イベント話 バレンタイン!?

 2月。男たちが一年で最も気にするイベントの存在する月である。月初めから男たちの女子に対する態度が急激に変わり、物を得るため、媚び始める。そう、2月14日、バレンタインのために!


※※※


 陰キャアニオタである滝中葉音にとってバレンタインデーはなんの変哲もない平日。あることといえば、スマホゲームのキャラたちがチョコをくれるくらいである。クラスからいじめを受けている俺がリアルでチョコを貰えるわけがない。生まれてから中2まで一度たりとも女子からチョコを貰っていない。今年こそは…なんて夢はない。


女∶『○○くん!放課後、校舎裏に来てくれない?話したいことがあるの!』

男∶『わかった』


 俺が寝たフリをしているとこのような会話が本日は死ぬほど聞こえてくる。内容だけ聞くと男が呼び出しをくらい、これから女締められそうな気がするが、バレンタインだから違うとは分かる。うぇ〜吐き気するわ。


※※※


「滝中くん!滝中くんってば!」


 ん?なんだ?この声、聞いたことあるぞ。確か…


「あんたはクラスで一番かわいいと評判の桃山さん!」


「あ、ありがと。その〜ね?わかるでしょ?今日がなんの日か」


「わかるとも。今日は2月14日、忌々しきバレンタインデーだ」


「だから、学校終わったらさ、体育館の裏に来てくれない?誰もいない場所で渡したいものがあるの」


 どうした?わけが分からん。まさか俺にチョコを…


「もちろん!!行きますとも!」


「じゃあ、待ってるね!」


 嘘偽りのないように見える笑顔でそう告げると、桃山さんは去っていった。


 うぉぉぉぉー!ハイキタコレ!今までイジメられてきた俺に神が恵んでくれたチャンス!ご褒美だ!!


 悪いなイジメてきた奴ら!お前らより勝ち組に俺はなる!!ザマァ見ろ!


※※※


 放課後 体育館裏


 うぅ〜緊張してきた。なんてったって人生初チョコだぞ!(家族除く)まともに女子と喋ったのも実に半年以上ぶりな気もする。しかも、相手がクラスのアイドル!桃山さんときた。


「ごめ〜ん!待った?」


 どうやら桃山さんが来たようだ。


「全然!今来たところですよ!」


「そっかぁ〜よかった!」


 かわいいなぁ〜


「早速だけど、はい!」


 桃山さんの手渡してきたのは可愛らしくラッピングされた少し大きめの箱だった。


「あ、ありがとうございます!あの、開けても…」


「いいよ!」


「あ、開けます!」


 開けると、中には明らかにチョコレートではないなにか茶色いものが詰まっていた。


「な、なんです?これ」


「なに?って、見ればわかるじゃない。家畜用の餌よ。豚にはお似合いでしょ?」


 はっ?なにいってんの?口調変わってない?意味がわからない…


「そろそろ出てきていいわよ」


「いやぁ〜ナイスだよモモッチ!流石俺のカ・ノ・ジョ!」


 カメラと思わしき物を持って茂みから登場したコイツは、クラスの陽キャグループの中心にいる佐久田だ。いつも俺をイジメてくるグループのリーダーでもある。


「ちゃんと動画撮れた?この豚の絶望する顔がもう一回見たいの!」


「もちろん!佐久田カメラマン、しかと職務をまっとうしました!なんつって!」


「あはははは!サク君面白すぎっしょ!」


 この二人は付き合っているのか?しかも、グル。だめだ。状況がわからん。


「あの…チョコは…」


「はあ?何いってんの?なんであたしがオタ豚なんかにチョコあげなきゃなんないの?あたしの本命はサク君にあげるに決まってるでしょ?はい!ど〜ぞ!」


「ありがと〜!モモッチ!家宝にするわ〜」


「いやいや、食べなきゃ腐るっしょ!」


「「アハハハハハ!」」


 コイツら…


「おい。お前ら。俺をはめやがったな?ふざけるなよ?」


「う〜わ。きっしょ!なんかオタ豚がほざいてんですけどぉ〜!どうする?モモッチ?」


「豚菌感染るし、はよ行こ!」


 二人は去ろうとする。俺は普段なら、いじめられても反抗なんてしないが、今日はおかしかった。


「待てって言ってんだよ!」


「キモ。サク君走ろ!」


「お、おお!走ろう!」


 普段と違う反応をする俺にビビってやがる。


「ふざけんな!」


 怒りに任せ、俺は拳を振り上げる。


「はいよっと!」


 喧嘩なんてアニメでしか見たことない俺の拳は、佐久田に軽々と受け流され、代わりに、重い一撃をみぞおちに食らった。


「かはっ…」


「ちょっ、サク君!あざとか残ったらどうすんの?あたしらちょーヤバいじゃん!センセーに怒られちゃうよ〜」


「心配すんなって!みぞおちだからあざは残んないから!」


「さっすが〜!」


「今のうちに行こ!」


「ま…て…」


 俺が倒れている間に、二人の姿は遠のき、しまいには見えなくなった。


※※※


 3分後


「く、クソっ」


 俺の手元に残るのは、手渡れた家畜用の餌と純粋な心を傷つけられ、残った痛みと、物理的な痛みのみ。


 

 泣けてくる。午前中の喜びのあまり走り出しそうだった自分に。そもそも最初から気づくべきだったんだ。クラスのアイドルが陰キャオタクにチョコをくれるはずがない。


 俺は決意した。絶対にコイツらとは違う高校に行ってやる、と。


 この出来事の効果もあり、無事に畑高校に受かったことを考えると、佐久田と桃山さんに少し感謝をしたくなる時もある。





 滝中葉音、中学時代の思い出エピソードパート1でした!














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