第9話 しちゃう!?
「ちょっ、待てよ!」
優香においていかれた俺は急いで家に入る。
「あら、おかえり葉音」
「おかえり。遅かったねハオ。待ちくたびれちゃったよ」
俺の立ち尽くしていたほんの30秒の間に優香はしっかり俺の家に馴染んでいた。
「何まったりくつろいでんだ!!」
「優香ちゃん。お茶をどうぞ」
「ごていねいにどうも」
「無視するなよ!!」
空気か俺は!
「はいはい今行きますよ〜。よっこらせっと!」
年寄りかお前は!
ちょいちょいと母が手招きをしている。
「すまん優香、僕の部屋は二階の一番手前ところだから先に行っていてくれ」
「了解であります!」
優香は二階に消えていった。
「で、なんだよ母さん」
「葉音!なんなの?どうしたの?明日世界が崩壊するの?優香って子、かわいすぎじゃありません?まさしく絶世の美少女!キモオタ葉音にガールフレンド?キモオタに?ああああもう!どうしよう!」
どうもしねえよ!それに母さん、興奮しすぎて死にそうですよ!あと、キモオタ言うなって!!
「優香は普通に、俺の席の後ろの子。別に変な関係とかやましい関係とかじゃない!あと、入試はトップ合格」
こう語ると、トップ合格はインパクト強いな。
「なに?あんなにかわいくて、頭までいいの?完璧じゃない!よくやったわね葉音!今日は赤飯よ!」
いや、なんでだよ!うん、でもたしかに、俺、よくやった!
「今日は俺が集団リンチにあったからそれの作戦会議をするためにうちに来たの」
「おk」
LINEかよ!反応薄っす!もっと息子の心配しようよ。
「じゃあ、行くから」
「ちょっと待って、一つ言っておくけど、うちの壁や床は薄いからね」
俺らがこれからなにをすると思っているんだこの母親は。
「わかったよ」
俺も二階に上がって行った。
※※※
カチャッ
ドアを開けると、目の前に優香が正座をして待っていた。
「うおっ!どうしたんだ優香。なにかあったのか?」
「ね、ねえ葉音」
「ど、どうした優香?」
「今日、これから、私たち、しちゃうの?」
おおおおおい!ハハオヤー!聞こえちゃって、勘違いされてるよー!壁と床が薄いのは証明されたけど!
まあ、まともに反応するのもだめな気がする。
「しちゃうって、な、なにをだ?」
「するって言ったら、そりゃ〜もう、大人の?階段?みたいなの?上がっちゃう?二人で?」
なんか顔が火照ってますけど!?優香さん?
「す、するわけ…」
「私、その、はじめて、だけどいい?」
恥ずかしいことまで暴露されちゃって、あとに引けない展開になっちゃってますけど!?どうすればいいんだよ!
「そ、そのな、まだ、出会って三日目の僕らがするのには早すぎるんじゃない、かな?うん。ドメカノじゃあるまいし」
※ドメカノは『ドメスティックな彼女』の略称で
す。
「そ、そうだよね、まだ、ほぼ中学生、だもんね!なんかごめん、気まずい空気にしちゃって」
「いや全然…」
どうしよー!めっちゃ気まずいんだが!いっそ、逃げ出したいのだが!オオ、マイ、ゴッド!
「そうだ、作戦会議だったよね。本題に戻そう!」
「お、おう!」
優香に助けられたな。
※※※
「まずは状況整理をしよう。ラブレターがハオの下駄箱に入れられたのが昨日。朝には入っていなかったことから、犯行はハオが下駄箱に靴を入れてから放課後に靴を取り出すまでの約5時間、でいいよね?」
※昨日は5時間授業でした。
「ラブレターではないが、そういうことだ。5時間か、広いな」
「そして今日、新たな事件が起きた。その名も『現国教科書お漏らし事件』!」
お漏らしはやめてくれ。あと、優香、名前つけるの好きすぎないか?
「この犯行は昨日私が最後まで教室にいたから、4時半から私が最初に教室に入ったから朝の6時半までの間に限られる」
これはまた随分と長い滞在時間で。
「これじゃあ、犯人は全く分からないぞ。多分コナンでも金田一でもわからん」
「いや、私にはわかる!事件は複数の、しかも男子の集団によるものだということがね!」
あんだけ囲まれたら誰でもわかるだろ!
「だとしたら、どうなんだ?これがわかったからと言って、これといった手の打ちようもない。完璧に詰んだな」
俺が優香と親しくするのをやめたら済む問題だが、それは嫌だ。もう非リアに戻りたくねー!
「それがね、あるんだよ、ワトソンくん」
「ほう?」
「その名も『不登校』という手がね!」
あっ、こいつ使えねーわ。勉強できても、中身はアホだ。美少女の面を被った勉強が日本一できる猿だ。
俺が、哀れんだ目で優香を見ると。
「冗談だって!やめて!そんな目で見ないで!」
「他に案はないのか?」
そういえばつい2時間前にも同じようなことを話していたような気がする。
「ボディーガードをつける!」
「真面目にしろ!」
つい殴りたくなったが、優香がかわいいからできない。ずるいぞ美少女は!
「真面目に言ってるんだけど」
「まじ?」
「まじまじ!」
どうやら本気らしい。どこにボディーガードをつけるお金があるんだか。
「うちはそこまで裕福じゃないぞ」
多分、極めて平均的な家庭だと思う。
「別にお金はかからないって。私の家のを使うから」
今なんつった?私の家の?
「?」
「二人、でいいよね?もっと多いほうがいい?」
「えっ、いいや…」
状況が全く理解できていないのだが!?
「じゃあ、二人で。ちょっと電話するから待っててね」
「お、おう」
…プルルルる……プルルルる…
「あっ、お父さん?いま暇?お願いしたいことがあるんだけど、いいかな?…………………うん。わかった。帰ったらでいいよ。じゃあ」
どうやら電話相手は優香の父親で、もう会話は終わったらしい。
「どうなったんだ?」
「今忙しいみたいだから、お父さんが家に帰ってからお願いするね!多分大丈夫だと思う。お父さんは私のお願いなら絶対イヤって言えないから!」
優香は一体どんな父親の弱みを握っているんだ!
「わかった。で、どうする?このあと」
「私はそろそろ帰ろうかな。対策も私の名案のおかげでなんとかなったし」
ボディーガードが本気なのかは未だ不明だが、優香との時間は楽しかった。だから寂しい…
「そうか。ありがとな。少し気が楽になった。帰るんだったら送ろうか?」
「大丈夫!まだ明るいし!」
※ただいまPM4:00
「それもそうか。せめて、見送りくらいさせてくれ」
「わかった!じゃあ、行こうか」
下に降りると
「あら、優香ちゃん?もう帰っちゃうの?泊まっていけばいいのに〜」
母さんがとても寂しそうにこちらを見ている。
「いえいえ。ご迷惑になってしまうので。お気遣いありがとうございます」
「別にいいのに〜」
「ほら、母さん。優香も困ってるだろ」
「ちぇ〜また遊びに来てね!」
『ちぇ〜』って、リアルで言うやつここにもおりましたわ。しかも身内に。ごめん優香。
「はい!またお邪魔させていただきます」
「僕は優香をすぐそこまで送ってくから母さんは先に家に入っててくれ」
※※※
母さんが家に入った後
「優香、わざわざ僕のために早退までしてくれてありがとな」
「別に大したことないって!」
優香はいい子なのである。
「あっ!電車が行っちゃうから私急ぐね!」
「おう」
「また明日〜!」
優香は曲がり角を曲がり、姿が見えなくなった。
明日からどうなることやら…
などと考えていると、足音が戻ってきた。
「ごめん!一つ言い忘れてた!明日は車で迎えに来るから6時15分までには学校行く準備済ませといてね!それじゃ!」
長めのセリフを言い残し、また去っていった。
はっ?車?迎えに来る?なんで?あっ、ボディーガードね!………って、マジだったの!?
このあと、母さんにたくさん質問攻めにされるのだが、とりあえず怒涛の入学三日目は終了した。
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