第30話マイン対パルディオス 因縁の対決!
「では、行って参ります!」
マインは気合十分な様子で、砂浜に設けられた剣術大会の会場へ入ってゆく。
「マインちゃん、頑張って! 今夜もカニ食べようね!」
「しっかりな、マイン! カニがお前を待ってるぜ!」
「マイマイ、がむばれ! カニカニー!」
マインは苦笑いを浮かべている。
応援は嬉しいけど、カニはもう結構……といったところだろうか。
かくしてトーナメント形式の剣術大会が始まった。
観光客を含んだ観客も多い。
「冷たいジュースはいかがですかぁ!?ジュースぅー!」
おや? あそこでジュースを売っているのは、アクトか?
よく稼ぐねぇ。
「先生! 始まりますよ!」
歓声が弾け、凛々しい表情をしたマインが闘技場へ姿を表す。
そして対戦相手は……
「ぐははは! なんだチビ助か!」
マインよりも遥に大柄で、筋肉モリモリな、大斧を武器にした男……って、武器が斧? 剣術大会なのに?
よくよくチラシをみてみると、この大会は剣術大会とありながら、飛び道具と徒手空拳以外はなんでもありらしい。
まぁ、実際の剣術って地味だから、仕方ないかもしれないけどさぁ……
その時大きな銅鑼の音が鳴り、試合開始の合図が出された。
マインは相手の大男に臆せず、太刀の柄へ手を伸ばす。
そしてここからでもわかるほどの、鋭い緊張感を放った。
さすがは現役の青等級冒険者といったところか。
それぞれの武器には魔法で保護がかけられ、相手を殺したり、部位欠損を引き起こすような怪我は負わせられないようにはなっている。だけど、相応かそれ以上の痛みが伴うらしい。
「ぶっ潰してやるぜぇぇぇ!」
斧の大男が先手をうち、マインへ飛びかかる。
しかしマインはいまだに動こうとはしない。
そして大男の大斧が地面を穿った。
激しく砂塵が沸き起こる。
大男の体も僅かに地面から浮き上がっていた。
どうやらあの斧は相当な重さで、破壊力は抜群らしい。
「どんどん行くぞぉ!」
大男は重い大斧の反動を利用して、球のように飛び跳ねた。
筋肉モリモリの大男が、ぴょんぴょん跳ねているんだから、奇妙に見えて仕方がない。
マインは大男の奇怪な攻撃動作を冷静に見極めながら、避け続けている。
「おらおらどうしたぁ! 逃げてばかりじゃ試合にならねぇぞぉ!」
「……!」
大男の大斧が激しく地面を穿つ。
足が地面から浮き上がる。
次の瞬間、鋭い輝きが大男を過った。
マインは多少よろけながらも、既に男の背後で太刀を抜いていた。
「見切った!」
「がはっ!」
大男の胸当ては深く、綺麗に切り裂かれていた。
手からは大斧が離れて落ち、大男は仰向けに倒れ込んで、ピクリとも動かなくなる。
一瞬、俺を含めて、会場にいる全員が息を呑んだ。
しかすすぐさま、割れんばかりの歓声が響き渡る。
「マインちゃん、凄い! かっこいい! 惚れちゃうよぉー!』
「やべぇ……あたしもマインと戦いたくなってきた!」
「マイマイ、クールぅー!」
こりゃ、優勝候補間違いなしだな!
それからマインは、並み居る対戦相手をばったばったと薙ぎ倒し、順調に駒を進めていった。
周りからも、マインを称賛する声がたくさん聞こえてきている。
しかしマインの活躍を見守っていた、俺と三姉妹は手放しでは喜べずにいた。
「これでもくらぇー! パルディライザぁー!」
「ぎやぁぁぁ!!」
金色輝く剣が対戦相手を容赦なく薙ぎ倒す。
光が掃けた先には、キザっぽく前髪をかきあげる、見た目だけはまぁまぁイケてる若い男。
黄色い歓声が沸き起こるたびに、パルディオスくんは慣れた手つきで手を振って答えていた。
「みんななんであんなのが良いのかなぁ……」
「アイツの顔見てるとムカムカすんだよな!」
「でも、パルディオスすごく強い」
シンの言葉に、俺を含めキュウやコンも口を閉ざす。
どうやらパルディオスくんは、勇者じゃなくなったのが悔しいのか、剣の修練を相当積んだらしい。
俺から見ても、足捌きやブロートソードの扱い方まで完璧だ。
(真面目にやってりゃ、凄い奴なのになパルディオスくんは……)
とはいっても、真面目にできないのもまたパルディオスくんなのである。
大会は順調に進んで行き、そして……予想通り、決勝戦はマイン対パルディオスとなった。
「よぉ、マイン。まさかてめぇともう一度こうしてやりあえる日が来るとはな!」
「あの時は某が敗れました。しかし! 今回こそは負けません!」
「はは! 良い度胸だ! だけど今の俺は、あの時よりも強いぜ?」
「某も以前の某ではありません! いざ、尋常に勝負!」
銅鑼が鳴り響き、試合が始まった。
マインとパルディオスは互いに剣を構え、出方を伺い始める。
張り詰めた緊張感が会場全体を包み込み、観客全員が息を呑む。
(2人ともたいしたもんだな。さてどっちから攻めるか……)
「ーーがっ!?」
突然、マインの体がくの字の折れ曲がった。
パルディオスはブロートソードを振り抜き、マインを薙ぎ倒す。
一瞬の出来事に、会場へ更なる緊張感が走る。
「俺がちょーっと動いただけで、突っ込んでくるたぁ相変わらずだな?」
「くっ……!」
「ほら、来いよ!」
パルディオスは再び剣を構えた。
マインも冷静さを取り戻し、太刀を構え直す。
再度、会場全体へ張り詰めた空気が漂う。
「うがっ……!」
「おいおい、こっちが動かなからって、ずっと構えてるバカがどこにいる?」
またしてもマインはパルディオスの剣で薙ぎ倒された。
先手を取られてしまったらしい。
「ちぃ!」
マインは飛び起きるのと同時に、太刀を薙いだ。
勢いが出過ぎて、体格に見合わない太刀が、マインの軸をずらして、視界からパルディオスを外してしまう。
そんなマインの頬をパルディオスは剣の柄で殴り飛ばした。
「うぐっ! お、おのれ……!」
「もし真剣勝負だったら、お前、俺に首を刎ねられてたぜ?」
「くっ……ぬわぁぁぁぁ!!」
マインは悔しそうな叫びを上げながら、パルディオスへ突っ込んでゆく。
勢いは良し。剣筋も悪くはない。
しかし鈍重な太刀は、僅かに小柄なマインの体を振り回していた。
それがわかっているのか、パルディオスは軽く体を動かすだけで、軽々と避けて見せている。
「ほらほら、どうした? 切ってみろよ! 俺に当ててみろよ!」
「くぅっ!」
「この俺に敵うと思うなぁ!」
パルディオスは鮮やかな足捌きで、マインの上段切りをかわした。
そして背後へ回り込み、ガラ空きのマインの背中へ剣を叩き込む。
「マ、マインちゃん勝てるよね? 大丈夫だよね……?」
「だ、大丈夫だよ、きっとマインなら……」
「マイマイ、がむばる!」
三姉妹も必死に応援している。
しかし分が悪い。
パルディオスはマインの癖を熟知している。
マインの体が重くて大きな太刀に合っていないことさえも。
もしも昨晩のうちに、この大会だけは太刀の使用を諦めさせて、より軽量な打刀にさせていれば……しかし、これはたらればだ。
今更どうすることもできない。
(もしもパルディオスでさえ知らない動作をできればあるいは……!?)
その時、俺の頭にマインの初戦で対峙した大斧の大男のことが浮かび上がる。
「はぁ……はぁ……」
「次で終わりにしてやるぜ、マイン! そして俺をまた認めて、軍門に下りやがれ!」
マインとパルディオスは互いに距離と取り睨み合っている。
おそらく、マインはあと一撃くらいしから耐えられそうもない。
それはマインの承知の上のようだ。
だからこそ、彼女は先に動いた。
「はん!」
「つぅっ!!??」
マインの渾身の一撃はあっさりとパルディオスにかわされる。
いつも通りマインの体が太刀に翻弄されて、地面から足が離れてしまう。
「千変万化必殺攻撃! 流れに身を委ねろぉぉぉ!!!!」
俺は周りのことなど気にせず、遮二無二そう叫んだ。
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