カコ探し

「そうと決まれば…、まずは、あなたの状況確認から始めようと思うわ。本当に何も覚えてないのよね?」

「うん。さっきから、そう言ってるよ。」

「なら、どうして、私によって、ここに連れてこられたなんておもったの?」

「だって、見覚えのないところで目覚めたと思ったら、あなたが近くにいたから。」

「見覚えがないと思うってことは、この世界はあなたのいた世界じゃないってことなんじゃない?」

「それは、わからない。」

「どうして?」

「初めはここじゃないどこかにいたって感じてたけど、ここはとても居心地がよくて、元からここにいたような気もしてきているから…。」

「そう。」

「コハルは、昔からここにいるの?」

「…そうね。あなたに合うよりもずっと前からここにいたわ。」

「答えてくれるんだね。」

「まあ、いつかあなたにあたしのことを話す時は来ると思うし。」

「今じゃだめなの?」

「今はまだ、はやいと思うわ。」

「…コハルはさ、出会った時から、私に親切にしてくれてるよね?本当に知らない人なの?」

「たとえ、知っている人だったとしても、あなたはあたしを見てても、なにも思い出せないんでしょう?」

「そうだけどさ…」

「そんなことより、過去探しでしょ?あなた、制服を着てるみたいだけど、その制服に見覚えはないの?」

「ほんとだ、制服を着てる。驚くことばっか起こってるから、気がつかなかった。」

「17,8歳くらいに見えるし、学校とかに通ってたんじゃないかしら?」

「学校。……確かに、私、学校に行ってた気がする。」

「思い出してきたみたいね。その学校はどんな場所だった?」

「…高校だった。あんまり楽しいとは思えていなかったような…。今、具体的にどんなところだったか思い出そうとしてるんだけど、頭がもやがかかったみたいになってて……んー、頭痛い。」

「一度、休憩しましょうか。」

「うん。」

「(リュックからペットボトルを出して)お水のむ?」

「いや、大丈夫。ありがとう。」(コハル:リュックにしまう)

「頭が痛くなるってことは、私にとってよくない思い出が待ち受けてるってことなのかな…。」

「そうかもしれないけど、きっといい思い出もあるわよ。」

「そうかな…。」

「そうだ!(ガサゴソとリュックから紙とクレヨンをとり出す。)息抜きに、一緒にお絵描きしましょうよ?」

「いきなり、どうしたの?」

「心理鑑定士の立場からいわせてもらうと、あなたは今、分からないことばかりで、すごく緊張しているんだと思うわ。」

「そうだね、確かにかなり疲れたかも。」

「そこで、心を癒してあげるために、絵を描いてみるのがいいんじゃないかと思うの!」

「どうして、絵になるの?」

「知ってる?絵を書くのって、心を落ち着かせる効果があるらしいの。あなたも、少しリラックスしたら、思い出せることが増えるかもしれないわよ」

「そうなんだ。でも、私、絵なんて描けるかな?」

「うまく描こうとする必要はないわ。ただ、あなたの気持ちに沿って思うままに紙を埋めていくだけでいいの。」

「それが、難しそうだなって思うんだけどな。」

「とにかく、描いてみる!話はそれからよ。」

「わかったよ。(紙をもって床に座る)うーん、何を書こうかな…。」

「たとえば、あなたの気持ちに合わせて色を選んだり、今、あなたの頭にあるぼんやりした記憶のことを描いたりするのもいいんじゃない?」

「なるほど。今、私が感じているイメージを描くのか…。」

「そうそう。(絵を描き始める)………あたし、昔も、すごく仲が良かった友達と一緒に、よくこんな風にお絵かきしてたんだ~。」

「へー、そうなんだ。」

「同じ保育施設に通っててね。絵の授業の時とか、一人だけ遅くなっちゃっても、最後まであきらめずに描き切るような子だった。どんなときでも一生懸命頑張ってたから、すごくかっこよかったわ。気づいてないみたいだったけどね。ちなみにその子の名前は…。」

「礼奈。」

「えっ?」

「あっ、…私の名前。」

「思い出したの?」

「…うん。…私も、絵を描くのが遅かったなって思い出して、そうしたら一気に記憶が流れ込んできて…。」

「どれくらい、思い出したの?」

「…高校の時のことと、私の名前、かな。」

「良かったわね。」

「………うん。」

「あんまり嬉しそうじゃないのね。」

「………いい思い出じゃなかったから…。」

「そうなの?でも、大丈夫よ。あなたならきっと受け止められ…」

「やめて!何にも知らないくせに、てきとうなこといわないでよ。」

「…どうしたの?礼奈。」

「どうして、そんなに他人に優しくしてくれてるの?わたしなんか…無事に第一志望の高校に入れだだけで、勉強に、部活に、生活にって、何をやっても中途半端。自分のことで精一杯だったのに!将来を見据えたことをしろっていわれたけど、そんなのわかんないし!頑張るしか脳がなくて、頑張ってもうまくできない私が、私は大っ嫌いだったんだ!!それで、自分なんて消えてしまいたいと思ったから記憶喪失になった!私なんて、こんな弱い人間なんだよ。」

「そんなことないよ、礼奈は頑張ってきたんでしょ?すごい人だよ。」

「頑張ってるからすごい?そんなの、結果がともなってなきゃなんの意味もない。どうせ、頑張ってる過程を、その人自身のことを、認めてるってわけじゃないんだよ。」

「認めてないのは、礼奈自身なんじゃない?」

「えっ?」

「自分に自信が持てなくて、自分に価値なんてないんだって、その考えを持ってるのはのは礼奈でしょう?自分には何もできないって決めつけて、かけてきた努力を、自分を認めてあげていないのはあなた自身よ!」

「…それでも、ずっと苦しかったんだ。なりたい自分になれない私が……。ねえ、コハルはどうして、そんなに他人に優しく、明るくいられるの?どうして、そんなに前向きにに物事を考えられるの?どうして、私はそうなれないの?…どうして、私に過去探しをしようなんて言ったのよ?どうして?…どうして?」

「…そうね。あなたは、ずっと、苦しかったんでしょうね。誰にも話せない思いを、こんなにも抱えて。……だけど、礼奈は礼奈が思っているよりずっと強い。過去から目を逸らし続けずに、向き合おうとしてる、あなたは本当にすごい人だわ。今まで、よく頑張ってきたわね。」(礼奈の背中をさすりながら言う)

「…ごめん、ひどいこと言った。」

「いいわよ。落ち着いた?」

「うん。ありがとう、なんかすっきりした。」

「そう、それならよかった。」

「不思議だな。あんなに誰にも言えない悩みだったのに、コハルにはこんなにもすぐに話せちゃった。」

「あたしたちも、ついに真の友達になれたってことかしら。」

「そうかも。」

「それよりも、あなた、高校に行ってたって言ってたわよね?それは、この世界にある高校なのかしら?」

「…いや、違うと思う。たぶん、この世界じゃない。」

「なら、あなたはやっぱり、別の世界から来てたのね。」

「うん、そうみたい。」

「どうする、これから?」

「どうするって?」

「まだまだ、思い出せていないことも多いけど、ここの世界じゃないところからきたのなら、元の世界に帰ったほうがいいんじゃない?」

「そうか…確かに。」

「元の世界の、家族や友人が心配してるかもしれないわよ。」

「うーん。私、どうすればいいんだろうね。」

「あたしに聞かれても。」

「うーん…。」







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