第2話_転『パープルメルト:ネゴシエイター』

あのパープルメルトを刈ってから歩く、

行く道中のパープルメルトを文字通り根こそぎ、

ただひたすらに刈り取っていく。

慣れてきたのか、バンバン刈り取っていくが結構この植物の量が多い。雑草かよ。


「ふぅ~これで50本ってところかな?もうだいぶ刈るのもうまくなったでしょ~」

「油断しないでください。一応、命がけなことには変わりありませんからね。」

どうやら、ニッちゃんは昨日のメイジダンジョンの一件で

だいぶこういうことに警戒しているな。

なんかうれしいな。

「そうだな慎重にいこう。」

「あ、そういえばこんなジャングルの中で、帰り道ってどうするんですか?」



ニッちゃんが素朴な疑問を口にする。


「ああ、それなら心配ない。っていうかニッちゃん気づいていなかったのか?

ソライが刀で木の幹を傷つけて、帰り道の目印をつけていることに。」

「ほら、さっきからこういう風にね」


ザクっと

そうやってソライは見事な居合で木に印を掘る。

ソライは特にもスタートかの戦闘とかだと足の速さから

初手を担うことが多く、敵に居合抜きを仕掛けることもままある。

切り口がややいびつになっていて、切り口が大きく深いほうが俺らの町の方向だ。

こういういびつな形に絶妙な切れ筋を入れられる程度に刀を扱わせたらソライは強い。


「おお~お見事です。」

「どんなもんだい!もっと褒めて褒めて~」

「こら、あまり調子に乗らない!」

「はーい。」


ソライの目印は一定の感覚で町へと続いている。

俺は今までたどってきた目印が気になり来た方向を見てみる。

だが、さっきまでいたとは思えないくらい、木々の影が濃く

根っこが絨毯のように敷かれていた。


「にしてもだいぶ、うっそうとしてきたな・・・ここら辺ってこんな感じだったっけ?」

「いや、こんなジャングルじゃなくて、もうちょっと森らしい森だった気がする。」



ズズズッズズズズズッ

妙な音が聞こえたと同時に


「ん?」


俺はあることに気づく、



「あれ?ソライがさっき気づつけた傷、そんな位置だったけ?」

「え?」


よく見てみると木の幹にあった傷は、腰のあたりだったのに

肩のあたりまで上にある。


「確かに妙ですね。」

「あれ?おかしいな?」

「なんでさっきまで腰のあたりだったものが肩に・・・」


昇っていると言おうとしたとき


ここで俺はあることを思い出す。

そうさっきのパープルメルトだ。

さっき俺を襲ったパープルメルトは突然生えてきた。


そして移動する傷。


うっそうとしていくジャングル・・・。


まさかな。


まさかそんなことが、本当に起こっているというのか?


「二人とも、落ち着いて聞いてくれ・・・」

「ん?どったん?」

「たぶんだが、この森『成長している』。」

「え」

「いいか、さっき付けた傷が上に行っているってことは、

それは木が上へ伸びていっているからだ。

そしてさっき俺を襲ったパープルメルト、

たぶんだが現れたんじゃなく、

『最初からそこにあった種が成長した』んだと思う。

それにさっきから聞こえるこのズズズズっていう音、

たぶんこれ下に生えている根っこが

土をかき分けて成長している音なんだと思う。」

正直馬鹿馬鹿しい話だ。植物がそんな速度で育つのなんて聞いたことない。


「な、なるほどぉ・・・。ってそれやばいじゃないですか!

いくら刈っても刈っても、常に成長していく植物を相手するとか

キリがないじゃないですか。」

「そのとおりだニッちゃん。

実際状況的にここまで植物がうっそうとなると、こう考えればつじつまが合う。

違うかもしれない、でも仮説だがこう考えたくなる。」


「植物でさえ、成長していくのにニッちゃんの胸と背は成長しないんだな。」

「うるさい!」

「あふんッ!」

ソライがぶん殴られる!まぁセクハラだし。

「今はそれどころじゃないでしょう!」

ニッちゃんは顔を真っ赤にしながら言う。

「いや、ほんのジョークジョーク。ごめんね。それでどうするよサイム。」

「ここで諦めたくはない。ちょっと危険だが、このまま進むことを俺は提案する。

理由は二つ、一つは解決しなかったら、どっちみち他社に利益は取られる。

金がなくて、大変舐めに合うのは俺たちだ。

二つ目にここでこれを食い止めなくっちゃ何も知らずに

森に入った人の人命が危険にさらされることは容易につく。

ここで俺ら冒険職がやれるだけ対処しないと。」


「たしかにせっかく5万円もして引き受けた依頼だし、

僕もあんまり引き下がりたくない。

それにここは僕らのショーワ町の近くだ。

下手にほっとくと、こちらまで植物が押し寄せてくるだろうし。」

「私も同感です。街が森に飲まれてパープルメルトに、

人が食べられるところなんて見たくありません。」

「よし満場一致だな。じゃあ、こうなっている原因を突き止めるべく動こうか。

木がよりうっそうとなっているほうへ進めば原因がわかると思う。」

そうやって俺たちはより森の奥へと進みだす。


パープルメルトを刈りつつ、森を歩いていく。そんな道中で

ガサっっという草木をかき分ける音がした。

植物かもしれないが一番考えられるのはモンスター、

植物が生い茂っているということは生態系のバランス的に

草食獣やそれすら喰らう肉食獣も繁殖した群れを守るために

狩りをしている可能性だってある。

俺は声を潜めてソライに呼びかける。


「ソライ、ニッちゃん、モンスターかもしれない。気をつけろ。」

「りょーかい。」

全員で腰をかがめ、ガサガサという音がしているほうを、ゆっくりと見る。

「ん?あれは・・・」


そこにいたのは昨日見た水色の長髪に、

いけ好かない仮面をつけたセーラ服のロボットだった。

「なんで、あんなところにいるんでしょうね?」

「さぁ・・・ただ見つかると

また戦闘になりそうだから、見つからないようにな」

「あれが昨日、お前らを襲ったっていうロボットか。」

そういいつつ俺たちは草木を盾にして身を潜め少し近づいて様子を見る。

「・・・歯車『成長することについて考えるもの』反応あり。」


なんだ?さっき『成長するもの』つったか?

つまりだ、あいつと俺らが捜しているものは一緒なんじゃないか?

「おい、もしかしたらあいつについていけば、

この成長していく森の原因がわかるかもしれないぞ。」

「確かにさっき、成長する何とかって言ってたな。」

「行くぞ。」


俺たちはロボットに気づかれないように尾行をはじめる。

ロボットは、この悪路を難なくと渡っていく。

俺たちは何とかロボットに気づかれないように速足で進む。


「なぁサイム、再確認したいことがある。

あのロボットのスペックを教えてくれ。」

「あのロボットのスペックか。

まずはロケットパンチですべてをなぎ倒していく、

ロケットパンチは案外よけられるがスピードと破壊力は抜群だ。

そして腕と手はワイヤーでつながっている。

ワイヤーは腕の内部にリールでもついているのか、手が壁をつかんで固定されていたりすると

自分自身の体ごと巻き上げられることができる

次に斧ですべてを切り倒すくらいには力が強い。

以上だ。あと昨日の今日で足のけがが

治っているとは思えない。弱点は足の遅さだ。」

「なるほど、おk把握。」

情報を共有せずに死ぬ冒険職はよくある話だ。

いざっていう時に情報を共有しておけば誰かが戦闘不能になっても

残りが考えて行動できる。だから俺らはいざってときのために確認しておく。


ロボットの進行方向の森は一段とその緑と木々の成長が濃くなっていく。

俺たちは尾行を続けて、そして・・・

行きついたのは開けた場所だった。


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

そこには・・・

「おいおい、なんだこりゃ!?」

そこにいたのは深く絡み合う

大量のパープルメルトと超巨大な一本の大樹だった。

大樹の周りにはアリ一匹でさえ通れないような木々が生い茂り、その周りにパープルメルト

それらでぐるっと取り囲むような形で、

小さな学校のグラウンドくらいの大きさの円形の広場ができてた。

ただここは不思議と広場には気は生えておらず、太陽の光を久々に見た。

そして付け加えると大樹の下にはこの自然の中に不自然な紫色に輝く祠があった。


「そこにいるんでしょ?昨日の人たち」

ロボットが、振り返り俺たちのほうを見て問いかける。


「・・・ばれてーら。」

俺たちは警戒してたロボットの前に出る。


「なんであなたたちが、生きてるのかは聞かない。

たぶんだけど、アルゴニックの封印を解除して

願ったからだと推測。」

「さぁ?どうでしょうかねぇ?」

「まぁそんなことはどうでもいい。また僕の邪魔をしに来たわけ?」

「それはお前がここで何をやってるかによる」


「僕はただ、『超越の歯車』を求めにここにやってきた。」

「あのーそれはいったい何ですか?」

「答える義務はない。」

「なんだよ!てめぇ!相変わらずいけ好かないな!」

「サイムちょっと落ち着いて・・・こういう交渉の場は僕の出番だ。」

「お前は?あいつらの仲間か?」

「僕はソライ、応木空井だ。こいつの友達だ。

サイムが失礼したね。君にちょっと質問があるんだけどいいかな?」

「手身近にしろ。」


ソライが俺の一歩前に出る。



「まずは君の名前を聞こう。

できればスリーサイズも言ってくれたりするとうれしいなぁ。」

「あなたは少女型ロボットの名前とスリーサイズを聞く、

変態的な趣味でもあるの?」

「うん、あるよ。

僕はなんだかんだ言っても変態紳士だからね。」

事実だからな。こいつにこういう趣味(せいへき)があるのは。

「気持ち悪い、お兄さんだね。

スリーサイズは教えないけど

名前は教えてあげる。僕の名前は2561、モンブよ。」


でたソライの十八番ドア・イン・ザ・フェイス。

本当は名前が知りたいのにあえてスリーサイズなんて

絶対に教えてくれないものを要求することで、

「じゃあ名前くらいは教えてもいいか」と、

思わせる心理学に基づいたテクニックだ。

ソライがこういう風に名前を聞くその真意は、

相手から名前を喋らせることで

そのあとの情報や、今後の展開を自分の優位に操るためだろう。


「なるほど、モンブちゃんだね。

これからよろしく~でね早速、聞きたいことがあるんだけど。」

「なに?」

「僕たちはある理由で、この森の成長を止めたい。

だがそれの理由がわからないんだ。知ってる?」

「それは超越の歯車が関与している。」


うまいな。さすがソライ、森の成長=超越の歯車とやらが、

関与していることまでは確定したぞ。

情報を確定させることはこの業界において最重要スキルの一つだ。


「それじゃあ超越の歯車っていうのを、僕らが取ってきてあげようか?

そうすれば森の成長も止まるでしょ?目的は一緒なんだからさ~。」

フランクに笑顔(えいぎょうスマイル)を放つ。

「断る。お前らはきっと裏切る。」

「おやおや、僕らが裏切るっていう証拠はないよ。

なんならほら、武器を地面に置いた。」


そういってソライは刀を地面に置く

ソライは後ろで手を組みつつ、へらへらと笑っている。

だがよく手の部分を見ると、

指で何やら合図を俺に向かって送っている。


・・・・はーん。そういう事か。了解した。


「・・・それでもお前らは信用ならない。

なぜならお前らのもとにはアルゴニックがいる。

あれに何を願うのかは知らない、

だがあれに対して超越の歯車を近づけることを私は了承しない。」


「なんなら、僕らの事務所にある

アルゴニックをモンブちゃんにあげるよ。

家はショーワ町にあるよ。

お茶も一緒にしてくれるとうれしいなぁ。」




 「・・・なるほど、そこにあるのか、

ならお前たちをここで殺しても問題はな・・・」


「サイムッ!!!」


ソライがモンブの話の途中で俺に呼びかける。

俺はソライの指示で『あらかじめ用意しておいた槍』を握りしめ

「あいよ!武山流槍術!!奥義ィ!!!」


俺は強く一歩を踏み込み右手の全筋力で槍をモンブに向かって投げ飛ばす。

力いっぱいに投げた槍は衝撃波を放ち、モンブに向かって迫っていく。


「弐合目(ニゴウメ)!高尾(タカオ)!!!」

「ふっそれくらい、よけられないとでも思っ」


ああ、槍は回避できるだろうな。

槍はな!


その瞬間、いつの間にか刀を拾い上げたソライが、


「応木流刀術(オウキリュウトウジュツ) 弐葉(フタバ)!桃(モモ)!」

よけた直後のモンブに高速で接敵し、刀身を見る間もなく

見事な居合の一線を決め込む。

恐ろしいまでの速さのあまり時が止まっているかのように、

モンブが制止し、一緒に切られたと思わしき、ひらりと舞った落ち葉が二つに切れる


「うっしゃ!見たか!僕の居合!」

「ソライさんすごいです!」


だが


「やってくれたな。」


モンブはゆらりと立ち上がる。

だが腕にそこそこ傷を負っており服が破けている。


「なるほど、刀の奴が話をしている間に、

槍の奴が奇襲をかける、だが

槍の奴は囮で刀の奴が本命の攻撃、見事な連携だった。」


「できれば名前を憶えてほしいんだけどなぁ。」

ソライ・・・一応、敵にそういう態度(ロリにかまってほしいかんじに)するな・・・


「少しはやるじゃないか。

『サイム』に『ソライ』。

あなたたちを『敵』と認識します。


だが僕に比べたらまだまだだ。」


そういうと両手をクロスするようにしてギアを2つ持って叫ぶ。


「ガジェットギア!!セットッ!!」


二つの【-斧-アックスギア】を

両腕のくぼみにはめ込む。

そして両腕はだんだんと両手斧へと変わっていく。

仮面も攻撃的な形態へと変貌を遂げ

仮面にガスマスクをつけたような見た目になる。


「さて始ましょうか。」

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