第31話千変万化必殺攻撃
「ーーッ!!」
マインは自分から太刀を手放す。
そして上半身を思い切りそらした。
その勢いで小柄なマインの体が跳び、パルディオスの頭上を過ってゆく。
「らぁぁぁぁ!」
「うがっ!!」
パルディオスの背後へ回ったマインは、奴の背中へ盛大な蹴りをお見舞いする。
予想外の攻撃を受けたパルディオスは、受け身も取れず吹っ飛んだ!
「ぎゃぁー! 鼻血がぁー!! てめぇ、剣豪だろ!? 刀剣手放して、蹴り飛ばす奴があるぁー!!」
起き上がったパルディオスくんは鼻血をゴシゴシ拭きながら文句を叫ぶ。
しかしマインは彼の文句など気にした素振りも見せず、地面に転がった綾祢正宗の柄を蹴り上げ、手中に収める。
「これぞ千変万化必殺攻撃! 蹴ろうがなにをしようが、お前を倒せば良いという、我が師からの教えだぁ!!」
再び太刀を手にしたマインは、パルディオスくんへ突っ込んでゆく。
鼻血まみれのパルディオスくんはマインの上段切りをバックステップで避けてみせた。
するとマインは刀剣を軸にし、横へ体を振る。
「そらぁ!」
「ぎゃっ!!」
マインの蹴りが再度、パルディオスくんの脇腹を殴打する。
「だからてめぇは剣豪だろうが! 蹴るなんてルール違反だぁ!!」
「お前を倒すためだったら某はなんでもしよう!」
マインは再び刀剣を構え、パルディオスくんとの距離を詰め始めた。
先程までは身の丈に合わない太刀の重さや、長さに翻弄され、隙を作っていたマイン。
だけど、今はその反動を生かして、飛んだり、跳ねたり、時々蹴りをかましたりなど、完全に"流れに身を任せていた"。
「ああ、もう! うぜぇ! うぜぇぇぇ!!」
パルディオスくんはマインに散々、蹴られ、切られ、怒り心頭なご様子。
鼻血を垂れ流しながら、暴れ回るその姿は、側から見ても情けない。
さっきまで黄色い歓声を送っていた女性観客も、ドン引き状態だ。
「パルディ、ライザぁぁぁぁ!!」
しかしそんな周りのリアクションなど目もくれず、パルディオスくんは大技を放った。
マインは太刀をより大きく地面へ打った。
強い反動がマインの体を宙へ浮かび上がらせる。
彼女はパルディオスくんの黄金の刃を避け、綾祢正宗もろとも、彼の背後へ回り込んだ。
「お覚悟! 地雷一刀流奥義!」
「ーー!!」
「四の型! 風神斬!」
「ぎやぁぁぁぁぁ!!」
綾祢正宗が巻き起こした旋風が、パルディオスくんを紙切れのように吹き飛ばした。
砂浜へ思い切り叩きつけられたパルディオスくんは、ピクリとも動かない。
その様子をみて、試合終了を告げる銅鑼が三回打ち鳴らされる。
そして湧き上がった歓声と拍手の数々。
マインは歓声の中、静かに太刀を鞘に収める。
そして満面の笑みで観衆へ手を振り始めた。
「うう……も、もう我慢できねぇ! ちょっとマインとやってくる!!」
「だ、ダメだよコン! 今はだめぇー!」
「コン姉どーどー」
ふと、マインがこちらの方へ歩み寄ってくる。
そして俺たちへ向かって深々と頭を下げた。
「三姉妹の皆さん、応援ありがとうございました! とても心強かったです!」
「マイン! 次はあたしとやるぞ! めっちゃ激しく行くぞ! 覚悟しとけよ!」
「あはは……ごめんね、マインちゃん。コン、割と戦闘狂でさぁ……」
「マイマイ、コン姉に逝かされないよう気をつける!」
「こ、心得ました!」
マインは三姉妹へ再度会釈をすると、俺へ視線を向けてくる。
その熱さに、俺の胸は意図せずドキリと音を放った。
「トクザ殿……素晴らしいアドバイスをありがとうございました!」
「いえいえ。むしろ、あんな言葉だけで、全部察したマインの方が凄いと思うぜ?」
そういうと、マインは嬉しそうに笑いつつ、頬を赤らめる。
「ありがとうございます。その上でお願いがあります……」
「優勝したんだ。お祝いだ! 俺ができることだったらなんでも聞いてやる!」
「ありがとうございます! では……これからもどうか、某をお導きください。某の師として側にいてください。お願いいたします!」
「お安い御用だ! 格安で引き受けてやる。そしてお前のことをもっと強くしてやる。覚悟しとくんだぞ!」
「はい!」
……三姉妹からは特に反対がなさそうだから……オッケーってことなんだろう。
むしろ、マインの行く末を、元冒険者としても見守ってゆきたいという気持ちもあった。
そんなほっこりした気持ちの中、ようやく周りがざわついていることに気がついた。
「お、おい、なんだよアイツ?」
「なんか様子がおかしいぞ!?」
「ガァァァァー!!」
突然、獣のような咆哮が聞こえ、会場全体が凍りついた。
皆の視線の先には、大斧を携えた大男が1人。
たしかマインが初戦で倒した奴だ。
そいつは空な視線で会場をぐるりと身わたす。
「カァァァァ!!」
まるで魔物のような掠れ声を上げた。
すると砂の中か次々と黒光りする甲殻に覆われた"蛆"のような怪物が姿を表す。
俺はその虫のような怪物に見覚えがあった。
そして無理やり、過去の嫌な記憶を思い出してしまう。
ーー虫に背中を食い破られ寄生された若い2人の冒険者。
彼女と彼は涙を流しつつ、かつての俺へ最悪の願いを口にする。
『兄貴、殺してくれよ……』
『トクさん、殺して! もう私とサフトは……!』
地面から溢れ出た虫によって、大会会場は恐慌状態に陥っていた。
「先生! 私たち行きます!」
「身体が疼いてたんだ! ちょうど良いってもんだ!」
「シンの闇の炎が全てを焼き尽くす!」
三姉妹は飛び出し、虫へ立ち向かってゆく。
「某も助力いたそう!」
マインもまた虫の群れへ突っ込んでゆく。
……ちなみにパルディオスくんは、気絶したまま、大会関係者に搬送されているのだった。
「レイジングアロー!」
キュウは空へ向かって輝きを帯びた矢を放つ。
矢は空中で無数に別れ、雨のように降り注ぎ虫を射る。
「行くぜ……岩石割りで決めだぁ!」
コンの力が十分にこもったハルバートが砂ごと虫を押しつぶす。
「ダークネスファイヤー!」
シンは暗色の炎を放ち、虫を次々と灰へ変えている。
「地雷流ニの型……水流閃!」
マインは清流のような鮮やかな動作で、虫を切り裂いている。
特に先ほど身につけた"太刀の重さへ身を任せる"動作は鮮やかだった。
4人は圧倒的な力で虫を次々と駆逐している。
しかしいくら倒そうとも、中心である巣となった大男が虫を吐き出しているため、数が一向に減らない。
(やはり、あの男をやらなきゃダメか……!)
頭ではわかっているし、4人へ指示を出すことはできる。
でもここで虫の退治を止めさせると、未だに避難が完了していない観客に被害が及んでしまう。
それに4人の体力も無尽蔵じゃない。
もしも、今の勢いが少しでも削がれれば、結末は……
(やはりここは俺が……!)
その時、背後に妙な気配を感じ取り手を掲げる。
すると、打刀が手に収まった。
「使いなさい! 冒険者ギルドからの貸与品よ!」
「なんだよ、俺にやれってか?」
軽装姿のローゼンへ、そういうと彼女はニヤリと笑みを浮かべた。
「良いじゃない! 今のトク、暇そうだし!」
「そりゃそうだ! こんな時、暇してるのは良くねぇよな!」
「道は私が開いてやるわ!」
ローゼンは飛び出し、癇癪玉をばら撒いた。
無数の爆発が巻き起こり、地面の虫をはじけさせる。
そして虫を吐き出す大男への一本道が形作られた。
俺は腰に差した打刀の柄を強く握り始める。
瞬間、かつての勘が、意思が蘇った。
意識を集中させ、森の静謐のような穏やかな心持ちで、強く地面を踏み蹴る。
「ガッ……ゴッゴ……!?」
「鬼神流ーー豪覇鬼神剣。あの子達に人殺しさせるわけにはいかねぇからな……悪いけど天に召されてくれや……」
「ガァァァァーー!!」
虫に寄生された大男は斬撃と共に流し込まれた魔力によって、巣食っていた虫もろとも弾け飛んだ。
発生源は絶ったわけだし、後は三姉妹とマインに任せて大丈夫だろう。
その時、妙な視線が注がれていることに気がついた。
俺の視界の隅。
木陰から俺の様子を伺っていたローブを羽織った誰か。
奴はローブを翻し、俺へ背を向ける。
虫の甲殻のようなもので覆われた右腕がちらりとみえた。
その右腕を見た途端、俺の胸はざわついた。
(右腕が甲殻に覆われた魔族……まさかあいつは!?)
しかしすでに"右腕が甲殻で覆われた魔族"の姿は消失しているのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます