C
また、この日が来てしまった・・・
私のクラスの生徒はどうも『印象』に謎のこだわりがあるようだ。
だが私もいつまでも彼らの勢いに飲まれるわけにはいかない。
例えどのような『印象』で来ようとも、私は―――――
コン、コン、コン
来たか・・・
「どうぞ」
「失礼しまーーーす!!」
気合いでも入れたのか妙に『伸びている』、勢いよく扉を開けて生徒が入ってきた。
片手には『桃太郎』と書かれた旗と撮影用のカメラを持ち、ブリーフに白い靴下姿の男子生徒。
極めつけは・・・ブリーフにLEDでも入ってるのか、七色に光っていた。
「・・・ふぅ。」私は色々と言いたかったが出かけていた言葉をのどへ押し戻した。
「座ってください。」
「はい!失礼しま・・・む?座りづらいな、—――んしょっと。」
生徒はブリーフに入ったLEDの位置を手でずらした。私は天井を仰ぎ見て今度は長く息を吐く。落ち着いたところで仕切り直す。
「ではまず、出身校をお願いします。」
「〇〇中学です!!」
「大抵は高校のことを聞くモノですがね。」
「ここです!!」
ちがう、そうじゃない。まぁでも、私の聞き方が悪かったのかもしれませんね。仕切り直しましょう。
「では・・・あなたの思う長所と短所をお願いします。」
「はい!長所は思い切りがすごいことで、短所は後のことを考えないことです!」
「今まさにその姿だと思いませんか?」
「思いません!!」
そんな思い切りいらない・・・後のことを考えてほしい・・・
「・・・では、あなたを御社に加えた場合、どのようなメリットがありますか?」
「そんなことより、先生!」
そんなことって・・・
「カメラに向かって何かメッセージをお願いします!」
「メッセージ?なぜですか?」
「今日『卒業ビデオ』の撮影って委員長が言ってたでしょう!」
あぁ、そんなこと言ってましたね。面接のことで頭がいっぱいでした。
生徒たちのことを想える教師を目標にやってきたのにそんな大事なことを忘れるとは、私もまだまだですね。
「えーっとでは・・・皆さん、卒業おめでとうござ・・・」
「先生!!」
「はい、なんでしょう?」
「2パターン撮りたいんですがよろしいですか?」
「構いませんが、2パターンというと?」
「みんな卒業できたパターンと卒業できなかった人がいるパターンです!」
「君の短所変えた方がいいですよ。『割と腹が黒い』とか。それと、先生としてはみんなに卒業してもらいたいんですがね。」
すると生徒は時計を見て慌てるように切り出した。
「あ、やべぇ!この後、部活中のクラスメートにもメッセージもらいに行くんだった!先生、メッセージ考えといてくださいね!」
「まさかその恰好で行くつもりですか?」
「はい!女子にキャーキャー言われるって委員長からアドバイス貰っているんで!」
委員長、なに教えてるんですか・・・。嫌いなんですか?彼のこと。
「それと、先生!!」
「なんですか?」
「今日のおれ、『印象』に残りますか?!」
「インパクト強過ぎて逆に忘れるかもしれませんね。」
「じゃあ、脱ぎます!!」
脱ぐんじゃなくて、着てください。
就職面接 ム月 北斗 @mutsuki_hokuto
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