナーでできている。」

「どうした急に。」

「第1コーナーは下り坂、やや大回り。ここで若干の差が出る実力の勝負

第2、3コーナーのきつい死のヘアピンカーブ。

そのあとに第4コーナーののぼり坂のカーブ。マシン性能の差がよく出る。

その後は下りの直線。

問題点は第2、3カーブだ。このゲームは車体のダメージが一定になると

車体がぶっ壊れてしまう。

仮にカーブ前のアイテムで、速度上昇アイテムが出た場合

ヘアピンカーブを曲がり切れずに勢いよくガードレールに突っ込み、

その時点で廃車になり相手が勝ち確定になり敗者にもなる。」

「つまりアイテムを取らない選択肢もあるということだな。」

「そういうこと。そういってる間に、

見ろ、第1コーナーで吉田がトップになってる。」


くっ差が開いた!厳しいなぁ・・・

「まだまだでありますよ!!」

次でヘアピンカーブ・・・ここだ!!



「見ろ!!草島の譲ちゃんが、ドリフトで吉田の車体後方にぶつけながら

車を強引にねじ込んでるぞ!」

「ありゃ相当、うざいだろうな・・・」


「ぐぉ・・・やめろであります!」

「どうですか!?吉田君!」

次で第3カーブ!

「なら!」


「な!!?」

まずい!!吉田君が減速した!!?あとこれ!!


「うわッ!吉田のやつ、カーブ中、相手が自分の車体を後方で

一方的にぶつけている最中にブレーキとハンドルさばきで、

そしてこのカーブで一番いらない速度上昇で

車体を廻して今度はこっちから旋回で殴りこむようにぶつけやがった!!」

「譲ちゃんのバンパーがエグイへこみ方に!!」

「何ちゅう危険なプレイング・・・。」


いきなりでびっくりしちゃった。

車体微回復が無かったら危なかった!


それに私と吉田君も気づいている。

このゲーム、おそらく確実に勝つには

KO勝ちが最適解!


第4カーブで差が縮まらない。

私の車体は旋回を重視した。加速だと追いつかない!

対して吉田君の車は加速を重視しやや旋回性能にかける。

速度ダウンを使っても性能差がピーキーという吉田君の性格を表している車だ・・・。

取得アイテムは速度上昇

2週目の第2カーブで仕掛ける!


「直線でも縮まらないか・・・」

「2週目入るぞ!」


2週目第1カーブ

「仕掛けてくるでありますね!草島さん!」

「ええ!」

「だがそうはいかないであります!!」

「な!」


吉田君がアイテムを使う!!


「吉田のアイテム!速度上昇!」

「あいつまたかよ!」

「第1カーブは緩やかなカーブだ!

ガードレールにぶつけないと踏んでここで逃げ切る気だ!!」

「それだけじゃない!!見ろ!!」

「このタイミングでアイテムが出現!?吉田の奴が!?」

「しかも速度ダウンだぞ!!」


仕掛けるタイミングが吉田君のほうが早い!!

まずい!!一手遅れた!!

「勝負あったであります!!草島さん!!」



これはゲーム・・・アイテムありきの大衆アーケードゲーム。

実力も重要だけど、運という名の忖度をしていたら?


プレイヤーを圧勝させるのではなく平等に見せかけたいいゲームをさせなければ

玄人しかお金を出してくれなくて新規プレイヤーが参入せず

ゲーム会社は困るはず・・・ではないのかな?


もし、吉田君にアイテムが現れたなら・・・私だって!!


「お、草島の巫女さんも来たぞ!!」

来た!!

手に入れたばかりのほうのアイテムを使用!!


そして私はやっぱり運がいいと確信する。


こうなったらこれで逆転できる!!


「「「「!!?」」」」

「このゲームで!!?」

「スピン!!!??」


来たアイテムは旋回上昇!

速度上昇をあえて使わずこのタイミングで

残っているうちにこれをしたかった!!


だけど画面すごい揺れる!!ちょっと気持ち悪い・・・!

車がぐちゃぐちゃになってもいい!!




「ガードレールに落ちるぞ!!」


ガコンッ!!とガードレールぶつけて奥へ落下する!

「ゲームオーバーでありますね。」

第2カーブに差し掛かった吉田君が言う。




「いえ、これでいいんです!」

「!?」


「見ろ!この場所は!」

「あ」




「第3カーブの始め!!」

ずっと考えていた。

この第1カーブ実は下り坂になっている。

その突き当りに『ヘアピンカーブ』がある。

じゃあ第1カーブの下のどこかには

第3カーブがあっても不自然じゃないと、レース画面を見た時に思った。

あとは走りながら考え計測しつつ、あとはガードレールをスピンの遠心力で

ゲームオーバーラインを飛び出せるようにする!




サイムさんソライさん直伝の『まともな解決方をしない戦い方』

これはそういうバグのショートカット。

吉田君の努力を悪知恵で追い越す方法。


「そんなのありでありますか!!?」


あとは第3カーブを逆走して!!

第2カーブにいる吉田君を速度上昇で第2カーブの下


レース外へ!!


叩き落す!!

「くらええええええええ!!」


・・・



数刻後ムッチーが口を開く





「・・・決着は


・・・勝者『吉田君』」


「・・・ふぅーーー。万歳!」

「・・・。」

ガードレールにぶつけた時、私の車体の耐久値が

すでに限界ギリギリだと気が付かなかった。

吉田君の車にぶつけた時に先に私の車が壊れた。


現実なんてこんなものかもね。

「・・・草島さん。」

「負けた。負けました。」


悔しい・・・。また気を抜いたせいで・・・。

私、弱くて情けない・・・なぁ・・・。


「・・・ナイスファイトでありました!敵ながら称賛するであります!

あと少しで負けていたであります。これは決して気休めじゃあないであります!

万歳と誇っていいでありますよ!」

・・・

「・・・ありがとう。吉田君、またこうやって遊びましょう。」

「了解!」


私達が握手をしているとぼそっとムッチーが

「だねー・・・友情って美しい光景だね。『カイちゃん』。」

とつぶやいた気がした。


私たちはゲームセンターを出る。


「おーーーい!吉田!帰るぞ!」

そうゲームセンターの出入り口から出たばかりの吉田君によく通る声で、

軍服の集団が叫ぶ。

「大隊長が呼んでいるであります。それではこの辺で!

また会おう!で、あります!」

「ええ、それじゃあね!」

「バイバイ!」


「吉田、休暇もいいもんだろ?」

「ええ、楽しかったであります!」

「次の依頼が決まったぞ!結構数があるからな!風はこっちに吹いている!」

「やれやれまだこの老体、休めんのう。ビシバシ行くからなァ・・・。」

「まぁ任せろ。今回も決めてやるよ。ワア、号令を。」

「トツゲキー!」


「「「「「「ばんざああああああああああーい!」」」」」」



万歳ストームが楽しそうに帰っていく。

「私たちも帰ろうか!」

「そうだね。」

私の提案にムッチーは心地のいい返事をする。

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