第2話 告白

「…………………は?」

 思わぬ発言にあっけらかんな声を出す。


「ん?分からない?好き、アイラブユー、ウォーアイニー、サランヘヨ、ジュテーム!」

「…え?」

 不意打ちの告白に理解が追いつかない。つい最近あったばかりの、隣人の、学校の先輩で。

「私は梶原くんが好きになった。一目見て運命だと思ったのよ。」

「何言って…」

「だから決めたの。梶原くんが私を好きになるように、絶対梶原くんを落としてみせるって。」

 

 どうやら本当に彼女はイカれてしまったようだ。こんなに正々堂々とカミングアウトする勇気も、楓を好きになるのも納得がいかない。

 そもそも何故楓のことが好きになったのか、運命とかそんな夢見心地な理由ならば彼女がよっぽどの物語上の恋愛しか知らないか、相当な尻軽かの二択だ。前者だった場合、もっとも、世界は広い。隣の家に引越してきた後輩なんかよりももっと良い人なんて世の中見渡せばわんさかいる。しかし後者だとしても、丁度よさそうな年下の男の子として利用されるのは気に食わない。先ず、そんな理由で初めてを奪われるのは嫌だし、何より最初は好きな子としたい。

 どんな理由であれ、彼女が楓を好きになるということはまともでは無いということ。ここは早急に対処してあまり関わらないのが1番だと判断した。


「先輩、申し訳ないですが先輩の気持ちにはお応えできません。」

 そう言うなり、彼女はさっきまでの自信満々の態度とは変わって少し落ち込んでいた。この様子からやはり本当に楓が好きだったのかと伺える。

「分かってたわ。こんなお互いの事を全然知らない相手に突然言われても困るわよね。」

「はい。ですからこのことは無かったことにするのでこれからも隣人の先輩として…」

「そうよね。じゃあこれからお互いを知っていけば良いのよね。」

「はい…ですから今後ともよろしくおね…ってえ?」

「まずはしっかりとした自己紹介から、そして私の家族や家柄とか」

「いやいや違いますって。『お互いの事を全然知らない相手』のところじゃなくて『困るわよね』のところに同意したわけであって…」

「まぁ!そんなにきっちり復唱できるほど私の言葉を覚えてくれていたなんて嬉しい。」

 さっきの落ち込んだ様子はどこえやらと、彼女の笑顔は復活している。

「じゃあ『突然言われても』というのは同意したわけよね?即ち私には梶原くんを落とす余地があるということね!」

 自分的には結構ざっくりと酷い振り方をしたと思っていたが彼女のダメージはゼロのようだ。しかも彼女の野心に火をつけてしまっている節すらある。

 楓のこっぴどい振りでもダメージを負うどころか、もうすでに治癒されている。こんなことを言われてもめげないという彼女のメンタルは多分鉄で出来ているに違いない。いや、ダイヤモンドの方が適当だろうか。


「じゃあ、明日も待ってるから。改札出たところ。じゃあね。」

 気付くともう家に着いていた。手を振って鍵を開け、颯爽と家に入っていく彼女。こんな話をしておきながらも平然と行ってしまった。そして明日、と次の約束までちゃっかり済ませている。


 明日どんな顔で先輩に会ったら良いのか、はたまた会うべきなのか、手を振る彼女が脳内で再生される中、同じ色のドアを見つめて考えた。

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