第1話_起『危機開会の塔:メイジダンジョン』
「2021年 7月28日のお昼のニュースをお伝えします。
トーキョー外周部、近辺に現れました。中型モンスター群の
中級の
冒険職連合によって退治されたとのことです。
冒険職連合を取りまとめたT級冒険会社『
ナヨさんにインタビューをしました『いや~~危ないところでしたね。
今回のスタンピートした種族は、主に大猪にそれの上に乗るヒトガタ系の
モンスターが大半でしたね。』
今回のスタンピードの原因は?『
モンスターの脳の交感神経に異常をもたらす
偶然モンスターが起動してしまったのと、あとは環境じゃあないすっかね。
我々では断定できませんね。』
やはり近年の環境変化によるモンスターの凶暴化は目まぐるしく変わっていますね。
もし
鑑定屋まで持ってきてください。
続いてはスポーツニュースです・・・」
あーー平和だねぇ。それでいて暇だねぇ。いやーいいことだ。
暇と余裕があるっていうのは、実に気分がいい。
こんな平日の真昼間から、足を組んで、テレビでくだらないニュースを聞きつつ、
クッソまずいコーヒーを飲み、だらだらできるってのは非常に気分がいい。
できればこのまま一週間ほど仕事を投げ出して、だらだらとしていたいところなんだが、
今週金欠だしなー、遊ぶ金もなければ、生活する金もない。
俺は夏だというのに自分よりも一回りサイズのでかい赤とオレンジのぶかぶかの服を着て、
アームカバーの上にお気に入りの赤いバンダナを巻き、
黒髪白いメッシュの長髪の隙間からあまり掃除されていない窓から街並みを眺めつつ
散らかったきったない部屋の中で、こんなどうでもいいことを、
考えるくらい俺の今は平和である。
ズズっとコーヒーを飲むが・・・
まだ少し苦いなぁとちょっと思う。
俺はコーヒーの入ったカップにミルクを落とし、手を『かざす』。
物の数秒であら不思議、コーヒーとミルクが完全に混ざってる。
別にスプーンで混ぜてるわけでもないのに、手を『かざす』と
なぜか混ざってるのは、俺もよくわからない。
昔たまたま、コーヒーの温度確かめるためにかざしてみたら、できた。
だがスプーンでやるよりもなぜかうまいので俺はこれを行っている。
俺はずずっとそれを飲み干し。一息つく。
でもこうやってだらだらするのも、そろそろ飽きてきたな、
最近、何も面白いことやってないし、なんか面白いこと起こんねぇかな?
趣味の野球観戦は特にめぼしい試合ねぇし、バスケは補欠だから特に呼ばれてないし
仕事はやりたくないけど金はないし。そもそも
ピンポーン!
ん?おっといいタイミングで、チャイムが鳴ったな。
「はーい今行きまーす!」と返事してドアへと駆け寄る。
仕事の依頼だろうか?それともなんか怪しい宗教の勧誘だろうか?
自宅に事務所があるってどっちかわかったもんじゃないから、
こういう時に紛らわしいから面倒なんだよな。
玄関ドアを開く。
「こんにちは、『サイム』さん。」
そこに立っていたのは背丈が中学生くらいの体躯で
ややくせっけが強いオレンジ色の髪の毛を後ろにくくり、
服装は髪の毛と同じ
大きな結んでいないリボンを留め具にしたスカート。
赤い眼鏡をかけ、そしてかわいらしい角を生やした『鬼』の少女だった。
『鬼』というのは、この国に住む種族で、とてつもない怪力を持つ種族だ。
この少女もすでに、成人男性以上の怪力があり。何度殴られたことか。
特にブチぎれるとすぐ手を出してしまう悪い癖をこの子は持っている
誰に似たんだか・・・。
ん?まるで知り合いみたいだなって、そりゃそーだ。
だってこの子は、
「何、ぼけーーっとつっ立ってんですか?早く事務所に入れてくださいよサイムさん。」
「あーわりぃわりぃ、もし『ニッちゃん』を小説風に紹介するんなら、
どう紹介したもんかと、悩んでたところだ。」
「『また』、妙なことを。で、どんなふうに私を紹介するんですか?」
「そーだな。
武山冒険社のアルバイト。
性格はくそ真面目。委員長気質。以上だ。」
「簡潔すぎませんか?」
「だってそーとしか俺には表現できねーもん。
中卒の語彙力舐めんなよ。」
「まだ小学生の読書感想文の1ページ目の方が語彙力はありますよ。
では今度は私が言いますね。
あなたは
設立2年なのに冒険職最底辺Z級の『
一応、社長で、めちゃくちゃの解決策ばかりをする人。
だけど地域からの信頼は厚い(悪い方面でも)
性格はダメ人間、変人。人を巻き込む天災。
好きなものはスポーツ全般だが、基本的にまともな考え方をしないので、
審判から疎まれることもしばしば。
特技は借金すること。仕事を失敗させたら一級品。それから」
「ストーーーーーーーップ!!いろいろと傷つくからやめて、
それに最近は借金払ったばかりだ。」
この子に言われると割と傷付く。
ちなみにだが酒屋に誘われた競馬ですった。
一番人気のホクトオウハマッスルがすべて悪い。
そして酒屋にやけ酒を買わされて、この間、やけ酒の分を払い終えた。
とんだマッチポンプである。
こういうのがダメ人間といわれるゆえんだと思ってはいるが
おもしろそうと思ったことはやめられん・・・。
「先々月の分をでしょ!」
「ぐっ!?それを言われると何とも言えないぜ・・・。」
「大体サイムさんは、無茶が過ぎます!
春にお花見をしたと思ったら桜の木に擬態してた小型のドラゴンに襲われて借金が増えるし!
夏に海水浴に遊びに行けば台風の中、クラゲを退治しながら、魚の大群に食べられかけて
秋には借金取りに大鹿をけしかけられて町がめちゃくちゃになって
冬には泥棒に確定申告の入ったカバンを奪われて
巡り巡って泥棒の報奨金や道中で倒したモンスターや
発見した宝箱で結果、税金増えて描いた確定申告無駄にするし!
そして最近、
めちゃくちゃですよー!」
いや、まぁー・・・冬の件は・・・悪いことばかりじゃなかったし・・・。
「まったく、とりあえず中に入れてください!!
こっちは外歩いてきたんで暑いんですよ。」
「はーい。どうぞー」
そういって事務所にニッちゃんを通す
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「えーっとアイスアイス、サイムさん、私のアイスどこにやりました?」
「奥のほう探してみ。」
「あったありました。」
ニッちゃんは冷凍庫からラムネ味の棒付きアイスを取り出し、
事務所の服が脱ぎ散らかしたり、ごみが置いてあるソファに腰掛ける。
事務所・・・といっても
集合住宅地ということになっているが、まぁこの家は貧乏ながら一応、『買った』
広さはワンルームで17畳半くらいだったけ?
キッチン、風呂、シャワー、押し入れ付き、事務所も兼任しているが客は来ないので
掃除はたまにする程度。(おもにニッちゃんが)
あ、一応だがちゃんと来客デスクあるけど、
食器が洗ってなかったり、押し入れのふすまが破れてたり、
ポテチと靴下はそこに転がっているが!
何よりこの家はワンルームで男が俺を含めて二人住んでいるので、
生活感満載でおっそろしく汚い。
来たのが初見のお客様じゃなくてよかった。
屋上にも一室、8畳程度の部屋がある。『こいつについては、おいおい語るとしよう』
屋上にはほかにも
物干しざおや、隅っこに俺のお気に入りの小さいデスクがあり、
昼寝にうってつけ(晴れに限る)
だが、夏に寝ると蚊がわくのでお勧めしない。
少し話題がそれたな。
「にしてもなんで、私がいない間にサイムさん達は、
この家を瞬間的に汚くできるんですかね?私、この事務所には毎日通っていますが、
掃除しても掃除しても汚くなる空間なんて聞いたことありませんよ。」
「いやーそれほどでもー。」
「ほめてませんよ。っていうか、事務所が異様に汚くて
生活感満載だから、この会社には依頼が来ないんじゃないですか?」
そんなことを言いながらニッちゃんはアイスをおいしそうに食べてる。ラムネ味好きなんだろうか?
いつもラムネ味のアイスを我が冷凍庫にストックして俺らに奪われないように包装に名前と番号まで書いてしっかりと管理されている。ご丁寧なこった。
ついでに俺も冷凍庫から自分のアイスを取り出す、バニラ味のカップアイスだ。アイスの冷たい触感が舌を伝わり脳が幸福感に満たされる。
「アイスを食べるってことは飯は食ったか?」
「ええ、ご飯は食べてきました。かつ丼でしたよ。」
「そしてかつ丼を食べれるとか羨ましすぎる。」
「サイムさんは?」
「蕎麦だよ。出前してあいつが値切りまくった。だからほぼ
「また変な依頼を受けないでくださいよ。
蕎麦屋さんの依頼は工夫をしないといけない長期物が多いんですから。
学校の合間にアレを受けるのは厳しいです。」
「ところでニッちゃん、学校はどうした?」
ニッちゃんは実はこんな外見をしているが、実は高校2年生だったりする。
俺からしたら中学生料金で美容室とか行けて便利そうだと思うのだが
本人はそうはしたくないらしい。
「今日が終業式でした。明日から夏休みですよ。」
「いいよなー学生は。」
「依頼がなくて万年夏休み状態の、サイムさんが何言ってんですか。」
とニッちゃんが小突く。
「でもギルドからは前回の仕事の失敗で、出禁食らっているから依頼を受け取りに行けないんで、
情報屋からは碌に金になりそうな、依頼を受けれないしで実際俺ら今、ピンチなんだわ。」
「なんで、冒険職ギルドから出禁食らうのか、はなはだ疑問です。
まぁ私もお給料が払われないのは困りますし
そんな金欠のサイムさんを、見越していいものがあります。」
そういってニッちゃんはアイスを食べ終わるとズボンのポケットからチラシを数枚取り出す。
「なんだ、激安スーパーのチラシか?」
「違います。これは冒険職ギルドで配っていたチラシです。下校中にちょっと寄っていき、とってきました。」
ニッちゃんは仕方がないな、という表情で数枚のチラシを広げる。
ギルドのチラシって・・・たまーに、健康診断とか町内の情報誌とかと一緒に置いてある
あの『誰でも受けられる依頼』的なアレ・・・?」
「ええ!アレは、職員が足りてないとかもろもろの理由で未処理の依頼って聞いてたんですよ。
貢献とかは国へ報告はできませんが、金策にはなるでしょ?山積みになっていたのをかっさらってきました!」
「ニッちゃんでかした!俺らじゃ受けられないようなギルドを仲介しない依頼な高額依頼も紛れ込んでる可能性も高いな!」
「ええ、もしかしたら、労働以上の金額のいい依頼が紛れ込んでいるかもしれませんし、
見てみる価値はあると思います。」
そういって俺達がチラシとにらめっこして数分後
「だめだぁー!!!!!どれもこれも小遣い稼ぎ程度の依頼にしかならねぇし、
全部、つまんなさそうだ!」
そりゃそうだ。そういうのを率先して職員ってのは処理してると思う。
そして処理したものを俺らよりも年季の入った企業へ渡す。
「サイムさん、そうも言ってられない状況わかってますか?
このままいけば電気とかも止まりますよ!」
「でもよー何だこのどうでもいい依頼の数々、
草の除草作業の依頼1500円、猫の捜索依頼2000円とか、
普通にバイトしたほうが金稼げるぞオイ!」
俺ら冒険職は依頼をして稼ぐ、ダンジョンを攻略して稼ぐ、もろもろの手段はあるが
バイトを稼ぐ冒険職は同業からかなり白い目で見られる。フリーターの仕事を奪ってるとかで地域に根付いている俺らにとって、まぁまぁ信用にかかわるからやりづらい。
「確かに安すぎますけど・・・」
「それに、このアタッシュケースを指定の場所まで運んでくる依頼とか、
明らかに犯罪の匂いがすんだけど、大丈夫か?冒険職ギルドォ!」
「だから未処理なんでしょ。」
まぁその通りである。
「で、ですがこのままいけば、本気で生活できませんよ!
私のアルバイト代だって数か月間滞納しているでしょ!」
「ぐっ・・・。」
「あーそうだよなー・・・ニッちゃん、依頼って本当にこれだけ?」
少し声が上ずったまま質問してみる。
「ちょっと待ってくださいね。」
ニッちゃんがポケットを探る。ニッちゃんのポケットは見た目より大きいようでけっこう奥まで探っていた。
「あ、まだ1枚ありました。」
もう、その1枚にかけるしかないようだ。
あーどうか金になりそうな依頼で、面白そうな依頼でありますように。
ニッちゃんが紙を広げる。
「ん?何だこりゃ?いつもの紙とは・・・。」
「あー、どうやら依頼書の中に紛れ込んでいたみたいですね。町からのお知らせです。」
「一応読んで、もしかしたら儲け話につながるかもしれん。」
イベントとかだったら頼み込んで露店を開く。モンスターの素材が高騰しているなら狩りに行く。
税金関係だったら控除を調べる。ならず者の情報だったら調べて捕まえて賞金にする。
わが社には金がないのだ!!
「えーっと何々?初心者用ダンジョンとして
名高いメイジダンジョンにて秘密の通路見つかりました。」
その安っぽい再生紙に描かれていたのは依頼ではなくご近所のダンジョンで、
秘密の通路が見つかったという内容だった。チラシにはでかでかと、
水晶が出土品として見つかったと載っている。
メイジダンジョンってのは確か何千年前に建てられた塔型のダンジョンだったな。
まだ最上階には登れた人はいなかった気がする。
隠し通路がわからなかったからいけなかったのか・・・
場所もそんなに遠くない・・・。
これはもしかして・・・。
「ニッちゃん、これだよ!!こういうのを、俺は望んでいたんだよ!!」
「え!サイムさんこれ、ある意味ギャンブルじゃないですか?」
「ギャンブル上等!もしかしたらダンジョンにお宝が、あるかもしれない。これで借金もろもろを払えるし、何よりもこういうのってワクワクする!」
大体の物事は楽しんだもん勝ちだ!楽しくなくて何が人生か!
重く考える必要があるのはそういう場面だけだ!
「はぁーいつものサイムさんのワクワクできれば、何でもいい理論が出てきた。」
・・・ん?待てよ。喜ぶのは早計だぞ俺!
「・・・あ、ちょっと待て。ニッちゃん!そのチラシの発行したのはいつだ!?」
「え、えーーーと」
「発行したのが一週間なら手遅れだ。もうお宝はない。」
ギルドは全ての印刷物に発行した年月、日時を記さらなければならない。
これは依頼が下手したら別の企業が完了しているかもしれないので、
企業が依頼承諾の電話や受付で受けたりする際の指針とするためだ。
ギルドは役所だ。ようは国の機関なので17時で受付を停止し
遅くとも19時まで職員が勤務している。印刷物の張替は約18時ごろと緊急事態の時だ。
朝には新しい依頼がわかるのはこれのおかげだ。
勘だけど未処理依頼も多分このタイミングのはず。
昨日刷られたものなら、希望が持てる、でもフットワークが軽く早い企業だとすでに取られてる。
1週間前とかだと、ダンジョンにあるのはゴミと残骸だ。
でも運が良ければ・・・。
「7月・・・20日17時発行」
昨日!!つまり、ダンジョンにはほぼ確定でお宝があるぞ!!
「よっしゃーーーー!!!そうと決まればニッちゃん、今すぐ行くぞ。」
「え、今から行くんですか?」
「だってそうだろ、早くしないとお宝が先に越されちゃうかもしれないし。思い立ったが吉日!!
そこに金というロマンと、ロマンという金があるなら行かねばならない!!
楽しいことってのはそういう積み重ねさ!」
「私、武器とか持っていませんよ!ダンジョンなんでしょモンスターとか・・・。」
「大丈夫、大丈夫。ダンジョンにいるモンスターはモンスターを沸かす装置とか
何かしらがないといけない。フィクションじゃあないし魔法なんてないんだから
科学的に考えてありえることを考えよう。
それにモンスターはだいたいが生物だ。人間を襲う。
下のすでに発見された階層に人間がいたってんなら
隠し扉突き破って人間を襲ってきてない時点で妙じゃあないか。
それにな初心者用ダンジョンなんて俺が、一人で行っても踏破するの楽勝だったし、
あれくらいの大きさなら1日もかからないし、ニッちゃんを守りながら進むのなんてよゆーだろ。」
この言葉にニッちゃんは少しいぶかしげだが、納得し。
「そういうものですかね・・・わかりました。サイムさんを信じます。」
「いざ、メイジダンジョンにレッツゴー!!」
俺たち二人は準備をしはじめる、ニッちゃんはオレンジの大きなドラム状のボストンバックを持ち
髪の結び目をしっかり端れないようにしてメガネを拭き掛ける。
俺も
息を整えバンダナを結びなおす。
「いくぜ。」
この時の俺たちはメイジダンジョンをなめていた。
予想というのは常に斜め上を行くものである。
そしてまさかこれが、偉大なるあいつとの出会いになるとは、まったく予想していなかった。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
メイジダンジョンの道中は特に代り映えもしない街並みだ。
隣町だがどこか一昔前の街並みで、木造住宅が大半だ。
集合住宅・・・正確には木造の団地がこのあたりは多い。
モンスターが襲撃してくるんですぐに立て直せるようにここらは木造だ。
古い町だからか塀にはミケ猫がおり、赤いポストに怪しい露天商。
すれ違う人はこの冒険職に、昼から飲んでいるよっぱらい。
リアカーで物を運んでいる運び屋。追いかけっこしている子供たち。
営業の話しをしながら歩いているサラリーマンなどよくいる奴らばかりだ。
進行方向奥に大きな塔があった。
「ここら辺もだいぶ変わったなー。」
「昔はどんなんだったんですか?」
「たしか・・・穴ぼこばかりの街だった。昔は土壌が弱かったこともあったせいで
道路開発が難航してな。
少しの地震で、液状化しちまうんだ。」
「え、じゃあメイジダンジョンは・・・?」
「いや・・・それが不思議なんだよ。
あのダンジョンの周りだけ地盤沈下どころか、全然壊れない。
木の根っこのようなもので土壌を支えているかもしれないんだってさ。
まぁあそこ最近は老朽化してきたせいか、壁に穴置けたら崩れるかもしれないんだよ。
だから無茶はできない。崩れたら、近隣の住宅地に迷惑がかかるから、壊せない。
国もバブル以降、あれを壊して再開発したくて、住民たちに退去命令を出しているんだがな。」
「なんか陰謀めいた感じですね。」
「まぁ実際、地上げ屋とか、きな臭いうわさはぷんぷんしているがな。」
俺達は塔を目前にして開けた広場へ出る。
「えーーっとこの道を抜けて・・・っと着いたぜ。」
「遠くから見えていましたが近くで見るとかなり大きな塔ですね。」
そびえたつは雲よりも高く、石のように固い謎の素材をレンガ状に積み上げて作られた
巨塔『メイジダンジョン』
最高到達階層、五階。超初心者用ダンジョン。
別名『特に大したことのないでかい迷路』
数多いダンジョンの中ではかなり細長い部類であり老朽化が進んでいる。
さきほども言ったように壊れないくせにダンジョンの壁を下手に力加減を間違えて
破壊しようものなら崩れてしまうかもしれないから
うかつに壊せない。と政府が示しており、一階は補修まみれと聞く。
壁にある虹色の血管のような模様があり何を意味するかさえ分からない。
あそこにあるのは、ラクガキやゴミばかりで、
極めつけはこの世のどん底みたいな顔している奴が、
屋内で眠ることがあるので、あんまり近寄りたがる奴はいない。
だって場所がスラムのどん底のすぐそばだもん。
そういうやつらが集まるのはなんとなく理解してほしい。
彼らだって懸命に生きているのだから。
なおあそこはたまにぞうきんの生乾きみたいな臭いもする。
汚い。臭い。古い。何もない。の
四拍子がそろったダンジョン。それがこのダンジョンだ。
「この塔がメイジダンジョン、モンスターは狩りつくされたり、謎解きもなく、トラップもない。
正真正銘の初心者用ダンジョンだ。五階まではな。」
「それ、もはやただの迷路では?」
「うんそうだ。だが俺達地元の人間の中で、
なんで立っているのかマジでわかんねぇ物体ナンバー1だ。
ちなみに俺は中に入ったことはない!」
「はぁ・・・」
「さ、行こうぜ。」
俺たちはそそくさと入り口の中に入る。
【アクセスポイントを検出、メッセージを送信】
---今こそ解放の時はきたれり---
?何か、聞こえた気がする。空耳か?
「ニッちゃん、今、何か聞こえたか?」
「いいえ。」
「そうか・・・」
たまにあるダンジョンの仕掛けかなんかだろう。コンビニとかで若者しか聞こえないアレ的な。
まぁいいや先に進もう。
このダンジョンは5階までは踏破されてる。
チラシによると、その5階での一番小さな部屋に秘密の通路があるらしい。
「あ、サイムさん、見てください、このダンジョンの地図ですよ!
あ、名物落書きとか。各種観光名所もありますよ!」
「もうダンジョンとして完全に枯れてるなこのダンジョン。」
1階の時点ですでに看板に階段の場所書いてるし
「これって迷路としてもどうなんでしょうか?」
「いや、もしかしたらこれは大金をかけたライ○ーゲーム的な巧妙な罠が・・・」
「ありました。」
そんなことはなかった。
2階に行ったら5階までの催促到達RTA(リアルタイムアタック)の
記録の看板と細かいルールやレギュラーションが書いている。
「24分台が最速記録ですね。」
「あ!こいつトライアスロンの選手じゃないか!」
「え、有名人なんですか?」
「ああ、国内元3位の男だ。こっちはパルクールやってるやつだし、
けっこう有名人が来たんだな。」
「まぁ大きな建物ですし。」
「RTA勢曰く、落とし穴の罠を飛び越えて行くのが最短コースで、
観光コースではこの道をまっすぐ行って突き当りを右だ。」
「ああ、やっぱりダンジョンじゃあないですね。」
3階に行ったら罠はこちらとありがたいラクガキがあって
「「びっくりするくらい歯ごたえがない。」」
「それに2階でも思いましたがここって妙に明るいですね。」
「この壁、なんか虹色の毛細血管みたいな模様が走っているだろ。これが発光してるんだと。」
「あー確かに若干光ってますね。」
「あと地味にー思ってたがこの三階でも、人がいないなぁ・・・。」
「過疎化ってやつですね。」
「ダンジョンまで浸透してくる世情の嵐を感じる。」
4階には前衛的な
「1階にあったパンフレット曰く
この落書きは後に数十年前一世を風靡した謎の画家『一月の貴公子』の初期の作品だと。
突発的に友人と描いたらしい。」
「なんだか神秘的ですね。いろんなところにビビットカラー?の
濃いピンク色が塗られていますが
これ補修でもされてるんでしょうか?」
「知らねー。まぁ、絵を見たところで腹は膨れねぇ、先行こうぜ。」
「はーい。」
目的の場所まで罠らしい罠がなく順調に次々と上の階へと昇る。
「さてとここが5階か。」
「本当にただの迷路でしたね。」
・・・
・・・ん、待てよ。『何もない』迷路?
「ニッちゃん、ちょっといいか?」
「どうかしました?」
「いろいろとおかしい。
まず第一にあんなチラシが配られるくらいなのに人が少なすぎる。」
板のは一回の浮浪者程度だ。
「そういえば道中、人があんまりいませんでしたね。
でもそれっていいことなんじゃ、私達は結構早めにこれたんじゃ。」
「それにしちゃ、あまりにも妙だ。
普通こんな重大発表、なぜ『テレビ』でやらない?
こんな宝の宝庫、しかも洞窟でもない
明らかに人工的に建てられたダンジョン内でなぜ『水晶』が見つかるんだ?」
この国は都市だと必ずと言っていいほどテレビの電波が入る。
そしてこの塔は今はこんなのだが俺が生まれる一昔前まで、毎日人が訪れていたと聞く。
さびれたとはいえ、近隣の冒険職や町おこしのためにダンジョンを宣伝しない馬鹿なテレビ局はない。
昨日、ギルドが印刷したならテレビが昼間にやらない可能性は低い。
水晶ってのは洞窟で年月をかけて自然が結晶化し創り出された鉱物だ。
人工物の塔から水晶ができるなんてまずありえないだろう。
「確かに変ですね・・・」
「こういう冒険のパターンとしては3つある。
1、ただの迷惑なガセネタ。これの可能性が一番高い。
2、本当に俺たちがかなり探索序盤に来たか、
そして問題は3つ目、何らかの犯罪が関与した何者かの罠である可能性。
ニッちゃん。俺はよゆーでニッちゃんを守ることは、今でもできると思う。
だがこのダンジョン、一応用心しといたほうがいい。いろいろと奇妙な点があるんでな。」
「わかりました。逃げる心構えをしておきます。」
いい返事だ。
そうニッちゃんが言った時、ある小部屋に入る。
そんなに他の部屋と変わらないいつも通りの謎の素材でできた煉瓦造りの部屋だ。
そう例の隠し通路が見つかったという小部屋だ。
「ここが例の小部屋だな。えーっと一番上の赤い煉瓦から右へ3上へ6の煉瓦を押す・・・っと」
俺は指定された通りの位置の煉瓦を押し出す。
するとゴゴゴ・・・と大きな音を鳴らし煉瓦の壁は土煙をならし、横幅が二人分の穴が開いていく。
奥には何もなく、ただそこにあるのは未知と何かが起こるドキドキの高揚感に舞い上がった冒険
「サイムさん!見てください!これ!」
「ああ、どうやらパターン1じゃなかったみたいだな。正直俺は驚いたぜ。どうやら本当にお宝が待ってるのかもしれねぇ。ああ、ワクワクしてきた。」
予想外の状況に思わず顔が緩む、まさか事実の情報だったとは!
千載一遇の大チャンスってのはこういうのを言うんだろう。
俺たちの目の前にある、先も見えない道の奥に見たことのないワクワクしたものが待っている。
まさにチャンスの扉が開かれた。
「ニッちゃん!こっからだぞ!行こう!!」
「ですね!行きましょう!」
そう言って俺達は通路を進んでいく。
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