謳うは甘き愛の詩
「待って龍馬はん、今好きって言いはった?」
「ああ。」
もう何を考えればいいのかわからない。頭の中が混乱していうべきことと言わない方がいいことがわからなくなっていた。
「その、本気?」
顔を赤らめてシノはそう言った。俺ももうすでに気づいている。やってしまった。
ただ、走り出した暴走機関車は急には止まらない。
「俺は信乃が好きだ。」
そう。それだけだ。どうでもいい人間はただあしらうだけ。そしてとっとと消えるのを待つだけだった。ただ、シノは違った。何度あしらおうと俺にここまで構ってくれた人間だった。まるで友達かのように。境遇も似たところがあり、俺はそんなシノに好意を持っていた。必然的なことだろう。
せっかく手に入れた時間だ。俺のやりたいように使わせてもらう。
ふう
息を吐き、もう一度噛み締めるように言った。
「俺は、信乃が好きだ。」
「あ、あの…もうええわ、いわへんで…」
頬を小さな手で包み、漫画で表現するなら湯気が出るような赤い顔になっている。
「う…うち、どないすればええん?お付き合いとかようわからへんねんけど…」
手に入れた時間を有効に使わなければならない。やりたいことをやって、シノを救って、その先は特にプランはないが、この7日で色々やらなければならない。その焦燥感に襲われていた。
「龍馬はん今何かしらすごーく混乱というしてるやろ。少し頭冷やしてらっしゃい!!」
怒って顔を真っ赤にしているのか照れているのかもうわからない。それに、シノよ言う通り、一度頭を冷やすべきなのだろう。
「少し、ベランダで頭を冷やしてくる。」
俺が体験した時間で言えば約2日前でしかないのにベランダで見た星空が懐かしく感じてくる。今は星さえ見えずとも、すっかりと明るくなった周辺や澄んだ空、程よく吹くそよ風が少しだけ冷静に戻らせてくれる。
大きな息を吐き俺は改めてこう思った。やってしまったと。ぱっとみ頭のおかしいやつに告白されて、シノはどんな気持ちなのだろうか。
「りょーまはーん。冷蔵庫漁るなー」
でかい声でそう言うシノ。何も気にしていなさそうで何よりだ。
さて、そろそろ部屋へと戻るか。
部屋に戻り真っ先にデカい声でこう言った。
「冷蔵庫好きにしていいからな。」
そしてノートを手に取り考える。
考える過程でまたシノが書いたと思われる日記を見た。よく見ると裏から筆圧がかかっている。まだ日記があるのか?
そしてページを捲るとやはり何か書いてあった。
『7月8日
明日はリョウマさんの誕生日なので今日は午後から何かしら買いに行きます。
ただ、動きたくないので朝から昼にかけては日記書いたりテレビ見たり何か飲んだりします。
それより昨日見た星空も記録に残しておきたい。すごく綺麗でした。今まで見た中で一番。また何かあれば追記します。』
当たり障りのない日記。ただ、やはりあの時のことが記されている。
そしてノートを閉じ、シノの元へと行く。
「龍馬はんの冷蔵庫ほぼなんも入ってへんかったわ〜」
「ドクターペッパーくらいはあっただろ」
俺はドクターペッパーが好きだ。だから常に冷蔵庫にはいくつか入っている。
「いや逆に言えばそれしかあらへんかったで?」
そうしてなんとなく気まずくなった空気。話終わったから話すことなくなったみたいな空気だ。俺には一生関係ないと思っていたが、ついにその空気を味わう時が訪れた。
「さっきの話なんやが…」
シノが口を開いた。
「本気なん?」
「ああ。俺は信乃が好きだ。」
「その、こういうのって返事って欲しいもんなん?それとも言いたかっただけ?」
「可能ならいただきたいが…」
俺は何を言っているのだろうか。馬鹿らしい。何が可能なら、だ。欲しいに決まっているだろう。今後の七日のためにも。
「さっきのノートに返事書いといたから、後ででも読んでおいてや。」
「今読んでくるよ。」
耐えきれなかった。金メダルが目の前に吊るされていて手を伸ばさないわけがない。
すぐに自分の部屋へ行き、ノートを開いた。1ページ捲るとすぐにそれは現れた。
さっきの日記の隣のページにも何か書いてあった。
殴り書きのようだが、やはり読みやすい。
『私はどうすればいいのでしょうか。私の報われないと思っていた恋は実るのでしょうか。私は何があろうと彼が好きです。だからリョウマさんにその意思があるなら、彼を愛して愛されたい。』
そこに記されていたのは、シノが謳った甘き愛の詩だった。
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