お悩み相談
「どうしてでしょう、今日は何かが始まる予感がする。」
「あら?」
「えっ?」
「これは、珍しい。この世界で誰かに出会えるなんて。」
「…あなたは、誰ですか?」
「失礼しました。私は、牧師をしている者です。」
「牧師……この世界に職業とかあったんですか?」
「あったというわけではなく…あると思ったから、ここに存在していると言った方が正しいですね。」
「どういうことですか?」
「まあ、牧師という職業はあるということですよ。」
「そう、ですか。」
「そうだ!牧師さんなら、いま私たちが抱えている問題に、何かいい助言をくださるんじゃないかしら」
「えっ……でも、今知り合ったばっかだし、いきなりそんな話をするのは…」
「こんなところに三人も人が集まるなんて、きっと何かの意味があるわ。物は試しっていうでしょ?こういう時は行動あるのみ!」
「わ、わかったよ。…あの、出会ったばかりで失礼だとはわかってるんですけど、ぜひ、力を貸して頂きたいことがありまして…。」
「どうしたんですか?」
「私、礼奈っていうんですけど、実はさっきまで、記憶喪失なってて、記憶をなくしてたんです。だけど、これまたついさっきに、思い出したんです。」
「それはよかったですね。それで?」
「そうしたら、元々この世界とは別の世界にいたことがわかって。牧師さんにお話を聞いていただいて、私はこれからどうするべきなのか、何かいい助言を頂けたらと思って。」
「そんなことなら、もちろんお手伝いしますよ。」
「いいんですか?」
「せっかく出会えた人からの頼みを、迷惑だなんて思って断わりませんよ。」
「ありがとうございます。」
「立ち話もなんだし、座りますか?」
「そうですね。」
「分かりました。……えっと、さっそく本題に入ろうと思うんですけど、」
「ちょっと待って、一つだけ質問してもいいかしら。牧師ははどこから、いらっしゃったの。」
「あなたとは、確実に反対の方から来ています、といえばご納得いただけるでしょうか?」
「やっぱり、そうなんですね。」
「どういうこと、コハル?」
「…私とは、まったく逆の方向からいらっしゃたみたいにみえたから……今、ここにこの三人が集まっているのは、ほんとうに奇跡なんだなって思っただけだよ。」
「たしかに。でも、そんなこと、考えてる口調じゃなかっ…。」
「いいの、いいの。とにかく今は、お悩み相談でしょ?。悩みがあるんじゃなかったの?礼奈さん」
「そうだった」
「牧師さんも待ってるじゃない。ほら、速く話して。」
「はあ、えっと、さっきも言ったみたいに、私、記憶のない状態で気づいたらここにいて、そんな時に、コハルが助けてくれたんです。過去探しをしようって。」
「そうだね。」
「ほうほう。」
「そのおかげで、過去を取り戻すことができて、結構つらい過去だったんですけど、コハルに励ましてもらって、気持ちを整理することもできて、」
「うん。」
「だけど、今度は元の世界に戻るかどうかで、今、とても迷ってるんです。」
「どうして迷っているんですか?」
「なんだか、漠然とした不安を感じるというか。」
「ほう。」
「元の世界に戻るのはいいとは言い切れない気がして、今、十分楽しいし、この世界で生きていくのもいいのかなと思ってて。」
「なるほど。」
「牧師さん、私はどうするべきだと思いますか?」
「その質問にお答えする前に、通りすがりの牧師の立場として私からも一つ聞いてみてもいいですか?君たちは神の存在を信じていますか?」
「えっ…」
「…あたしは、信じてるわ。神様は、いつもあたしたちのことを見ていてくれて、守ってくれているんだとうわ。」
「ほんとうにそう思いますか?」
「はい?」
「僕らが苦しい時や、悲しい時、実際に神は助てくれましたか?その存在をこの目で見て、確認することはできないですよね。どんな時でも、私たちは、幻想という形でその存在を感じて、信じていることしかできない。それでもあなたは本当に神を信じていたいと思っているのですか?」
「…たとえ、現れなくても、信じているということが大事なんじゃないかしら。神を信じているということではなくて、私たちが神を信じている私たちを信じているということが。」
「どういうこと?」
「神を信じることで、間接的に自分の思いは正しいんだって、自分のことを信じてあげられるんだと思うの。だから、自分に自身を持てる。自分のことを信じられるって一番大切なことだと思うわ。だから、大事なのは、願い続けているということ。つまり、私は神を信じているわ。」
「すごい、そんな考え方、したことなかった。」
「そうですね。驚きです。」
「いいでしょう。」
「そういえば、あんな言い方するってことは、牧師は神の存在を信じてないんですか?」
「いや、信じていますよ。」
「なら、どうして神のことを信じられないみたいな言い方をしたんですか?」
「私は、神がいて、たとえ彼が世界の理の全てを知っているのだとしても、その中で様々な選択をして動いていくのは、結局、私たち自身なんだなってよく思うんです。」
「というと?」
「行く先に苦しいことや、辛いことがあるとき、逃げるのも、向かっていくのも決めるのは私たちです。しかし、逆に言えば、誰も決めてくれないんです。全てが自分次第。それが本当で、運命、ましてや偶然なんてことも存在しないんです。」
「なるほど。」
「だから、礼奈さん、あなたはそろそろ帰らないといけません。」
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