第18話 コミュ力!?
ただいま、俺は高山高校の近くにある小洒落た喫茶店に来ている。それも彼女を連れて。…ウソ。彼女ではない。が、とてつもなくかわいい。いわゆる絶世の美少女というやつだ。しかも、全国一頭のいい高校、畑高校の入試において、満点を取るという前代未聞の偉業をなしとげた人物でもある。なんでそんな完璧美少女と俺が釣り合うかだって?それはな、彼女がコスプレをするくらいのアニメオタクで、俺も筋金入りのアニオタだからだ。
「ねえ、ねえってば!聞いてる?」
「あ、ああ。聞いてる」
「でね!『その前に一つだけ約束。この剣を抜くたびに、心の中で、私のこと思い出してね』ってシノンが言うシーンを真似するために弓の引き方を勉強したんだ!」
※優香の言っているシーンは、ソードアート・オンライン二期のエクスキャリバー編のとある名シーンです。
「ってことは、弓道も出来るのか?」
「モチのロンですよ!」
喫茶店に入って早三十分。優香とアニメについて語り合い、今はSAOの名シーンについて話している。
話を聞くと、本当に優香は優秀で、真面目でまっすぐな子らしい。コスプレのレベルの高さもあるが、ワンシーンを自演するために特技をまた一つ、また一つと増やしていったという。少なくとも俺には無理だ。
「今度、一緒に弓道場にでも行かないか?優香の弓の凄さも見たいし、僕も教えてもらいたいからね」
「そうだね!私の弓の極意を教えよう!」
「ははぁー!」
楽しい時間はあっという間に過ぎてい…かなかった。
調べたところ、高山高校の土曜授業は平日と変わらず6時間で、部活など特別な用事がなければ下校は4時~5時ごろになるらしい。俺らの着いた時間が6時きっかりだから、短くてもあと、9時間以上あるわけだ。ホントバカ。妙に忍耐強い俺と優香は喫茶店で5時間粘ったが、その後、店員に退去をお願いされてしまった。すいません。
「どうしよっか〜。この辺、他に遊べそうな場所もないし、あと4時間じゃ、ここから遊びに行ったとしても下校時刻までに帰ってこれないよ」
高山高校。辺境の地の高校である。周囲は一面水田が広がっていて、のどかな風景が広がっている。ただし、まじでなにもないのだ。例えるなら、『のんのんびより』の駄菓子屋がなくて、旭丘分校しかない場所みたいなところだ。もちろん、『にゃんぱすー』も聞こえてこない。
「ほんとどうする?田舎定番イベント、農家訪問でもする?」
「定番イベントって。でも、それも楽しそう!おっ!あんなところに農家が一軒!早速向かうぞ〜!」
「って、ちょっと待てよ!」
発案者は俺のはずなのに、俺が手を引かれるようにして農家に向かうことになった。
※※※
農家の前につくと、家の前におばあさんが何かを干していた。
「こんにちは~。今、高山高校に通っている友達に会いに来たんですけど、まだ時間がかかるらしくて、でも、僕らこの辺に詳しくないものですから、おすすめの場所を聞こうと思ったんですけど…」
普段、こんなに全く知らない人に自分から喋りかけるなんてことしてないから、早口になったってしまった。しかも、自分勝手なことしか言ってない。やらかした…
「あら。珍しいわねぇ〜。高山高校に通っている人以外の若い人なんて。しかもカップル?新婚さん?いいわねぇ〜お似合いよ!」
どうやらいい人そうだ。良かった。って、カップル?そう見える?釣り合って見えるってことだよね?嬉しいかも。
まあ、ここはカップルを否定する展開だな。ラブコメなら。
「カップルでは…」
「はい!カップルです!」
「えっ!」
俺が否定しようとした瞬間、優香が肯定してきた。もしかして、脈アリ?
「あら!やっぱりね!おばちゃんの目は正しいわね!外は寒いでしょ?ちょっと上がってお茶でも飲んでいかない?」
「ありがとうございます!」
優香の即決により待ち時間の暇つぶしが出来そうだ。
※※※
農家のおばちゃん宅にて
「そうなの!ホントうちの人は困った人でしょ?」
「すごいですね〜。お会いしてみたかったです!」
現在午後三時半。長い時間農家のおばちゃんの家でくつろがさせてもらってしまった。今は優香とおばちゃんが話している。ここに来てから優香のコミュ力の高さには驚かされるばかりだ。てっきり俺と同じで人と話すのが苦手なものだと思いこんでいたが、違ったようだ。
「なあ優香、そろそろ行ったほうがいいんじゃないか?」
「そうだね」
「おばあちゃん、友達の下校する時間まであと少しなので、そろそろ行こうと思います。ありがとうございました!」
「あら。もう行っちゃうの?寂しくなるわね〜。またいつでも来ていいのよ!今度は彼氏さんとももっとお話したいしね!」
「彼氏だなんて…」
照れるなぁ。
おばあちゃんは俺たちが見えなくなるまで見送ってくれた。ほんとにいい人だったな。
※※※
「そろそろかな?」
「そろそろだな」
現在時刻、午後四時。大山三郷の予想される下校時刻である。
下校する生徒はすでに多く見たが、未だに大山三郷の姿は見えない。
高山高校の女子の制服は現代では珍しい、セーラー服。最高だ。なんで最近はブレザーなんてのが主流なんだろうね。絶対セーラー服しか勝たん!
「あの子だよね?」
優香が大山三郷を発見したようだ。セーラー服を着た女子は俺からしたら、通常の1.5倍くらい可愛く見えるので、高山高校の女子生徒全員お持ち帰りしたいところなのだが、その中でも大山三郷は群を抜いて目立っている。優香に負けず劣らずの美少女だからだ。
「随分と囲まれているな」
俺や優香と違い、友達も多そうだ。ちなみに周りは女子だけだが。
「話しかけづらいね。どうしよっか?」
「そうだな、もう少し近くに来るまで様子見をしよう」
よく見ると、大山三郷の周囲の女子たちが泣いている。えっ!?どういう状況なん?
会話の内容が近づくにつれて、聞こえるようになってきた。
『寂しくなるね〜』『本当にいなくなっちゃうの?』
『いやだぁ〜!ミサっちゃんと離れたくない!!』
『転校しないで〜!』
はい!?転校するの?確か、大山三郷も俺らと同じで、高校入学から数日と経っていないはずなのだが?
『だから、まだあと一ヶ月後だから、今から泣いてどうするのよ』
『グスンッ。ごめん。でも、畑高校でしょ?すごいね!同じ高校生として鼻が高いよ!』
そんな会話が聞こえてくる。今、畑高校とかいうワードが聞こえたような…
「なあ優香、畑高って…」
「言ってたね、大山三郷って子が」
盛大なフラグ回収じゃん!まさか、南出先生が言ってた5月からの転入試験最高点やろうが、大山三郷だったのかよ!
『あれ?そこにいらっしゃるのは葉音さんじゃないですか!』
俺と優香が困惑しているうちに大山三郷に見つかった。
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