第12話 ない!?

 教室に入ると、俺の椅子はなかった。机だけになっていた。


 はっ!?ナニソレ!いじめのテンプレかよ!椅子ないとか地味に嫌がらせなんだが。俺に一日空気椅子でいろと?


「あれ?ハオの椅子なくない?宿題忘れたのび太なの?廊下に立ってる?」


「なわけあるか!普通にいじめだよ!」


「そ、そっか。でも、どうしようね、椅子ないと授業受けられないよ?あっ!黒井さんの空気椅子の上に座ってる?」


 なんだよ、その黒井さんに対するドSプレイは。


「空き教室から椅子借りてくるよ」


「なんだか、この状況に慣れてない?ハオ、すごい冷静だし、普通の人ならすごく焦るよ?」


 確かにな。慣れている。


「焦るには焦っているよ。でも、中学のときのほうがレベル高かったから、これくらいじゃあ慌てることもない」


 中学の頃のいじめはひどかった。アニオタだからとキモがられるのはまだいい。だが、俺の場合は、アニメやドラマでありがちな『THEいじめ』のオンパレードだった。


 机に墨で『○ね』と書かれたり、トイレの個室にいるときに上からバケツで水をかけられたり、上履きに画鋲が入っていたり。


 何度も中学の教師陣に言ったが、相手にされなかった。なんせ、いじめてきたのは、普段先生に対して常に媚を売り、好かれているようなクラストップカーストの奴らだったからだ。あと、多分、先生も面倒くさかったのだと思う。中学なんかクソ喰らえだ。


 だから慣れている。こんな生ぬるいいじめなんかへでもない。


「大変だったんだね。うん…」


 優香にめちゃくちゃ哀れまれた。


「まあ、大丈夫だ。今日は学校に来た時間が早いからな。椅子を持ってきても十分朝のホームルームまでに間に合う。それじゃあ、とってくるわ。あっ、エリュシデータとカバン見張っといてくれるか?」


「オーケー!いってらっしゃい」


 俺は唯一残っている机の上にエリュシデータとカバンを置き、空き教室の椅子を取りに走り出した。


※※※


 後ろにボディーガードはついていたが、特に問題はなく椅子は獲得した。


 教室に着くと、優香が、アスナが姿勢よく椅子に座っていた。


「あっ。キリトくんおかえりなさい!」


 おいいいい!学校で『キリトくん』はやめろって!


「流石にやめてくれ学校で『キリトくん』って呼ぶの」


「え〜。じゃあ、『桐ヶ谷くん』は?」


「結局キリトじゃねえか!」 


「いやいや、直葉の可能性もあるでしょ!」


 いや、ねえよ。俺、男だし!


「頼むって優香」


「私〜優香じゃないから頼まれませ〜ん!」


 う、うぜー!いくら可愛くてもうぜー!


「ほんとお願いしますアスナ!」


「しょうがないな〜キリトくんは!」


「だからやめろって!」



 このあとは特に問題もなく、朝のホームルームが始まった。



※※※


 朝のホームルーム


 南出先生が教室に入ってきた。


「おはようございます!今日も元気に過ごしましょう!……とする前に、早くも新しい1年5組の仲間が増えることをお知らせします!」


 どういうことだ?『増えることをお知らせする』?紹介じゃないのか?


「性別と名前は本人に後日自己紹介をしてもらいますが、一つ言えることは、畑高の編入試験の数値、歴代最高を記録した人だということです!」


 マジすか!?


 周囲も動揺を隠せていないようだ。


「あっ、一つ勘違いしてほしくないのは、畑高の編入試験は普通の入試ではなくて、IQの数値で合否が決まるので、みなさんの受けた試験とはまた性質が違うものなのです」


 なんだ。そういうことか。…だとしてもすごいな!


 すると。


「なんで『お知らせ』なんですか?本人は来てないんですか?」


 クラスの陽キャっぽい男子の一人が質問した。みんな思うことは同じってことか。


「それはですね、実はまだ、入学式から4日しか経っていないのですよ。だから手続きの問題で来月から1年5組に加わります」


 そういえば、そうだった。色々あり過ぎて、入学から一ヶ月くらい経っていると思ってた。


「なのでお知らせです。ぜひ、転入生に優しくしてあげてくださいね!では、朝のホームルームを終わりにします」



※※※


 終了後


 グサッ


 背中に激痛が走る


「痛っ!な、なんだよ優香!」


 後ろを向くと、目をキラキラと輝かせた涼宮ハルヒにコスプレした優香がいた。いつ着替えたんだよ!


「ねえキョン!これは絶対謎の転校生よ!古泉くんよ!超能力者よ!」


 キリトの次はまたキョンかよ!


「おいハルヒ、それじゃあ謎の転校生がみんな超能力者になっちまうぞ」


 キョンっぽく返してみた。


「さっすが〜!わかってる〜!」


 しかし、本当に謎の転校生かもしれん。まだ入学から四日目なのに、もう転校を考えるなんて。


「あっ、そろそろ授業始まるぞ。ええっと、一時間目はっと…って、現国じゃん!」


 忘れてたー!教科書、コーヒーで死んでたの!


 昨日、コーヒーをこぼされた現国の教科書は、乾くと、ページとページがくっつき、開くことが実質不可能となった。高校の教科書って高いんだぞ!


「すまん!優香!教科書今回も見せてくれ!」


「しょうがないな〜キリトくんは〜」


 見るとまたアスナの装備に戻っていた。ほんと、どんだけ着替えるの早いんだよ!むしろ、お前が超能力者だよ!


「頼む!」


「いいよ!」


 

 この時間はなんとか優香に見せてもらって乗り切れた。まじで、教科書どうしよう。










 






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