第1話_承『危機開会の塔:トラップ』

「まずはここを調査している先行隊の冒険職と出会いたいんだよな。」

こういう先行隊はそんなに多くいない。フットワークが軽い代わりにそんなにお宝とかは持って帰れない

「そうですね。1人くらいはいるはずですし。」

「だが、気を付けたほうがいい。中には宝を独り占めしようとして、

殺しに発展するっていうケースもある。出会った冒険職が善人とは限らないからな。」

「サイムさん、なんでそんな知識知ってるんですか?」


「うちの馬鹿専務から借りたラノベに載ってた。」

「ああ、あの人の趣味っぽいですもんね。」

うちの馬鹿専務は生粋のヲタクだ。正確にはアニヲタらしいのだが、ライトノベルの原作は割と読む

余談だが、ワンルームかつ職場でもある我が家で、

でかいショーケース買ってフィギュアを飾ろうと言い出した時はさすがに反対した。

趣味にどこまでも素直で、それほどもまでにヲタクだ。

「ライトノベルとかだと堂々と『俺はどこそこのだれ』とか名乗るけど

んな奴はおそらくいない。来るとしたら、曲がり角から、

通り魔のように攻撃し、金品を奪っていくやつんだと。

名前はよほどのバカか、専務あいつが交渉でもしない限りわからないだろうな。

それに冒険職の安全に関することってのは国から認められるともらえる、

『初めての冒険職』っていう本にもちゃんと載ってる。

まぁ普通は、お宝は先に見つけたもん勝ちっていう暗黙のルールがあるから、

そんなにドロドロしてないぞ。」

「へぇー・・・」


会社開業時に役所で受けろと言われたセミナーでも普通に習うことだが、

そもそも殺しとかそういうやつは冒険職のふりをした犯罪者なので、

気絶させてとっちめるのも俺らの仕事の一つだ。

社会的地位に対して冒険職が、ただのならず者とか認識されないための

救済措置みたいなもんだ。


そんな話をしていると場所が開けてきた。


 そこにあったのはただの立て札だった。

立て札はずいぶんボロボロらしく何とかギリギリ読める字でこう書かれていた。


『この*を登*しも*よ。汝ら*求めしも**叶え*くば

『創** オヨ*・ル**ドゥ・*ル*ニ*ク・フィ*ショ*ラ**ド***スト』に

*え、さ*れば24の『超*の*車』を使**えんとす。

日**に照***す*心*ま**』


「なんだ?この立て札、ところどころかすれて読めないぞ」

つか何千年もよくたってたな。

「この塔のできた理由となんだか関係があるのかもしれませんよ?」

「この塔のできた理由?」

「ええ、例えばこの塔は何かを守るために設計されて、

なにかの試練をクリアしたものだけを、この塔の頂に立たせるという設定だったりとか。

そういう民族がいるって社会の先生が言ってました。」

「うーーん、考えてもわかんねぇや、まぁ行ってみればわかるだろ。

それに俺らは冒険職、調査をしても考えるのは別だ。

攻略の手助けになる情報もあっても信憑性が低かったり下手に知りすぎると、

変な偏見で考えが偏って罠にかかったり重要な何かを見逃す可能性だってある。

そうやって失敗してきた奴らは多い。できるだけフラットな気持ちを忘れないことだ。」

「そうですね。」





一本道の通路を進んでいき、罠に注意しつつ駄弁りながら進んでいく俺達から笑顔が消えた。


「え・・・」

「な、なんじゃこりゃあああああああああああああああああああ!!!」

そうそこにあったのはただの一本道・・・などではなく

上からつるさられた5本のハンマーが横切る一本道の部屋だ。

ハンマーは規則正しく振り子のように揺られており、

当たったら両脇の穴に落ちるという寸法だ。


「サイムさん・・・穴に針が何本もありますよ。

落ちたらまず体中にでかい穴が何個も空きますよ。」

ああ、相だろうな。こういうあからさまな罠ってのはまず逃げさせようとする。

針の大きさとハンマーの速度、逃げ場のない一本道、相手に恐怖を与える罠だな。


「へへ、上等だ。面白くなってきやがった。

ここを渡らなきゃ向こうには行けない。なら渡ってみようじゃねぇか。」

「サイムさん!正気ですか!?明らかにこれ殺しに、かかってくるタイプの罠ですよ!!」

ん?本当にそうか?『恐怖』は与えても後ろの『来た道』はまだある。

引き返せる罠だ。それに殺すためだったら俺らを部屋ごと閉じ込めて油かけて火あぶりにすればいい。

ここを作ったやつらはハンマーを何千年間ふりこさせ続けるほどの

技術を持ってんならそれくらい造作もないだろ?

偏見は抱きたくねぇけどこれはなんかの試練じゃあないか?


「ニッちゃん、こういう罠は案外ちょろいもんなんだよ。

見てみろ、ハンマーは前から順番に規則正しく振られている。

だから前のハンマーが下がった瞬間に渡れば確実に渡れる。

感覚的にこういうのを図るのは俺結構得意なんだぜ。」

「でももし当たったら?大けがを負いますよ!」

俺はニッちゃんの頭に手を置いて

「もしなんてねーよ。大丈夫怖くない。俺と一緒に渡ろう。」

俺はそう答えて、頭をポンポンと置いてほほ笑んだ。




「合図したら全力で走れよ!」

「わかりました!」

俺たちはクラウチングスタートの姿勢をとる

ハンマーはゆらゆらと揺れながら、


ゆっくりと規則正しく、


揺れている。


1,2,3

1,2、3

1,2・・・

ここいらか。


感覚、約10秒。


ニッちゃんの体力測定のデータは提出してもらった時のことは覚えている。

大体50m走とシャトルランは速い部類だったはずだ。

初速の瞬発力は部活動が卓球部で速いと聞く限り、

初めのハンマーと接敵するその秒数はなんとなくつかめる。

俺の初速はニッちゃんよりちょいはやめだから力加減を若干落とすとして・・・。

余力で足を踏ん張っていつでもニッちゃんをかばいつつ防御姿勢を取れるように残して。

ハンマーの大きさが、だいたい首から下ってところ当たったらひとたまりじゃあない。

・・・おちつけ、喧嘩やモンスター討伐とかの時は

どこからパンチや攻撃が来るかわからねぇが

これはどこから来るかは一目瞭然な分かなり落ち着いて

急いで対処すればいいだけ、簡単なんだよ。


・・・


前のハンマーが下がった!!


「今だ!」

「はい!」

俺たちは全速力で前へと走る!走る!

大地を踏みしめてハンマーへと向かう。



一つ目!!クリア!!

次、10秒後にこのハンマーが下がる。

その次のハンマーは4秒後。


二つ目!!次!!

「いっけーーーーー!!」


三つ目!!

次は7秒!次は若干変速してずれているから注意!!


「ちょい加速!」

「はい!!」

よく合わせたニッちゃん!!


四つ目!!

次は4秒!

「もっと早く!!」

「はいッ!!」

立ち止まるな!!立ち止まることなく進め!!


最後だぁ!!

次は3秒!これだけ大きさが若干違う!!

「かがめぇ!!ニッちゃん!!」

「はいいいィィィ!!!」

俺の後ろ髪すれすれで通り過ぎる!!


そしてなんとか階段のある部屋に転がり込む。




「ッーーー!!」

渡り切った!!


左右確認!!地面確認!!

罠くぐった後の想定外からの罠なし!!


パーティーメンバーの有無!

大丈夫、ニッちゃんはいる!


後方確認!!

退路の確保あり!!


ヨシッ!!


こういうの俺の役割じゃあないんだが。

一応、責任問題だからな。

獣人のあいつがいればまだ楽だが。


「はぁ・・・はぁ・・・やったぜ!」

「なんとか・・・なりましたね・・・」

「よっしゃ!じゃあ次の階行くぞ!ニッちゃん!」

「はい!」

そして俺たちは長い螺旋階段を上り


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

6階に着く。

6階は緩やかに、

塔の外周に沿ったらせん状の下り坂になっておりまた塔の形状からかやや斜めになっている。

さっき登った螺旋階段がやけに長いなーと思っていたら、

まさか今度はらせん状に下り坂になっているとはな・・・

昇った分下っているが・・・何があるんだこのダンジョン?

塔なのに上り下りが激しいって・・・。まぁ下り坂は楽だからいいけど・・・。


「さてと、一体全体今度はどんな罠が待っているんだ?」

「もう罠はこりごりです。」

「人生は罠だらけ、このダンジョンと同じようなもんだ。

ならせめてダンジョンだけでも楽できる下り坂をありがたろーぜ」

「サイムさんは下り坂でも転落コースと思うんですが。」

「はっはっはーーー!」

笑っている場合じゃあない。実際そうだから。

「にしてもあれから罠らしい罠がありませんね。」

「まぁ、この塔でかいし、罠を設置するのも面倒くさかったんだろう。

この階層に至っては痕跡すらないし。」

「そうかもしれんせんね。案外大きさだけのこけおどしだったのかもしれませんね!」

ニッちゃんがそういうとどこかで、


 カチッ


という音がした。

「ん?」

当然ながらこういう音は何かが『押された音』だ。

何かとてつもなく嫌な予感がした。


すると後ろから


どどーーーん!!


という轟音がした。

ニッちゃんと俺はおそるおそる、振り返る。

「いやーな予感。」

そこには明らかに俺の身長と同じかそれ以上の、

球体上のどでかい岩が落ちていた。



「なぁニッちゃん。」

岩は見事な丸で。


「はい。」

今にも


「ここって下り坂だよな?」

猛スピードで


「はい。」

転がってきて


「じゃあつまり・・・この岩って転がってくるよな」

おれたちを押しつぶしそうな


「・・・はい。」

威圧感さついがあった。


「・・・」


「・・・」


つまり・・・


死ぬゥゥウ!!!!


「走れ!!!今すぐに!!!」


「はいいぃ!!!」


俺たちは本日二度目の全力疾走をする。

後ろから岩がごろごろと転がってきている。

人生転落コースとニッちゃんは言ったが!!

人生転落した先は今ここで、

岩の下敷きになってぺしゃんこなんて!!冗談じゃないし縁起でもねぇ!!!

死んでたまるか!!人生転落コースの荒波に『潰されてたまるかよ!!』



っていうかさっきから俺の後頭部に若干当たってる気がするんですけど!!

この岩速いな!!やばい焦って息を荒げてしまっては、酸素を脳に送るんだ!

考えないともし行き止まりがあったら本当に潰される!!

なんで、こんな怒涛の罠ラッシュなんだよッ!!!

まずいまずい!!死ぬ!!死ぬって!!


「きゃッ!?」

「ニッちゃん!」

まずい、ニッちゃん、躓いた!?

手を伸ばし何とか掴む!

「蹴れ!!」

「はいッ!!」

一緒に瞬間的に加速をする!

一瞬土埃らしきものが立ち込めるが何とか振り払い


ピンチを脱する!!

「ありがとうございますッ!!」

「んなのはいいから走れッ!!」

まだ迫ってきてる!!

この罠、考えたやつ絶対性格悪い!!!

絶対馬鹿だ!!塔型のダンジョンでこんな古典的かつ逃げ場のないトラップ!!

ハンマーがこけおどしに感じる!!

それに坂だから走りずらいんだよ!!!

床が煉瓦状だから、溝に足を引っかけそうになるし

まるで罠にかかる奴のことを考えてやがる!!


「きゃああああああああああああああああ!!」

あーーー畜生!けっこう走ってばててんのに、ニッちゃんが恐怖のあまり若干錯乱し始めてきた!

そりゃそうだ。さっき躓きかけてなおかつ岩の威圧感がある!

「まずい!!落ち着け!!ニッちゃん!!」


「だいじょうぶ!!だ、ダイジョウブデスカラッ!!」

片言になってるって!!!涙目で大丈夫そうに見えないけど!!

俺も大丈夫とはいいがたい!!正直怖い!!


「ニッちゃん!!急げええええええええええ!!」


俺たちは無我夢中で走ってると

壁が見える!!



・・・って!

壁、終着点!!?


そこにあんのは行き止まりかっっ!!!?


このままだと壁に潰される。岩の大きさと速度からして、

身体を三角座りの要領で縮こまってもまず回避できない!!


よく探せ!!こういう防犯装置にはいざってときの制作者専用の抜け道は必ずある!!


・・・どこだ?ないのか!?いやあるはずだ!

馬鹿、俺!一瞬でもそんなこと思うな!!

社長おとなが諦めるなァ!!




あそこだ!!壁に穴がある!!

直角の曲がり角に穴があるんだ!!




「ニッちゃん曲がるぞ!!」

「はい!!?」

そのまま俺はニッちゃんを直角の曲がり角に押し込み飛び込むように曲がる。


 そして俺たちの背後で岩がどーんという音とともに砕け散る。

「ッ・・・はぁ・・・はぁ・・・ッ・・・はぁ、なんとか、なったな。」

「まったくもう・・・はぁ・・・はぁ・・・罠は、こりごりです。」

恐怖の冷や汗が頬を伝い、俺はもたれかかりニッちゃんは座り込む。


「どーかんだよ。」

「たぶん今回はうっかりと俺かニッちゃんが、

罠のあるスイッチを踏みぬいたのが原因だと思う。

ちょっと警戒心が足りなかった、俺たちのミスだ。

今度は最大限に警戒して進んでいこう。」

「ですね。」


本来ならわが社の専務が、

こういう斥候とかの役割を果たしてくれるんだが・・・

あいつに買い物を行かせちまったからな・・・

買い物中は電話したら値切りできなくなるから

電話すんなって言われてるから呼び戻せないし・・・。


・・・ちょっとあいつがいないことに腹が立つから

もしお宝を手に入れたら、すき焼きにしよう!!

そして肉を全部あいつの目の前で食ってやるゥ~~!!


・・・まぁ買い物に行かせた俺も悪いけど!!

あのバカが余計なものかって、うちは火の車になってるし、

これくらいやっても文句を言われる筋合いはない!!


かならず帰ってすき焼きを食うんだ!!


適当によんでた本にも

『ダンジョン探索にご飯の妄想をするのは基本的に

生命維持にかかわる手っ取り早い、モチベーションや能力向上にもなります。

ぜひ手ごろなダンジョンに入った時にご活用ください。

-ゴライアスガエルの卵書房:冒険職、初めての冒険への一歩 より抜粋-』

って載ってたし。これを今のモチベにしよう!


お宝もモチベーションだが、もしもの時に飯をモチベーションにしても怒られまい。


「よし、下手したら時間差で別のトラップが来るかもしれない。

ゆっくり歩き休憩しながら次の階層行くぞ。今度は慎重にな。」

「ええ、そうしましょう。もう走りたくありませんし・・・。」

そして今までで一番長い螺旋階段を上り・・・

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