第2話_承『パープルメルト:ゼンマイ目の食獣植物』

こうして夏の日差しに汗水たらす・・・

いや、溶解液との血なまぐさい戦いをし

手に汗握るパープルメルト駆除の依頼が始まった。



ソライの飯を食べて午後、近所にある依頼で指定された森にやってきた。

いや森というよりかはうっそうとしていてもはやジャングルに近い。

木々の影は深く、日の光はまばらだが、蒸し暑く、

湿度が高いせいか、汗なのか、湿気なのかよくわからないくらい水滴が体にまとわりつく

夏の暑さも相まって非常にだるく、道なき道を俺ら三人は進んでいた。


しかし、ここは中学1年生くらいの時に遠足として訪れたなじみの森なんだが・・・

こんなんだったか!?植林でもしたのか!?生態系から違うんじゃねぇの!?って感じ。

ここを進むって・・・今どきの中学生スゲーなー・・・。


まぁ『昔』みたいに危険なモンスターがいないことを俺は祈ってるぞ。


「いや、しかし暑いな。」

「まだ葉っぱが日陰になってくれているから、ましなほうなんじゃない?」

「帰ったらアイス食べましょう。そうしましょう。」

「なぁサイム~パープルメルトって食えんのかな?」

「さぁ?葉っぱの部分は食えるんじゃねぇのか?

明らかに消化液の入った袋のほうは食ったら、胃が溶けると思うが。」

「そうかー残念だ。食費が浮くと思ったのに。」

「でも、パープルメルトって、ぜんまいとかの仲間らしいですし、

案外おいしいかもしれませんよ。」

「よし!ちょっとやるだけやってみますか。天ぷらとか。」

なんていいながらスポーツドリンクでこまめに水分をとりつつ、

俺たちはずんずんと進んでいく。


こういうフィールドワークでの俺達の持ち物は、スポーツドリンク数本

武器ガジェットとギア、地図、コンパス、いざってときの救難信号用のビーコンとのろし、

依頼証明用のGPSも記録してくれるカメラ、充電器、軽食、動物擬態におい付き殺虫スプレーなど

日帰りだから持ち物は少なめだ。

だいたいがニッちゃんのボストンバックに入っており、

荷物持ちをしているニッちゃんは基本欠かせない。


 「ちょっと待って!」

「どうした?ソライ?」

その時ソライの犬の鼻がひくひくと動く

「なんだか右のほうからとても甘ったるいにおいがする。」


ソライは犬の獣人だ。その嗅覚は人の数倍の嗅覚をしている。

真剣な表情でソライが言う


「パープルメルトがあると思われ、ちょっと気をつけろ。」

「わかった。」

「了解です。」



そのまま、右のほうへと進んでいく。

進んだ先にあったのは紫色の袋を持った食獣植物だった。

さすがに近づくと甘い匂いがきつい。


「やはりだ。あれがパープルメルトだ。」

「ニッちゃん。俺の後ろに。」

「わかりました。」


「ソライ、お前のギアなら刈れるな?」

「りょーかい。僕の刀の錆にしてくれよう。」


そういうとソライはチェーンからガジェットを取り外す。

そしてポケットからギアを、はじき飛ばしギアが空中を舞う。

ギアをキャッチし


「ガジェットギア!セット!」


ギアの名前は

【-刀-カタナギア】


そう言うと、ギアをガジェットへ押し込む。

ギアは回りだしガジェットは、どんどんと変形していき鞘と刀へと形を変える。

ソライは刀の塚を握ると意気揚々とした感じでこう言った


「さてと、後ろから回り込めばいいんだったね?」

「その通りだ。行くぞニッちゃん。」

「はい。」


俺たち三人はパープルメルトの後ろへと回り込む。


「いくよ。」

ソライがパープルメルトへ接敵したときに

突然パープルメルトからこんな音が聞こえてきた。


 お”え”ぇッ!!!


「わッ」

ニッちゃんが素っ頓狂な声を上げる。


前を見やるとパープルメルトが、何かを吐き出していた。

それを見ると紫色の消化液を前方へ吐き出した後だった。

地面一面に拡がる紫色の液体が地面を『ジュッ・・・ジュッ・・・』って溶かしている。

正確にはえぐれている。見たら小さなネズミっぽいのが餌だと思ったのか

溶解液の中に突っ込んでいった。


そして骨が浮いていた。


「そうか、パープルメルトは根っこがセンサー代わりだったな。

たぶんだがソライの足音に反応して吐き出したんだろう。」

恐ろしい感知性能だ。これが害獣ならぬ害草がいそう!!


「こえええぇぇぇ・・・」


「ソライさん早く刈っちゃってください!」

「いわれずとも!」

ソライはざっくりとパープルメルトを茎から切る。

「ほい!これでおーしまい!」

「でかしたぞ、ソライ!」

「この調子でどんどん刈っていこう。

実はさっきからずいぶんと甘いにおいがするんだよねぇ」

俺たちは順調に歩き出す、




・・・ズズッ!・・・ズッ・・・


その時、俺の耳に何かよくわからないが妙な音が出てきた。

「二人とも、なんか音しなかった?」

「確かになんか聞こえましたね?」

「どうせ、近くに中型モンスターが這いずり回ってる音だろ、

でかいナメクジとか。」

「そうかな?まぁいいや行こうぜ。」


この時の俺たちはもっと注意深く観察するべきだった。

この森が異常なことに。


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

俺たちは次のパープルメルトを発見した。

それも三つも。

三つは互いが背を向けあっているように、立っているので背後に回り込めない

「さてと・・・どうしたもんか・・・」

「あ、私いいこと思いついちゃいました!サイムさんの槍を地面に打ち付けて

『一度消化液を吐かせてから』ゆっくりと刈り取ればいいんですよ。

たぶんあれ、連射できないはずですし。」

「なるほどな。確かに有りだな。ちょっとやってみるか。」

ガジェットをベルトから取り外しギアをセットする。


「ガジェットギア!セット!」

ガジェットが槍へと変形していく。



「うっしゃ!行くぞ!おらぁ!!」


俺は槍をドンッ!!と地面に打ち付ける。

そして


オ”オ”オ”ヴ”ェ!!!



という音ともに消化袋が大きく膨らみ

紫色の消化液を地面へ吐き出すパープルメルト三つ。

「いよっしゃ・・・で、ここからどうやって、

消化液をよけながらあれを切ればいいんだ?」

「「あ」」

消化液はまんべんなく地面に広がっている。3つから吐き出された結果

もしもあの中をジャンプで突っ切ろうとすれば、

まず間違いなく靴が消滅してしまうだろう。


「すいません、そこまで考えていませんでした!」

「いや、待てよサイム。いい方法があるお前の槍を棒高跳び代わりにして、

あそこを飛び越えればいい。」

「なるほどな。ちょい待ち。ソライ刀ギアを貸してくれ。スピアギアじゃ刈るのはきつい」

「ほい。」


ソライはガジェットからギアを取り外し俺に手渡す。

俺は助走のために後ろへと下がる。


「行くぞ!」


そのままタタっと駆け出す、

そして槍を握りしめ、穂先を地面に突き立て

しなりを利用してジャンプを繰り出す。


「やああああああああああああ!!!」



何とかパープルメルトの生えている陸地へと渡る。


「やったぞ!」

「サイム、刀ギアに変えろ。」

「おお、そうだな。ギアチェンジ!」


スピアギアを一度取り外し刀ギアへと変える

ガジェットは形を変え刀へと変形する。

そして三つのパープルメルトを一気に刈り取る。


「よっしゃ!やったぞお前ら!」


そのまま刀から槍へと変え、

行きと同じ方法で、今度は助走なしで二人のもとへと帰る。


「オーライオーラーイ」

二人が俺を受け止める。


「やったな、サイム!」

「すいません、サイムさん。私のミスです。」

「いやいやそんなことはないよ。

これくらいのスリリングは割と何とかなるから。」

俺はニッちゃんを撫でる。

「ちょ、ちょっとあんまり撫でないでください!角に触れないでください!恥ずかしいですから!」

「別にいいだろ、ソライくらいしか見てねぇんだし」

「お、ニッちゃんは角に触れることが、恥ずかしいんだな!えいえい!」

「触れるなっつってんでしょうが!!!!」

「ヘブチッ!」

「ぎゃふんッ!」


当然のごとくソライとついでに俺は殴られた。


後で知ったのだが、ニッちゃんたち、現代の鬼にとって

『角』とは『奥歯』それも『親知らず』に近い感覚でいるらしい。

お金持ちの鬼とかだったら邪魔になったら角を切り落とすことも普通にするし

定期的にちゃんと磨かないと病気にもなり、非常に難儀らしい。

そういうこともあってか、角をツンツンつく=親知らずをツンツンつくという

認識でいるらしくきわめて理解しがたい行動で、当然非常識であるらしい。

そういうことを森のど真ん中で怒られ叱られた。


なお古い鬼だと畏怖すべき対象とか、信仰すべき象徴とかで、

鬼の間でもあまり話題にすべきことではないことらしい。


プライバシーって・・・大変だね・・・と感じ取った。


「まったくサイムさん達はデリカシーがなさすぎます!」

ニッちゃんはあれから膨れていた。

「すまんすまん!」

「あのですね!角は鬼の乙女の中でも、

かーなり大切なチャームポイントなんですから!」


鬼の乙女の内心は複雑そうだなぁ・・・

まぁ年頃だし仕方がないなぁ・・・




「サイム、こっちから甘いにおいがする!」

歩き続けてもうすでにかなりの時間が経過した。俺達はソライの言う方向へついていく。

「あったたった一つだけだが・・・

まぁたったこれだけだし、ちゃっちゃと刈ってくる。」

「行ってらー」

ソライはパープルメルトの後ろに回り込む。


俺がこうして、ソライと一緒に何かをやりだすとつい昔を思い出してしまう・・・

この森もなんだか懐かしい・・・


「ニッちゃん、ちょっと聞きたいことがあるんだが・・・」

「はい?」

「唐突で済まないとは思うが、

ニッちゃんって『鮫島学園さめじまがくえん』だろ、俺もあそこが母校なんだが・・・

今の鮫学に俺たちの『伝説』ってどのくらい残ってる?」


ニッちゃんは少し考えて

「うーん実は詳細な伝説は残っていないんですよね・・・

ただ昔、すごい数人組の不良たちが、

学園にいたっていうことはわかるんですけどね。」

母校で俺達いろいろとやらかしたのに時代は経つものだな・・・。

「・・・そうか」


『あいつ』ももう過去の人なんだな・・・



「どうしてそんなことを突然聞き出すんですか?」

「いや、なんでもないよ。

ただちょっと聞いてみたかっただけで。」


こういう何気ない質問をしてしまうとちょっと

話の行き先に迷うことがある。

だいたい『何でもない』なんてはぐらかしてはいるが・・・





その時だ。



 

 ズズズッズズズズッ


また妙な音がした。

いったい何だろうか、この音は・・・。


「・・・サイムさんッ!!!危ない!!!」

「へっ?」

突然のごとくドンっと、ニッちゃんが体当たりで

俺を突き飛ばし覆いかぶさるようになる。




次の瞬間



”オ”エ”エ”ェ!!

俺の『真後ろ』にいたパープルメルトから

消化液が吐き出される。


「サ、サイムさん、お怪我はありませんか?ぁ・・・」

って顔が近いな・・・。

なんか妙にニッちゃんの顔赤い気けど、

消化液には当たってないし大丈夫そうでよかった。

「ああ、大丈夫だ。おかげで助かったよ

ありがとうなニッちゃん。」


ニッちゃんはすっと立ち上がり小さい手を差し伸べてぐぐっと俺を引っ張り上げる。


「サイム~こっちは終わったぞー・・・って大丈夫か!?何があった!?」

「いやいつの間にかパープルメルトが・・・」



そう口に出した時点で俺は気づいた。


いつパープルメルトが後ろにいることに気づいた?


ついさっきだ。


ついさっき気づいた。

じゃあなんで俺たちが後ろに『立った時点』で、消化液を吐かなかったんだ?

パープルメルトは足音に反応して消化液を吐く。

これはおかしい気がする。


そもそもパープルメルトは、『いつ』俺の後ろにいたんだ?

普通、後ろにあってもニッちゃんがすぐ気づくだろ。

俺もさすがに後ろにあればわかる。

あの回避行動はさっき気づいた行動だ。

何かがおかしい。



「どうしたんだ?サイム?」

「いや、何かがおかしい。ソライ、さっきあった

パープルメルトのにおいは、この二つだけだったか?」

「いや、さっき僕が刈ったひとつからしか、においはしなかったよ?」

「じゃあ俺を襲ったパープルメルトからは、においがしなかったんだな?」

「うんだから僕はびっくりしてる。いつの間にかパープルメルトが、

僕の知らないうちに『生えてる』だもん。」




生えてる?・・・いや、まさかな・・・


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