Episode 23 傍にいる存在
事件の大方の説明を終え、事前報告の通り対応の話へと内容は変わっていく。
「今後、事務所と致しましては新たな対策を増やしていく所存ではございますが、先に周囲の住民に対して話をすることもタレントにさらなる身の危険を徹底させるようなこともトラブルの一因になりかねないと考えております。
特にストレスにより健康状態が危ぶまれる可能性があるからです。そのため詳しくお話しすることはできませんが、これまでとは全く違う形で身の安全を限りなく100%に近い状態に維持できるよう努めて参りますので何卒よろしくお願い申し上げます」
何よりタレントファーストである姿勢は忘れず、代表としての姿を正しく見せられているのではないだろうか。
「また、此度の責任問題におきましては代表取締役である私の給与やボーナスのカット、その分を皆様に還元できるようなイベントの開催、またそのためにRURIと多くの打ち合わせの場を設け彼女の要望を数多く叶えられるよう全力を持って対応させて頂きます」
「詳しくはこの配信後、公式HPやSNSにて掲載させて頂きます。続きまして今後の活動についてRURI本人からのご報告となります」
何より今この配信を開いている人間の多くが知りたかったことだったため、チャット欄は先ほどの新たなイベントの情報と合わせて盛り上がりを見せている。
一部マネージャーにも同等の処罰をという声が上がってはいるが新たに生まれたファンの波に飲まれてその勢いは静まっていった。
「まず初めに謝らせてください。もっと早く皆様に声を届けられなくて本当にごめんなさい。
いち早く皆様に私の元気な姿をお見せしたかったのは山々なのですが、あの日以降未だ癒えきれぬ傷痕が残っているために恐怖という感情が拭えないんです。ただ、この仕事を辞めたいなんてことは一切考えていないのでその点はご心配なさらず。
今はその傷を完全に治すためにも、あの日誰よりも早く私のもとに駆けつけ、ドアの前で暴れる犯人に躊躇なく立ち向かってくださったマネージャーさんとの関係を維持することが、何より必要だと感じています。先程もお伝えしましたが、私の心を支えてくださっていた方は何ものにも代えがたい存在となっています。
ですので、今後もこれまでの体制を継続したまま皆様と再び交流出来ることを目指していきますので、ご理解頂けますようお願い申し上げます」
この言葉が将太郎への罵詈雑言を一蹴し、さらにはここまで彼女の一番の力になっていた者として褒め称える言葉さえ出始めた。
結局はファンにとって大事なのは瑠璃香本人が安心できる居場所があるということ。それがこの事務所であり、そこに属しているマネージャーに心を委ねているのであれば自然と文句も少なくなっていくというもの。
もちろん、今は若いから騙されているだとか無理矢理言わされているという声もあるにはあるが、それはあくまで妄想に過ぎない暴論と変わらない。耳を傾ける者は殆どいないだろう。
「それから…………やっぱりファンの皆からもらえる励ましの言葉だったり、期待してくれている言葉は凄く力になるからこれからも応援してくれると嬉しいな」
満点の笑顔だ。
これまでの堅い雰囲気を壊すぐらいの力を持つその表情に視聴者も期待通りのコメントをどんどん残していく。
この勢いが収まる前に締めの挨拶として社長が短く挨拶を済ませた後、最後は二人で一礼をして配信は終わった。
その後二分、三分は瑠璃香への温かいコメントがひたすらに並んでいたことから今回の配信自体はうまくいったと言えるだろう。
「お疲れ様」
「あー、緊張したー」
張り詰めていた空気から解放された彼女はすぐにカメラに映らない場所から進行役としていた将太郎の元に寄って抱きついた。
「本当、頑張ったね」
胸に顔を当てて幸せそうな笑みを浮かべている彼女の頭をゆっくりと撫でて労う。
先輩と社長もコメントの雰囲気から現状はうまくいったのではないかと喜んでいる。
実際、これまで話したことに嘘偽りはなく、これから情報が世に出たとしても信頼が上がることはあれどその点で下がるようなことはないだろう。
将太郎は一度瑠璃香を離して社長たちの元へ向かい、二人して頭を下げた。
「本日までどうもありがとうございました。これからもどうぞよろしくお願いします」
「お願いします」
「頭を上げてくれ。私だって君たちのことを守ってやるのにここまで時間が掛かって申し訳なかった。瑠璃香が将太郎くんに好意を抱いていたのは気付いていたがどうも良い案が浮かばなくてね」
「ちょ、ちょっと待ってください。この二人付き合ってるんですか?」
そのことに関して何も知らされてこなかった先輩は目を丸くして驚いている。それについさっきまで行われていた配信のことを思い返してある事に気が付いた。
「もしかして、瑠璃香の言ってたこれまでの体制を継続していきたいってやつ、将太郎との同棲を続けた上で口出しされないようにってこと?」
「もちろんです。離れたくなんてないですし、他の若い子の担当も正直して欲しくないですし。私だけって言うと重いかもですけど、ずっと一緒にいれたらなって私は思ってますよ」
「将太郎は?」
「それはもう……ねぇ?」
一回はぐらかした彼の脇腹に強めのパンチが一発。ちらと隣を見れば頬を膨らませるような可愛さの欠片も無くただ見つめてくる瑠璃香の瞳。
さすがにこれは違うかと彼も咳払いをして再度答える。
「僕も瑠璃のことを愛してますよ、先輩には怒られてしまうかもしれませんけど。これからもずっとこの関係でい続けられるよう頑張っていくつもりです」
「いやぁ……なんか凄いことに俺巻き込まれたんすね、社長」
「ハッハッハ、まあいいじゃないか。このまま成功で終えられたら君の立場も変わるかもなんだからね」
「それ本当ですか!?」
先輩が簡単に社長に言いくるめられている姿を見て二人は笑い、社長たちの表情も喜びで満ちている。
この空間には紛れもなく幸福のエネルギーが溢れていたことだろう。
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