第4話 自己紹介⑵
今日は雨が降っていた。
が、彼女はいた。
「先輩」
「おっ、お疲れ様」
昨日と似たような会話を繰り返す。彼女と話す事が、楓の日常になりつつあった。
2人で、歩き出す。そして彼女が楓に話を振る。これが2人の会話のルーティーンだ。
「昨日は可愛い楓くんが見れて君が成長していくような気がして、嬉しいようで寂しかったよ。」
「ママ?」
「なるほど。今まで付き合うとかそういう視点でしか考えられなかったけど母親枠でも良いのね…!私、頑張るから!」
手を回して自分を抱きしめるようにしてモジモジする彼女。今日も通常運行だ。
昨日はその前に話していた彼女からの落とす宣誓に基づき、まずはお互いを知ろうという流れで自己紹介をすることになった。彼女は楓が彼女のことに興味を持つことが幾分嬉しいようですぐに調子に乗る。だから今日は彼女があまり調子に乗らぬようあまり深入りしないようにしようと考えた。
彼女とは最近見知ったということもあり、あまり彼女についての詳細が分からない。多分これからも付き纏われるのだと予想がつく。故に少しでも彼女のことは知っておいた方が安心だと判断したのだ。
しかし、質問と言ってもあまり調子に乗らない程度に、でも内容が分かるような聞き方をせねばならない。
その中で、楓にとっては何故高校生で一人暮らしを始めたのかがとても気がかりだった。楓の場合、親と家庭の影響で一人暮らしはそこそこできる環境であった。しかし一般の家庭だとそう上手くいくものでは無い。彼女も楓と同じく裕福なのか、はたまた親子間でもっと深刻な事情があるのかもしれない。後者の場合あまり触れてはいけない部分もある。人の事を知るということは慎重にいくべきことだと思った。
「先輩って、なんであのマンションに住んでるんですか?」
雨が傘に弾ける音が楓の声と混ざり合う。その影響でいつもより大きな声で話しかけた。
楓は、一人暮らしではなくあのマンションについて質問することでそれなりのグレーゾーンを攻めてみた。
「梶原くんが私に興味を持ってくれることに感激だよ。もしかして私の事もう好きになっちゃったの?あぁ、私、罪だわ〜!」
「ほんっと調子に乗らないで下さい。」
やはり彼女に楓から話しかけるといつもこうなる。これからはできるだけ楓から話しかけるのは避けたいと思った。
「それで、何でなんですか?」
彼女は少し下を向いて、笑い話のように言った。
「まぁ、なんか私の家父子家庭なんだけど、お父さんと色々あって。」
内心で「やってしまった…!」と叫んだ。全然グレーゾーンじゃないし、寧ろしっかり地雷を踏んだ。先程の、『ママ?』発言もそこそこ危うい。
この時ばかりは彼女に申し訳ないと思った。
彼女はさっきまでの余裕とは打って変わって少し申し訳なさそうに下を見ていた。
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