第32話マインの夜這いを受ける


(突然現れた虫……そして右腕が甲殻に覆われた魔族……間違いない。今日の事態を引き起こしたのはアイツだ!)


 夜、俺はコテージのベッドの上で1人、眠れぬ夜を過ごしていた。


 眠れるはずがなかった。

 だってようやく見つけたのだからーーシオンとサフトを俺に殺させた、仇敵……"右腕が甲殻に覆われた魔族"を。


 常にローブを頭から羽織っていたので顔は知らない。

しかしまた奴が現れたということは、今日のような騒動が起こるに違いない。


 ならばそこへ赴き、奴を倒す。

 人を虫の力によって人を玩具のように弄ぶ最低な輩を。

シオンとサフトの仇を、10年前の俺の犯した罪を償うために……


 そんなことを考えている中、風がふわりと吹き頬を撫でた。

そしてお香のような、懐かしく奥ゆかしい匂いが鼻を掠めてくる。


「マイン? どうかしたか?」


 俺は扉の前に佇む青い寝間着姿のマインへ問いかけた。


「こ、こんな夜遅くに申し訳ございません……お隣へよろしいでしょうか……?」


「お、おう」


 そう答えると、マインは小走りでやってきてベッドの淵へちょこんと腰を降ろす。

 襟から見えた彼女の細い頸に、意図せず胸が高鳴る。


「で、どうした? 何か用事か?」


「……」


「マイン?」


「某如きが大変恐縮なのですが……大丈夫かなぁ、と……」


 マインの小さな手が、俺の指先をそっと握りしめてくる。


「虫に寄生された大男を斬られてから、ここまでずっとトクザ殿は大変お怖いお顔をされていましたので……」


「マイン、お前……」


「汚れ役を引き受けてくださったのですよね? 某達のことを思って……」


 どうやらマインは俺が"人を斬った"ことを気にしているらしい。


「気にすんな。あの時動けたのは俺だけだし。それにあの状態じゃ、結局あの男は助かる見込みがなかったし、アレが最良だったんだよ」


 悩みの理由は違うが、マインの気持ちには応えたいと思ってそう答える。

するとマインはさらに強く、俺の手を握りしめてくる。


「本当にトクザ殿はお強いお方です。実は某……虫の発生源はわかっていたのですが、どうにも人を斬るのが怖くてその……」


「そんなの当たり前だ。誰だって、人を斬るのは嫌だし、怖いって思うのは当然だ」


……10年前、シオンとサフトを斬ることだって俺は散々躊躇った。

現に今でも、その嫌な感触はこの手に残り続けている。


「マイン、お前の剣は人を斬るものじゃなくて、人々を守るもんだ。今日感じた恐怖を忘れずにいてくれると嬉しい」


「はい……今のお言葉、某の心へ刻みます!」


「おわっ!?」


 突然、マインが身を翻し、俺の腰の上へ跨ってきた。

 少し襟元がはだけて、マインの綺麗な鎖骨が目の前に突きつけれる。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


「マ、マイン?」


「お願いです、トクザ殿……某をこのまま……抱いてくだされ……! 某もそれを強く望んでおります!!」


 マインは肩をブルブル震わせながら、そう言い放つ。

なんだがそんな様子が初で可愛らしい。

俺はそんなマインの頬を撫でてみた。


「意外とプニプニしてんだな?」


「えっ? あ、いや……ここ数日少々食べ過ぎなような気がしておりまして……」


「肌もすべすべだし……うん、良い感じ。ずっと触っていたくなる」


「そういうことでしたか……ありがとうございます」


 マインは気持ちよさそうに、俺に頬を撫でられて続けている。

もうそれだけで、この状況が彼女の本気であることがわかった。


「一応聞いておくけど、俺ただのおっさんだぜ? こんな俺で良いのか?」


「ご謙遜されるな! トクザ殿は素晴らしい御仁です! これは某にとって誉でもあります! 貴方と身も心も一つになりたいのです……お願いします……」


「ありがとよ。俺もマインと一つになりたいぜ」


 俺はそっとマインを抱き寄せ、唇を奪った。

 最初は緊張していたマインだったけど、やがて俺に身を委ねだす。


「ぷはぁ……こ、これが接吻……良きものです」


「じゃあ、始めるぞ?」


「はっ! こちらのご指導もよろしく……」


 その時、突然"バンッ!"と扉が開かれた。

そして物凄い勢いでベッドの上へ、サク三姉妹が飛び乗ってくる。

3人はいつものベビードール姿だった。


「うふふ、マインちゃんって、結構積極的だよねぇ……」


「マイマイ、エロエロ」


 キュウとシンはマインの背後で妖艶な笑みを浮かべていた。


「……」


 何故かコンは、俯き加減で肩をブルブル震わせている。


「み、皆さん! これはその! あの……!」


 すっかり動揺しきったマインは俺の上であたふたしている。


「はむっ」


「ひゃっ!? キュウ殿!? 何をいきなり……! んんっ!」」


 マインはキュウに耳を甘噛みされて、息を荒らしくした。


「マインちゃん、敏感なんだね。可愛い……ふふ……」


「キュウ殿……?」


 妖艶な笑みを浮かべるキュウに、マインはドギマギしていた。

ていうか、俺も妙な興奮を覚えたり。

キュウの奴、こういうことになれたのか、随分と妖艶な雰囲気になったな……これも成長スキルの影響か?

性技なんて項目あったっけ……


「さっ、マインちゃん、ゆっくりどうぞ。私たち、見守っていてあげるから」


「どうぇ!? み、見守るって……?」


「大丈夫! 最初は邪魔しない! まずはゆっくり先生と2人きりでどうぞ。わからないことがあったら私達がアドバイスするからね?」


 無茶苦茶慌てているマインをコンが背中から抱きしめた。


「コ、コン殿!?」


「はぁ、はぁ……やべぇ……マイン、可愛いよ……やばいよ……」


「あ、あの、えっとぉ……」


「トク兄との後でいいから、はぁ……あたしとも、あたしとも……!」


「ええ!? そ、それって……」


「なぁ、トク兄良いだろ? なぁ?」


 もうコンは完全にそのモードに入ってるみたいだ。

こうなったコンはもう誰も止められないし、我慢させるのはかわいそうだ。

コンだって俺の可愛い弟子の1人なんだからな。


「マイン、命令。俺とが終わったら、コンとな?」


「め、命令ですか……?」


「本気で嫌だったら撤回するけど」


「マイン……お願いだよぉ……お前ともしたいんだよぉ……! 可愛くて仕方ないんだよぉー!」


 コンは必死に衝動を堪えて、切なげな声を上げる。

 マインはフッとため息を吐くと、コンの頭をそっと撫でるのだった。


「わかりました。こうして皆さんと親しくなれ、トクザ殿の門下生になれたのも、最初にコン殿が某を認めてくださったからです。某でよろしければ、後にお相手いたしましょう……」


「ありがとう! めっちゃ嬉しい!」


「さっ、コン、まずはマインちゃんと先生の時間ね?」


「コン姉、ムーブぅー!」


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 コンはマインから引き剥がされて、ベッドの隅へ追いやられた。


「さっ、先生はマインちゃんとお先にどうぞ! こっちはこっちで、一回コンを諫めておきますから!」


「お、おう助かる……」


「でも、その次はお願いしますね? 私だって欲しいんですから、体力のキープよろしくです!」


「シンもトーさんとくっつきたい!」


 なんかだんだん、キュウの奴こういうことに慣れてきてるな。

頼もしいというか、なんというか……。


「とりあえず……こっちはこっちで初めっか?」


「は、はい! よろしくお願いいたします!」


 俺とマインは再び口づけを交わして、スイッチを入れ直し、始めることにしたのだった。

本当にマインはウブで、いちいち反応が可愛くてたまらなかった。


そして散々マインを楽しんだ後は約束通り、彼女をコンへ引き渡す。


「マイン……」


「コン、殿……はうっ!」


 そのあとは当然、三姉妹も加わって、である。


 3人相手でも難儀したのに、今回は4人……二十代の頃だったら、余裕だったのかもしれないけど……でも、これは贅沢な悩みだと思った。てか、こんな経験初めてなもんで……。



ーーちなみに後日キュウへ『最初は嫉妬してたのに、なんでマインはOKになったの?』と聞いたところ


『マインちゃんは同じ門下生となって、更に先生のことが本気で好きだとわかったからです。私たち、一夫多妻の貴族の娘ですから!』と答えた。


……やっぱり判断基準がよくわからないと思う俺なのだった……。


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